第29話 めざせ中二病

 2019年5月1日。

 舜天しゅんてんが元の世界に帰ったのを境に、マジムンの出現率がガクッと下がっていた。

 ナビーが言うには、舜天不在で為朝ためとも軍の戦力が大幅に落ちて、琉球王国軍に押されているはず、とのことだった。

 そのため、こちらの世界にヒンガーセジ汚れた霊力を流している余裕がないらしい。


 それでも俺は、全然気が落ち着かないでいた。

 舜天戦の時、正直俺は役に立っていた気がしない。

 もっと強くなりたいと思っているのに、経験を積むためのマジムン魔物の数が少ないし、出現しても弱いので、もどかしい気持ちでいっぱいだった。


 そんな中、ナビーに呼ばれて俺と琉美はリビングに集合した。

 俺たちをソファーに座らせて、ナビーは目の前に立っている。


「私たちは、もっとちゅーばー強くにならんといけないわけさー!」


「うん。俺も、もっと強くなりたいと思っていたところだけど、なんか策でもあるのか?」


「あるけど、今回は琉美るみの強化をしたいと考えているわけよー」


「え! 私? 私の強化ってことは、回復をもっとうまくなれってこと? それなら、毎日でもやるけど」


 琉美の目がキラキラしているのを見て、俺は悪寒が走った。

 思い出したくもない、あの史上最低のアメとムチのようなSMプレイを期待している様だ。


「琉美にはもちろん、もっと回復をうまくなってもらわないといけないけど、今回はそれじゃない」


「えー、やらないの?」


「大丈夫! それとは別で、舜天戦のシバの罰としてやる予定はあるからよ」


「やったー!」


 ……ナビーの奴、あの覚えとけを覚えていたのか。もう忘れていると思っていたのに最悪だ。


「今回は、琉美に特殊能力【中二病】を取得してもらおうね」


「中二病? 聞いたことはあるけど、それって何なの?」


 琉美はよくわからない様子なので、俺が説明してあげる。


「中二病っていうのは、簡単に言えば、俺やナビーみたいに漫画とかアニメが好きで、それが現実世界にまで影響されてしまった、はたから見たら痛いやつのこと。って痛くないわ!」


「……それに、私がなれと?」


「いや、わかるよ。琉美が言いたいことはなんとなくわかる。だけど、この特殊能力【中二病】は、ステータス上のもので一般人には悟られることはないから安心して」


「その……ステータスがわからないんだけど?」


 それはそうだ。RPGなどのゲームに触れていないと、何のことかわかるはずがない。


「自分の状態や能力値を表したものなんだけど、聞いただけでイメージできないだろうから、とりあえず俺が持っているRPGのゲームをやってみるところから始めるか」



 簡単でわかりやすい国民的RPGをやってもらい、とりあえずステータスがどんなものかを知ってもらうことにした。

 この流れでゲーム自体を好きになってもらえれば、【中二病】取得が楽になるのでぜひはまってもらいたい。


「ふーん、これがステータスね。大体わかった。これ、もう終わっていい?」


 ゲームを楽しいと思わなかったようだ。まあ、ステータスを知ってもらっただけでここは良しとしよう。


「じゃあ、目を閉じてそのステータスを頭の中でイメージしてみて」


 琉美は目を閉じて、静かに集中している。


「あ! ステータス出てきた」


「おお! さっきまでステータスわからなかったのに、一発で成功ってすごいな。で、数値はどうなってる? 見えるまま紙に書いてちょうだい」


「わかった」


金城琉美(きんじょうるみ)


LV.5


HP 32/32   ドSP 156/156


攻撃力 140 守備力 34 セジ攻撃力 56 セジ守備力 10 素早さ 1


特殊能力 ドS  


特技 マブイグミ LV.3  

   グスイ   LV.4




「すごいな。レベル5でSPが156って……あれ? これ、ドSPになってるぞ! しかも何でヒーラーのくせに攻撃力が高いんだよ! しかも、特殊能力【ドS】ってなんだよ!」


