第87話 中二按司
目を覚ますと、カンカンの太陽に照らされていてすごくまぶしかった。
俺は寝ている間に首里城の家から移動させられており、
すぐ目の前には、大勢の兵士や民が集まっていて一斉に声を上げ始める。
『
「これは……何が起こっているんだ?」
混乱していると、ナビーがやってきた。
「新しい
「急に言われても困るんだけど! 寝起きで頭が回らないし、こんな時何を言えばいいんだよ?」
「
考える時間もないままこの場に立たせたくせに、無茶を言うなと言いたい。
しかし、浦添の民は期待に満ちたまなざしを俺に向けているので、何か言わなければ示しがつかないだろう。
「あっ、えー、今日から浦添の
『……』
「えー、私は主に戦いの面で期待されていると思っていますが、
『……』
「えー、最後に、私は軍の強化を最優先にと考えていますので、これから鍛えていきたいと思います。兵士の皆さん、一緒に強くなりましょう。これにて
静かに聞いていた民は、一斉に拍手や指笛で盛り上がると、頭上に拳を突き出して恥ずかしいコールをし始めた。
『中二
「やめてくれーーーーーー!」
隣で立っていたナビーと目が合うと、ニヤリと口をゆがませた。
「やっぱりナビーが仕込んだんだな! 恥ずかしいからやめさせろ!」
「
……そういえば、ナビーは中二病がカッコイイものって感覚の人間だったな。
それからも、中二
落ち着かない立派な玉座に座り、一旦落ち着くと、大事なことを思い出した。
「そういえば、琉美と話している最中に寝てしまったんだった。琉美はここにいないみたいだけど、どこに行ったんだ?」
「琉美はカマドおばーに弟子入りして旅に行きよったさー。しばらくは戻ってこないから、あたまに入れておきなさいね」
「弟子入り? たしか、自分が足手まといだとかいって悩んでいるみたいだったな。まったくそんなことはないのに」
「琉美は私たちと肩を並べて戦いたいって言っていたさー。強くなりたい
たしかに、強くなりたいと思っている人にそのままでいいという人は、無責任な邪魔者でしかない。
俺自身もそんなこと言われたらムカつくかもしれないと思った。
……でも、あれだな。琉美が修行して帰ってきたら、本物のバケモノになっていそうで少し怖いな。
その時、1人の兵士が大急ぎで正殿に入ってきた。
「中二
「ちょい待て! なんだよ中二
「え? 昨日、ナビーさんがそう呼称するようにと指導されたのですが」
ナビーがごまかすように声を上げた。
「そんなことより、早く報告しなさい!」
「はっ! 先程、
「わかりました。先に片付けてくるので、軍を率いて追いかけてきてください」
「
俺とナビーは白虎に乗って一足先に
白虎から降りると、ナビーは持っていた
「シバ。わかっていると思うけど、なるべく傷つけないで倒しなさいよ。
「うん。俺も
「無理は
俺とナビーは一斉に侍に突っ込んで行ったが、何かがおかしい。
というか、おかしくなかった。
「待ってシバ! こいつらマジムン化していないさー!」
一旦足を止め、落ち着いてよーく見てみると、確かにマジムン化していない普通の人間のようだ。
「良かった。
「
戦わなくていいと分かり、警戒を解いて近づいていくと、一斉に囲まれてしまう。
隊のリーダーなのか、あごひげの立派な男が刀を俺たちに向けて怒号を上げた。
「琉球の者よ。交易相手であるにもかかわらず、我ら大和の使いの者を何人殺してきた!?」
「落ち着いてください! 私たちは大和と争う気はありませんし、侍たちは無事に保護していますので安心してください」
「嘘をつくな! これまで300人ほど琉球に送ったんだぞ!? みんな無事なわけあるはずがないだろ!」
ナビーが1歩前に出た。
「とりあえず刀を納めてください。見ての通り、私たちは武器を持っていないので、恐れる必要はありません。それに、数分後には私たちを追って軍がやってきます。今は落ち着いて、話し合うのがお互いの為でしょう」
……刀を持たないで良かったな。
その時、白虎がものすごい勢いで走ってくる気配を感じたので、大声で制止させた。
「とまれ!」
速すぎて止まれなかった白虎はジャンプをし、俺たちの頭上を越えて着地した。
いきなり現れた大きなシーサーに驚いて、数人の侍は腰を抜かしている。
安心させるために白虎には距離を取ってもらった。
「私たちを襲わないのでしたら何もしません。今はとりあえず、私たちの城まで足を運んでもらえるとありがたいです。保護している侍の方々も待っていることでしょうし」
あごひげの侍は刀を
「皆、刀を納めろ。もし、この者らが言っていることが確かなら、逆らえば我らはただの悪者になってしまう。今は信じてゆくしかない」
「あなたが
「ちょい待て! 勝手にミドルネーム足すんじゃねーよ! しかも中二ってダサすぎるだろーが!」
あごひげの侍は地に膝をついて頭を下げてきた。
「
「白虎は飼っているのではなくて、仲間です。それに、言っておきますが、私よりそちらのナビーが強いので、気を付けたほうが良いですよ」
『……』
「はっはっは!」
沈黙の後、誰かが笑った。
多分、俺が冗談を言ったと思ったのだろう。
しかし、その笑い声も直ぐに消えてしまった。
後から追ってきた浦添軍100がぞろぞろとやってきたのである。
「あ、あなた方のお話は嘘ではないみたいですね……うちの部下が笑ってしまい、申し訳ございませんでした。あの時襲っていたらと思うと、今になって恐ろしく感じます」
軍の事をハッタリだと心の内で思っていたのか、少しおびえて見えた。
「威嚇みたいになってすみません。あの軍はここに戦いに来たわけではないので大丈夫ですよ」
「いいえ。恐ろしいのは軍ではなく、あなた達2人の事です」
ナビーがニコニコしながら言った。
「それも大丈夫さー! もし襲われたとしても、返り討ちで全員気絶させればいいだけだったからねー」
……この作り笑いの感じ、さっき笑われたの怒っているな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます