第90話 軍の強化
城の外に招集していた
何となくイメージしていた半分の人数だったので、思わずナビーに迫ってしまう。
「いくら何でも少なすぎるだろ!?
「ほとんどの兵は首里城に移ったからしょうがないさー。だから
まさか、ここまで深刻だとは思わなかった。
そして、自軍の数を目の当たりにして少し不安ができた。
「150人しか兵がいないのに、大和の侍を300人受け入れているって、一歩間違えればどうなっていたかわからないな」
「
「なんで言い切れるんだよ?」
「琉球が
大和は
大陸の上質な品が欲しい大和は、明と頻繁に交易している琉球との関係は壊したくないのだ。
「それなら、琉球側が大和に何もしない限りは大丈夫ってことか。それを聞いて安心したよ」
「今はそんなことより、早く声をかけてあげなさい」
ナビーに言われて、すぐそこに兵を待たせていたことを思い出した。
「でも、なんて声かければいいか……」
ナビーはため息をつきながらも兵の前に立って注目させた。
「琉球各地で戦ってきた私が宣言する。浦添軍は琉球で1番
……言ってねーよ!
ほとんどの兵は真剣な表情で話を聞いているので、声に出すことはできなかった。
その時、40代くらいの兵士が声を上げた。
「すまないが、
そう思う人がいても無理はない。
この世界に来て今まで琉球各地の戦に参加していたが、
「
「いくら何でも馬鹿にしすぎで……わかりました。ナビーさんが言うのなら本気で行かせてもらいます。中二按司、恨むなら提案したナビーさんを恨んでくださいな」
「いや。恨む恨まないの前に俺の意見は?」
通るわけがなかった。
ナビーは無言で他のノロたちを連れ、兵たちに
戻ってきたナビーに一応文句を言っておくことにする。
「いくら何でも勝手に決めすぎだろ! それに、反発してきた人を力でねじ伏せるのはよくないんじゃ?」
「何言ってるか! あの
「ナビーはあの男に怒っていたんだな。わかった、そういうことなら
150対1で向き合うと、先頭に立っていたあの男が声をかけてきた。
「王城が首里城に移った時にほとんどの兵も移ったが、浦添を守りたいと強く願った者はわずかながら残っている。なめてかかると痛い目にあいますよ」
ナビーが間に入りルール説明を始める。
「浦添軍は最後に1人でも立っていれば勝ち。中二按司は先頭不能になった時点で負け。殺さない限り何でもありだからお互い全力でやりなさい」
ナビーの指笛で開戦の合図となった。
1人1人の強さを確認したいが、150人となると大変なのでふるいにかけることにする。
一斉に向かって来る軍勢に
さらに向かって来る110人にティーダボールを放ち80人脱落。
残った30人は馬鹿みたいに突っ込むことをやめて隊列を組み、俺を囲むように円を作った。
……この30人が浦添のために残った兵ってことかな?
「
2人で行うよりも威力が落ちる火災旋風4つで襲うと、あの男以外みんな倒れた。
男はこの状況でも刀を向けて戦いの意志を示してきた。
「これほどとは。中二按司の強さ、認めざるを得ないですね。
「阿波根さん。あなたはこの軍で一番強いみたいですね。これから期待しています」
俺が
「
阿波根の刀を弾き飛ばし首元に刀を向けると、ナビーの声が響いた。
「そこまで! 勝者、中二按司!」
阿波根は立ち上がると深く頭を下げてきた。
「中二按司、
「俺は特別でしたので気にしないでください。1からナビーに戦い方を教えてもらったり、変な言い方ですが敵にも恵まれて強くなれただけなんですよ。でも、これまで色々な戦いをしてきたので、その経験をもとに浦添軍を強化していければと思っているので期待して欲しいです」
「
「え!? マジムン襲ってこないんですか?」
「はい。浦添を襲ってくるマジムンのほとんどが大和の者でしたので、これまでは
浦添軍は戦の経験が圧倒的に少ないせいで弱いみたいだ。
それよりも、こんな重要なことを初めて聞いた。
「おい、ナビー。そういうことは先に教えてくれよ!」
「私も初めて聞いたさー。浦添の情報だけは全く耳に入ってこなかったからよ。でもさ、何で為朝はここを襲わないのかね?」
俺も同じことを思った。
そもそも、為朝は琉球と大和の対立を望んでいたのだから、その場にマジムンがいると作戦に響くと考えて自軍を浦添に近づけないようにしていたのではないかと予想できる。
俺の予想に共感したナビーが神妙な面持ちになった。
「作戦が失敗したと分かれば、他の
すぐにでも修行を始めたかったが、倒れた兵の回復に時間がかかるので明日から始めることにした。
次の日の朝も畑仕事の後に軍を招集した。
昨日の晩に考えた強化メニューに沿って修行を始めていく。
ナビーは口出しはしないが、協力だけするらしいので少々不安だ。
「いきなりですみませんが、これから1人1つずつヒンプンを壊してもらいます。皆さんの攻撃力を見たいので本気で打ち込んでください」
ナビーは俺を見ながらニヤニヤしていた。
「なんだよ? 真似してもいいだろ」
「別に。ただ懐かしいなーって思っただけさー。はい、早く始めるよ」
俺とナビーでヒンプンシールドを設置すると、20人が横並びに攻撃を始めた。これを全員が壊すまで繰り返す。
こうすると、誰が早くて誰が遅いのかがはっきりわかる。
昨日の戦いで最後に残っていた30人に加え、力自慢の40人は難なく壊していたが、残りの80人は時間がかかっている。
この30人は攻守のバランスが良いので、特別何もしなくてもいいだろう。
しかし、力自慢の40人は俺の攻撃で簡単にやられていた者たちなので、総合的に見れば強くはない。
更に遅かった80人の中で下から40人はどちらも弱いことになるが、伸びしろが一番あると言える。
「昨日の戦いで最後まで残った30人は十分に戦える方たちなので、そのまま突き進んでください。そして、この30人と同じくらい攻撃力があると確認できた40人ですが、防御は考えないでいいです。さらに力を付けていきましょう」
兵たちはポカンとして俺の話を聞いているが、阿波根は疑問を投げかけてきた。
「中二按司。防御を考えないでいいというのは、どういうことだ! 特攻隊にでもさせるつもりか!?」
「そんなバカげたことしません! 戦は1回で終わるものじゃないのに、ただでさえ少ない兵を減らすわけないですよ。この40人には防御を請け負う40人の盾役と2人1組を組んでもらうつもりです」
「それをきいて安心しました。それでは、残りの80人から上位40人が盾役ですかね?」
「逆です。下から40人を盾役にします。盾役にはこのヒンプンシールドを覚えてもらうのですが、ヒンプンを硬いと認識している人ほど硬いヒンプンを作ることができるので、苦戦した40人が最適なのです」
ナビーが横でいらんことをつぶやく。
「伸びしろですねー」
「ふっ!」
『……』
俺の吹き出した音だけが響いて辺りはシーンとした。
阿波根が話を続けてくれた。
「そこまで考えていたとは……
「残りの40人は、シーサー隊を作りたいと思っています」
絶賛されると思っていたが、なぜか不穏な空気になった。ナビーも含めて……
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