ヒンガーホール探索編

第30話 神からの依頼

 2019年6月3日。午前10時。

 アマミキヨに呼ばれたので、いつもの3人と1匹で浜比嘉はまひが島のアマミチューの墓に来ている。


「あっ! みんな、よくきたしー。まあ、座ってちょうだい」


 人数分の椅子を用意してもらったので、それに腰かけてナビーが用件を聞く。


「アマミキヨ様、シネリキヨ様。用というのは何でしょうか?」


 アマミキヨがふくれっ面で言ってきた。


「アマミン、シネリンって呼んでって言ってるでしょう! ま、それは置いといて、遅くなったけど舜天しゅんてんの騒動は大変だったね。みんなが無事でよかったよ」


「ありがとうございます。1つ気になったのですが、舜天があっちの世界に帰っていくとき、黒い穴をつくって入りましたよね? その穴がヒンガーセジ汚れた霊力が流れてくる原因のヒントになるのではと考えているのですが、お二方の意見をおうかがいしてもよろしいですかね?」


「ナビーちゃんの言う通り、アマミンと2人で話し合った結果、あの穴に似たものがこの世界の何処かにあるのではと結論が出た。今日は、それを言いたくてここまで来てもらったんだよ」


「やっぱりそうでしたか。でも、世界を渡るとき、ばんないたくさんセジ霊力を使わないと異世界同士をつなげないはずですが……」


「そうだね、舜天は自分のヒンガーセジ汚れた霊力だけでやっていたけど、あれは別格。普通は複数人のセジ霊力を使うか、多くのセジがったものからセジを借りて異世界につなげるんだけど、それは人が通る場合の話で、ヒンガーセジだけ流す分には小さな穴で事足りるんだよ」


 俺と琉美るみは、ナビーたちの話についていけずにポカーンとしていたが、ナビーのことで引っかかったことがあったので、きいてみることにした。


「ひとつ、ナビーにきいてもいいか?」


「なんねー?」


「今まで聞いたことなかったけど、ナビーはこの世界にどうやって来たんだ?」


「言ったことなかったっけ? この、黄金勾玉クガニガーラダマまったヒンガーセジ汚れた霊力の力を使って渡ってきたんだよ。あの時慌ててからよ、必要な量のヒンガーセジが溜まってなかったのに、なぜかこの世界に来られたからかふーラッキーだったさー」


 ……いつも身につけているこの黄金勾玉クガニガーラダマに、そんな役割があったのか。


「そうだったのか。でも、今更だけど、黄金勾玉クガニガーラダマっていったい何なんだ?」


 ナビーがではなくアマミンが説明を始めた。


「それはあーしが答えるよ。なんせ、それつくったのあーしだかんね」


「え!?」


 なぜか俺よりもナビーが先に驚いている。


「初めてきいたさー。てっきり、佐司笠さすかさ様が作ったって思ってましたよ」


「その佐司笠さすかさに、持たせたい子がいるからと頼まれて、あーしが勾玉まがたまに力を注いであげたの。佐司笠さすかさの信仰心が強かったから、おもわず2個作っちゃったんだ」


佐司笠さすかさって初めて聞いたけど、どんな人なんだ?」


「琉球王国ノロの頂点なんだけど、親がいなかった私を拾って育ててくれた、親であり師匠なんだよ」


 ナビーは黄金勾玉クガニガーラダマを大事そうに両手で握っている。佐司笠さすかさに思いをはせているのだろうか、一瞬だけ寂しそうに見えたが、直ぐ話し始めた。


「それより、頼みたいことっていうのは、その穴を見つけるってことでよろしいですか?」


 シネリンがゆっくり立ち上がって静かに言った。


「そうなんだけど、穴を感知できない以上、沖縄中をむやみやたらに探すことになる。だから、この地に詳しいこの世界のマジムン、つまり、在来ざいらいマジムンたちと友達になって、一緒に探してもらうのが効率がいいと俺たちは考えているんだけど、お願いしていいかな?」


「わかりました。お受けします」


 ナビーは即答したが、俺と琉美は引っかかってしまった。


「ちょっと待ってくれ! 在来マジムンって初耳だぞ!」


「それに、マジムンと友達って大丈夫なの?」


 アマミンが背もたれに寄りかかり、だらけながら言った。


「あー。そんなに危険な連中じゃないから大丈夫よ。あの子たちもマブイを落とそうとするんだけど、人の股をくぐらないと落とせないから、あんまり怖くないのよね」


 椅子に腰かけたシネリンは、笑いながら続ける。


「それに、狙いを定めるとまっすぐにしか進めないから、ほとんどかわされてしまって、突き当りにある石敢當いしがんとうにやられるくらい弱い連中さ。石敢當がない時代には脅威きょういだったけど、今の沖縄ではほぼ無力だから大丈夫だよ」


「だけど、キジムナーにだけは気を付けてね。優しい子なんだけど、怒らせると舜天しゅんてんより怖いかもだから。でも、友達になれたら心強いから安心して」


 ……キジムナーって本当にいたのか!


