第104話 異世界のキジムナー
進路を防ぐように、黒いまだら模様で体高が5mほどのイカが現れる。
それを見た
「太めの胴体に短めのゲソ。あれは
「シバ、あれ
「
海上での戦いは初めてなので、どう戦うかの脳内シミュレーションをしていると、
「ここは任せるアル。
その時、
気配を感じ取った
「っはーーーーー!」
間近に迫っていたイカ墨は、
海面に落ちたクブシミマジムンに休む暇を与えずに、萌萌がもう一度同じような攻撃をすると、クブシミマジムンの
「これで
「思った以上だったよ。今のは風のように見えたけど、どんな技なんだ?」
「萌萌の国では体を巡る気を力に変えて戦うね。今の技は
話を聞く限りだと、気というのは琉球で言う
琉球ではセジを火や水に変換して攻撃することが多いが、気での戦い方は気そのものを放ったり、直接の物理攻撃で流し込んだりして、敵の外部と内部にダメージを与えるらしい。
属性無しの攻撃なので敵の弱点を突くことはできないが、火や水を再現する力の分が威力に加わるので強力のようだ。白虎の
琉美は萌萌の手を握って異常に喜んでいる。
「
「そう言っていただけて、嬉しいアル」
その後は順調な航海だったおかげで、15分ほどで
白虎を巨大化させ、
「まずは、ナビーとシバがキジムナーを呼び出して、協力してもらえるように説得しなさいね。これが一番の難関じゃから、
「
「そんなに期待されても、困るなー」
俺とナビーは皆と別れ、薄暗くて隠れることができる場所を探した。
地面に円を描き、その中に小麦粉をまく。その中心に火を灯した線香を立てて呪文を唱える。
『
呪文を唱え、物陰に隠れて20数える。
すると、線香の煙がモクモクと広がり、青白く光ったので、まぶしくて目を閉じてしまった。
「ここは、どこだ……」
ゆっくり目を開くと、向こうの世界のキジムナーと瓜二つのキジムナーが現れた。急に召喚されて困惑している。
俺は少し観察して、この世界のキジムナーがどれくらいの脅威がありそうかを確認したかったが、ナビーは直ぐに接触を試みてしまった。
「キジムナー、
「お前がオラを呼んだのか?
「待って! 話を聞きなさい!」
ナビーは両手を上げて敵意がないことを示したが、キジムナーはガジュマルのひげを伸ばしてナビーを拘束した。
聞く耳を持たないと思ったので、戦う覚悟を決める。
「ナビーを解放してくれ! 俺たちはお願いがあるだけだ!」
「お前も……
キョロッとした眼球をこちらに向けたと思ったら、ガジュマルのひげの槍が次々と襲ってきたので、セジオーラを発動させて逃げ回る。
その時、拘束されたままのナビーがテレパシーで指示を出してきた。
「まさか、ここまで話を
「セジを流すって……もしかして、あれか!? 俺のセジは在来マジムンたちの好物みたいだから、それを頼りにしていたってことか?」
……はずっ。キジムナーの事で俺を頼りにしてたのは、強くなったからではなく、こういうことだったのか。
俺はさらにスピードを上げて、キジムナーとの距離を一気に詰める。攻撃をかわしながら背後に回り、背中にサッと触れてセジを流してから、効き目がなかった時のことも考えて、念のために急いでその場を離れた。
拘束されたままのナビーを庇うように立ちふさがり、息を吞むようにキジムナーの反応を観察する。
「後ろ!」
ナビーの叫びで振り返ると、ナビーを絡めていたガジュマルのヒゲの一部分が伸びてきて、目の前で止まった。
「おおおおおおおおお!」
今度はキジムナーの叫び声がしたので振り返ると、反応できない速さでキジムナーに抱き着かれた。
「セジ、セジをくれ! セジをくれ!」
「
……アル中みたいに言うなよ!
解放されたナビーは1人で喜んでいるが、俺は力の強いキジムナーを振りほどけないままだ。
「落ち着いて、1度離れてください! 痛いです!」
「わかった、離れる」
すると、ナビーはキジムナーの前で仁王立ちをして、威張りながら交渉を始めた。
「キジムナーさんよ、そんなにシバのセジが欲しいか? ふん、欲しいだろ?」
「シバ、シバのセジ、美味い、気持ちい。もっと、もっと欲しい」
「そうだろ、そうだろ。でも、キジムナーは私たちに攻撃を仕掛けたさー? それなのに、セジが欲しいというのは虫が良すぎると思わないねー?」
「オイラ急にここに連れてこられた。驚く、警戒、だからしょうがなかった」
「それは……あの……」
ナビーは正論を言われて急に口ごもり、俺に助けを求めるように見つめてきた。
「急に呼び出したのは申し訳ない。だから、その分の報酬として俺はこの特別なセジをあげたんだよ」
「そうか、それならそのことは許す。でも、もっと欲しい。どうしたらくれるのか?」
「俺たちの手伝いをしてくれれば、その報酬として俺のセジを上げることはできるけど、どうする?」
「それで構わない。オイラができる事なら何でもする」
「それじゃあ、よろしくな。友達になった記念に、特別に少しだけ」
キジムナーと握手を交わしながら少量のセジを流す。
「おう……いい、すごく……いい」
気持ちよさそうにしたキジムナーの手を離すと、儀式で書いた円の前に行って立ち止まった。
キジムナーがその円に手をかざすと、円が青白く光って空中に浮かび上がり、それを俺の身体に押し付けた。
「これで、いつでもオイラを呼び出せる。何かあったら呪文だけ唱えてくれ」
体は何ともないが、得体のしれない物を入れられた感じで少し気持ち悪い。
「わかった。じゃあ、とりあえず仲間の所に連れて行くけど、大丈夫?」
「ああ。シバの仲間なら問題ない。だけど、一旦帰らせてほしい。オイラの仲間、オイラが消えて心配している」
「わかった。じゃあ、しばらくしたらまた呼ぶから」
うなずいたキジムナーは、俺をめがけて飛び込むと、身体に入り込んだかのように消えてしまった。
「はっ! これって体に入ったのか?」
「これは、シバに施した儀式の円が、もともと居た場所を繋げるゲートってことかもしれないねー。でも、これで強力な協力者ができたさー」
体に影響がないのなら気にするだけ無駄なので、ここは便利になったということで喜んでおくことにした。
そして、落ち着いた今、1つの疑問が生まれた。
「1つ気になったけど、あっちの世界のキジムナーとこっちのキジムナーって、どっちが強いのかな?」
「多分、こっちのキジムナーなんじゃないかねー。この世界はあっちよりも
俺たちの世界のキジムナーでも相当強かったのに、それ以上の強さだと知って、何事もなかったことに感謝した。
「ナビーはキジムナーが危ないってわかってたのに、何で強気で交渉始めたんだよ?」
「いくらこの世界のキジムナーが強くても、今のシバの強さと中毒セジがあれば大丈夫って思っていたからさー」
「そ、それなら最初から言ってくれよ。ナビーはもう、しょうがないんだからー」
ナビーが俺の強さも頼りにしていたと知って、嬉しくなって表情が緩んだ。
それを見たナビーの口角が上がったのを確認した。
……あれ? 俺って踊らされている? ちょろいと思われてないか?
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