「わ、わからないよ。見えたとおりに書いたんだから……」


 ナビーが紙を見て、琉美に催促さいそくした。


なーてぃーちもう一回ステータス見て、【ドS】に意識を集中してちょうだい」


「んーと、ドS、ドSっと。あ、なんか出たよ」


 もう一度、紙に書いてもらう。


特殊能力【ドS】


取得条件:人が痛がっているのを見て、一定以上、気分が良くなってしまったら得られる


・SPがドSPとなり、人を叩いた数が最大ドSPになる

・攻撃系統が上がりやすいが守備系統は上がりにくいため打たれ弱い

・セジのムチを好きな時にだせる


「なんだよこの取得条件! ゲスいにもほどがあるだろ。しかも、このドSPの値が高いのって、それだけ俺を叩いたってことだろうが!」


「でも、あれだね。攻撃が強くても守備が弱いんじゃ、前に出て戦うのはやっぱり無理そうだね。まあ、ヒーラーのSPがばんないたくさんだと、私たちがある程度無理して戦えるから、じょうとう良いな能力さー」


 ナビーと琉美は、2人でニコニコしている。俺を痛めつける口実が見つかって喜んでいるのだろう。最悪だ。


 ステータスを理解してもらったので、今度は中二病のことを教えることにした。こんどは俺が中二病の項目を紙に書いて琉美に渡す。



特殊能力【中二病】


取得条件:1.漫画、アニメ、ゲームなどを好きになる

     2.剣のキーホルダーを購入する


・想像力、妄想力が異常に優れており、技のイメージが再現しやすくなる

・病気なのに自分ではなく見ている側が痛い(目視されるだけでダメージを与えられる)


「思ってたより変な能力じゃないね。この、目視されるだけでダメージ与えるっていうのは、舜天しゅんてんにも与えてたの? そんな感じに見えなかったけど」


「与えてはいたけど、1人が与えられるダメージはそんなに強くないからよ。だから、琉美にも中二病になってもらって、3人体制でいこうと思ったわけさー」


「琉美は漫画とかアニメで好きなものってないのか?」


「今まで夏生なつきにすすめられて見たことはあっても、好きにまではなれなかったんだよね。でも、この機会に頑張って色々見てみようかな」


「頑張るようなことじゃないんだけど……最初は、俺とナビーのおすすめから見てみたらいいんじゃないかな」



 それから2週間。

 漫画8作品、アニメ6作品を琉美に見てもらった。

 見てもらったはいいが、なんだか心苦しい気持ちになってくる。

 琉美は本当に頑張って視聴していたが、楽しんでいるようには見えなかった。

 週刊誌に乗るような王道の漫画や、俺とナビーの好きなファンタジーを中心としたラノベ系のアニメなどを見てもらったのだが、琉美には響かなかったようだ。


「ごめんね。色々準備してもらったのに、好きになれなくて……」


 まさか、一般人が中二病になることが、こんなに苦戦するものだとは思いもしなかった。


「でも、どうしようかね? これだけ見ても楽しくないんじゃ、他に見つかるかねー?」


 どうしようかと悩んでいると、俺が書いた中二病の紙が目に入った。


「あ! これ、漫画、アニメ、ゲームって書いてあるけど、別にジャンルとかカテゴリーを指摘されてないから、琉美が興味持ちそうなのを探せばいいんじゃないの?」


「琉美が興味持ちそうなの……ああ! ドSとかどうねー?」


「ジャンル、ドSって、大人のビデオになっちゃうだろーが!」


「あんまりドSって言わないでくれる! これでも恥ずかしんだからね」



 さらにそれから1週間。

 3人で近くの古本屋に通い続けると、琉美がある本棚の前でとどまることが多くなっていた。

 探索を終えて店の外で待ってると、琉美が初めて本を買ってナビーと一緒に出てきた。


「やっと響く作品に出合えたのか。で、どんなのを買ったの?」


「言いたくない」


「なんでだよ! ああ、もしかして、エロ系の奴か? ならしょうがない、何も言わないでおこう」


「違いますー!」


 ナビーが首をかしげながら、サラッと言った。


「なんであんなの選ぶのかねー? いきがんちゃーぬ男たちのかなさの何が楽しいんだか」


「BLにはまっちゃったかー。まあ、いいんじゃないか」


「しー! 外でBLって言わないで!」


 琉美は顔を真っ赤にしている。



 帰りに国際通りのお土産屋によって、琉美に剣のキーホルダー(龍巻き付きタイプ)を買わせると、無事に特殊能力【中二病】を取得することができた。

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