 沖縄に住んでいたら必ず聞いたことがあるキジムナー。

 ガジュマルという木の精霊だとか、妖怪だとかいろいろ伝わっているがよくわかってないマジムン魔物だ。

 怒らせると舜天より怖いという言葉がすごく引っかかったが、接触しないと事が進まないようなので覚悟を決めるしかない。


「まあ、あの子たちは普通のセジ霊力で生まれたマジムンゆえ、感知で探せないぶん簡単に見つけきれないから、今まで通り活動しつつ、余裕があるときに探してちょうだい。あーしが仲間になりそうな在来マジムンリストを、ステータスでみれるようにしたから確認してね」


 琉美が急にアマミンに尋ねた。


「このステータスって、アマミンさんがつくったんですか?」


「そうよ、あーしがつくったの。あっちの世界にあるものを、こっちの世界風に使えるようにしただけだけどね」


「じゃあ、特殊能力【ドS】をなくすことって出来ませんか? これ嫌なんですよ!」


「それはできないね。ステータスはマブイに刻まれた記憶からくみ取っている部分もあるから、変えられないのよ」


 手で顔を覆い、落ち込んでる琉美を横に、ナビーが神たちの依頼をうけたまわった。


「それでは、まずは在来マジムンを探してみましょうね」


 話が終わったので帰ろうとした時、シネリンが待ったをかけた。


「最後に、キジムナーの特徴だけ教えておこう。肩まで伸びた赤髪の子供で、とにかく睾丸がでかいから、そこで判別したらいいよ」


 俺たちはあきれて、それぞれ捨て台詞を吐いた。


うんじゅぬちぶるはあなたの頭はやっくゎんのことしかかんげーてんのかき〇たまのことしか考えてないのか!」


「なんですか? シネリン様はき〇たまの神とかなんですか? そうじゃなかったら最悪だな!」


「アマミンさん、また会いましょうね。あーあ。でも、ここに来たらこいつもいるのか……残念です」


 帰り際に振り返ると、笑って手を振るアマミンの膝でシネリンは泣き崩れていた。



 ちょうどお昼になっていたので、帰りの道中にある食堂でご飯を食べることにした。

 どこにでもあるような個人経営の食堂だが、作業着を着た人からスーツを着た人、オジーオバーから若い女性まで、幅広い客がいる。

 こういう店の料理は間違いなくおいしいので楽しみだ。


「メニューの数多いな。何食べる?」


「私は野菜食べたいさー。あーでも、そばも食べたいなー……ちゃーすがどうしよう


 琉美が沖縄そばの項目からちょうどいいものを見つけて、ナビーにすすめた。


「あっ、この野菜そばっていうの良いんじゃない? 普通の沖縄そばに野菜がいっぱい乗ってるみたいよ」


「ちょうどいいさー! 私はそれにしようねー」


 俺と琉美も食べたことがなかったので、みんなで野菜そばにすることにした。

 沖縄そばを食べるときはソーキもセットで食べたくなるので、物足りなくならないか少し心配ではある。


「お待たせしました、野菜そばです」


 キャベツ、ニンジン、もやし、ニラ、玉ねぎを炒めただけのスタンダードな野菜炒めが山盛りなので、その下にある麺が全く見えない。


『いただきます!』


 初めて食べるので七味唐辛子やコーレーグース唐辛子の泡盛付けを入れずに食べることにする。

 最初に野菜と麺を軽く混ぜると、カツオと豚骨の香りが野菜炒めに使われているごま油の香りとともに鼻に抜けてきた。

 たまらずスープをすすってみる。


 ……うまい! うますぎる。


 今まで食べたどの沖縄そばよりも、スープがおいしいと感じた。

 これは、野菜炒めから流れ落ちた野菜のうまみ汁が、動物系のダシと合わさってうまみが倍増しているようだ。


 ……このスープが絡んだ麺は、どうなるんだよ。


 期待に胸を膨らませ野菜と一緒に麺をすすると、期待通りの味に野菜のシャキシャキが合わさって、そこからはもう箸が止まらなかった。


『ごちそうさま!』


しにまーさんなとてもおいしいね! ヤバイやっさー!」


「これはマジでヤバイな。ソーキそば越えもあるかもしれない」


「私、普通はカロリー気にしてスープのまないんだけど、これは飲み干してしまった。ヤバイかも……」


 あまりの美味しさでヤバイ連発になってしまっている。

 この食堂は、アマミチューの墓から帰るときの定番になりそうだ。



 花香マンションに帰り、みんなで在来マジムンリストを見てみることにした。


在来マジムン仲間になるかもリスト


・アカングワーマジムン(赤ちゃんのマジムン)


・アフィラーマジムン(あひるのマジムン)


・ウシマジムン(上半身ががっしりとした、二足歩行の黒い牛のマジムン)


・ウワーグヮーマジムン(豚のマジムン)


・ハーメーマジムン(老婆のマジムン)


・ヒチマジムン(風邪を操る、いたずら好きのマジムン)


・ミシゲーマジムン(しゃもじのマジムン)


●キジムナー(赤毛の子供、セジで作ったガジュマルを操る、遊びたがり)



「結構多いな。全部探せるのか?」


「全部は無理かもね。まあ、お互いの場所を知ってる可能性もあるから、まずは1匹探さないとねー」


 そこに琉美が、まさかの発言をした。


「あっ! このミシゲーしゃもじマジムン、見たことあるかも」


はーやーまさか! じゅんにな本当に? まーでみたどこで見たのか?」


「はい? 私、方言聞き取れないよ!」


「ナビーは興奮したらたまにこうなるんだよ。本当に? どこで見たの? って言ったんだよ」


「ごめん、ごめん。まさか、こんなに早く手掛かりが見つかると、思ってなかったからさー」


「別にいいよ。勉強になるし、シバが通訳できるみたいだし。それより、私が見たのがそれかわからないけど、大きなしゃもじなら国際通りの近くで、壁に当たって消えたのを見たけど」


「消えたって、もういないのか?」


「在来のマジムンは、周辺の生き物や物から少しずつセジ霊力を吸収して存在しているから、また復活しているはずよ。多分、近く探したらまだいるかもねー」


「じゃあ、行ってみっるか。琉美、案内お願い」

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