第43話 最悪の敵

ムチグスイムチ薬!」


 ステータスを確認したとき、俺とナビーはムチで背中を打たれると、HPが回復した。


「2人とも、HPは気にしないでガンガン行っちゃって! 絶対に切らせないようにするから!」


 琉美の言葉を聞き、ナビーとアイコンタクトをとって、再度攻め込むことを確認した。

 バラバラになって飛んできた石垣ゴーレムの石が元に戻り、腕が再生されている。

 それから、もう一度石をとばしてきたので、よけながら距離を詰めていく。


『ヒンプンシールド・イチチ5つ!』


 俺は左側、ナビーは右側に階段をつくって駆けあがりながら、石垣ゴーレムの真上まで来た。

 ナビーが持っていた石で、イシ・ゲンノー石ハンマーを発動させて振り上げたのを見た俺は、飛びながらそれに手をえてセジをめると、石が敵と同じくらいの大岩になった。


ウフイシ・ゲンノー岩ハンマー!』


 2人の腕の先に付いた大岩を石垣ゴーレムの頭上に振り落とすと、全身のパーツがバラバラになった。

 その中からヒンガーセジ汚れた霊力があふれてきて、黄金勾玉クガニガーラダマに吸収されたので思わず言ってしまう。


「やったか?」


「えー、シバずるい!」


「言いたくて言ったわけじゃないんだけどな。なんか自然と言ってしまったというか……」


「危ない!」

『うわああああああ!』


 俺とナビーがどうでもいいやり取りをしていると、琉美が長いムチで俺たちを絡ませて引っ張り、石垣ゴーレムから遠ざけさせてくれた。


「見て、また元に戻っているよ」


 琉美にうながされて見てみると、腕が再生されたときと同じように、からだ全体が元のゴーレムの形に戻っていた。


「あい! 戻ってはいるけど、ぐなぁ小さいになってないか?」


 石垣ゴーレムは、よく見なくてもはっきりとわかるくらいコンパクトになっている。


「5mくらいから2mくらいの高さになっているから、だいぶダメージ与えられたんだろうな。でも、ヒンガーセジ汚れた霊力が出たのに、何でまだ倒せていないんだ?」


「よく見たら、あの石、1個1個がマジムンみたいさー。それが合わさってゴーレムになっているからだわけよ。でも、それが自分勝手に戦えると思えないけどね……」


 その時、小柄になった石垣ゴーレムがものすごい速さでこちらに走ってきた。


「シバ、なーてぃーちもう一回あれやるよ」


 ナビーはそう言うと、左手にカジマチつむじ風を準備して構えていたので、やりたいことを理解した。

 ナビーを狙ってタックルしてきた石垣ゴーレムを引き付けると、ナビーと一緒にアースン合わせ技をした。


火災旋風かさいせんぷう!」


 炎の竜巻に襲われた石垣ゴーレムは、強風で上空に引っ張られるとバラバラになる。

 しかし、ヒンガーセジ汚れた霊力が出てこないので、俺とナビーは気を抜かなかった。


「シバ、白虎、こっちに! ヒンプンシールド・イチチ5つ!」


 みんなでナビーの作った屋根の下に集まると、個々のマジムンになった石が俺たちに向かって降り注いできた。


「全部落ち終わったら、ゴーレムになる前に全員で片付けようねー……なまやさ今だ!」


 ナビーの合図で周りに転がったままの石マジムンを、1個1個、確実に倒していくと、最後の1個をナビーが倒した。


「これで終わりだね。マジムンの反応がなくなっているさー」


「石垣ゴーレム、相当強かったな。ナビーの世界ではあんなのがゴロゴロいるのか?」


「ここまでのちゅーばー強者は、めったに見なかったねー。それより、マジムン同士が合体することにしかんださー驚いたよ


 俺たちが話していると、ミシゲーしゃもじウッシーが駆けつけてきた。


「みんなー、すごかったシャモねー! あんなに強い敵に勝てるなんて、感動したシャモ」


「あのゴーレム、敵じゃなかったらよかったのに。かっこよかったモー」


 琉美は白虎から降りて俺たちに注意した。


「そんなことはいいとして、キジムナーがまだ頑張っているから見守ろうよ」


 キジムナーは、まだセジの放出を続けていた。フラフープ大だったヒンガーホールも、直径20cm程までになっている。

 琉美の言葉に同意して、みんなで座って見守っていると、ミシゲーとウッシーが立ち上がった。


「休憩終了。再開するシャモ!」


「よーし、最後のひとふんばりモー!」


「2人とも、あと少し頑張ってな!」


 その時、どこからともなく怪しい声が響いた。


「人形の替えが必要なようだねぇ……妖操矢ようそうや


 小さくなったヒンガーホールから、ウッシーの背中めがけて真っ黒い矢が飛んでいくのが横目で見えたが、急な出来事だったので何もしてあげられない。


「あぶねーーーー!」

「モーーーーーーーーー!」

「シャーーーーーーーー!」


 キジムナーが光の速さでウッシーに突進して、近くにいたミシゲーもろとも弾き飛ばした。

 ミシゲーとウッシーは城壁にぶつかり、マブイだけになってしまう。

 そして、ヒンガーホールが再び大きくなって、不気味な人影が現れた。


「ヒーッヒッヒッヒ。牛を狙って矢を射ったのだが、まさかあの化け物に当たるとは。ついてるねぇ」


 身長160cmくらい、舜天しゅんてんと同く小さなお団子を右側で結ったカタカシラという髪型をしている。黒い着物の腰には黒いさやの刀、治金丸じがねまるを帯びた男が不敵な笑みを浮かべて現れた。

 その姿を見たナビーは、うわずった声でそいつの名前を言った。


「しゅ、舜馬しゅんば!? 何でやーお前がここに? キジムナーに何したのか?」


 舜馬順熙しゅんばじゅんき

 為朝ためとも軍3将軍の1人で、治金丸じがねまるを持っていると前にナビーから聞いたことがあるのを思い出した。


「おいおい、人の名前を略さないでくれるか。舜馬順熙しゅんばじゅんきさんと呼びたまえ。まあいい、直接やっても勝てない化け物がいたから見学だけさせてもらったけど、そやつはわたくしの妖兵ようへいと化したのさ」


 キジムナーに視点を移すと、肩に刺さった黒い矢が身体にのめりこんでいた。キジムナーは地面に倒れてもがいている。


「大丈夫かキジムナー!? ナビー、どうにかできないのか?」


「シバが一度キジムナーを倒せばまだ何とかなるさー! 急いで!」


 キジムナーに攻撃をしようとした時、俺に向かって矢が飛んできたのを持っていたセジ刀・千代金丸ちよがねまるで弾いた。


「やらせるわけないでしょう。ヒッヒッヒ」


「シバ! 構わずやれ!」


 ナビーが舜馬しゅんばに攻め込んだのを見て、俺はもう一度キジムナーに刀を振り下ろした。


 パチッ!

 

「グゥウウウウウウ……」


 ヒンガーセジ汚れた霊力まとわせたキジムナーは、俺の刀を素手でつかみ、うなっている。


 ……クソ、間に合わなかったか。


 俺はどうしていいのかわからず、そのまま固まってしまったが、琉美がムチで絡めて引っ張ってくれて正気に戻った。キジムナーはその場でまだ唸り続けている。

 舜馬しゅんばと戦っていたナビーが攻めるのをやめて、俺たちの場所まで走ってきた。


でーじ大変なことになってるさー。えー、ちゃーすがどうしよう?」


「こっちがききたかったんだけど! ああ、やっぱりキジムナーと舜馬が相手じゃ、勝ち目ないよなぁ……」


 白虎の上から見下ろしながら琉美が怒っている。


「ちょっと、2人とも落ち着いて! まだ、セジが切れたわけじゃないから、あきらめないでよね!」


 その時、舜馬がヒンガーホールの横であぐらをかいて微笑んだ。


「わたくしは動くのが嫌いでねぇ。攻撃してこないなら手は出さないので、安心してその化け物と戦ってくれたまえ。君たちが勝てるとは思わないけどね。ヒッヒッヒッヒ……」


 これでだいぶ楽にはなったが、あのキジムナーと戦わないといけないので、全然油断できる状況ではない。


「よし!」


 ナビーは何かを決心して、琉美にお願いした。


「琉美! 今から白虎で家に戻って、私のヒヤー火矢を取ってきてちょうだい。それとよ、走りながら花香ねーねーに連絡して、必ず一緒に来るように言って連れてきて」


「え!? 2人で大丈夫なの?」


「いいから早く!」


「わ、わかったよ!」


 ヤンバルスパイクを使っても、早くて往復30分てところか。

 その間、俺とナビー2人でキジムナーと戦わなければいけない。

 そうこうしている間に、うなっていたキジムナーはヒンガーセジ汚れた霊力が身体になじんだのか、黙ったまま無表情でゆっくり近づいてきた。


「来るよ! セジは節約しながら、やしがだけどケチらずにいこうね」


「要は、琉美たちが来るまでやられるなってことだろ?」


 俺は右、ナビーは左にそれぞれ分かれて、逃げながら出方を見ることにした。

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