第23話 マブイ落とされる

 ごうの周りのヒンガーセジ汚れた霊力が少し濃くなっている。

 本気で俺たちを倒しに来る気迫を感じた。


「シバ、これからの剛の攻撃には絶対当たるなよ! ヒンガーセジ汚れた霊力が尽きるまでよけまくれな」


「簡単によけられるのか? あの感じだと、スピードも上がってるだろうし……」


「余計なこと考えるな! どぅー自分が生き延びることだけ考えれ!」


 ナビーがここまで焦っているのを始めてみた。それくらい危険な状況らしい。

 剛の殺意がこちらに伝わると、俺とナビーは身構えて集中する。


「くるぞ!」


 一瞬で距離を詰めた剛は、俺とナビーに向かって右足で回し蹴りをして、2人を引き離すように攻撃をしたあと、ナビーに向かって空手の組手のようにパンチやキックを次々と繰り出している。


花笠はながさシールド!」


 ナビーは花笠の髪飾りで手持ちの盾を作って、けられない攻撃をうまく受け流しながらなんとかやられずにいる。

 今、俺が入っていってもナビーの邪魔にならないか考えていると、ナビーが10mほどはじきとばされていた。


「ナビー!」


 叫んだ時、剛は俺に向かってきていた。


テダコ太陽の子ボール! ヒンプンシールド!」


 ナビーのように避けられる自信がなかったので、迎え撃つことにした。

 俺の牽制けんせいに警戒したのか、剛の足が止まった。

 相手は素手なので刀ならリーチ差で有利になると思い、ポケットから千代金丸ちよがねまるのキーホルダーを1つ取って、いつでも使えるように構える。

 10秒ほど沈黙が続きナビーが近づいてくるのを感じたとき、剛が腰を低く構えて右腕に力を込めた。


「シバ! 逃げれ! 攻撃飛んでくるよ!」


「逃げないといけないのはナビー、お前だよ。龍正拳りゅうせいけん!」


 俺に攻撃をすると思っていたが、ナビーに向き直り正拳を一発撃つと、拳の先から人を飲み込まんばかりの黒い龍がナビーに向かって飛んでいく。

 ナビーがやられたらおしまいだと思った瞬間、特殊能力【身代わり】が発動してナビーに当たるギリギリで黒龍が俺に方向転換して襲ってきた。


 ……ああああああああああ!



 目の前が真っ暗になった。それどころか身体がなくフワフワした感じだ。

 どうやら俺は、あの黒龍に当たってマブイを落とされたようだ。

 ナビーと剛の声だけ聞こえてくる。


「クソが! ナビーさえやってしまえば、このガキは後でどうにでもなったのに、まさかこんなことになるとはな」


「もうわじた怒った! 剛! 今からお前を本気でくるすたおす!」


「やる気になったところすまないが、僕はここで引くとするよ。この技はセジ霊力の消費が激しくて、残りではナビーに勝てないからね」


ふらーバカか? 私が逃がすわけないだろうが!」


「そうだな。でも、僕なんかを追いかける暇はないと思うけどね。あの方が今、何していることやら……」


「……」


「じゃあ、僕はここで。久しぶりの戦い楽しかったよ」




 暗闇の中に体をかたどった白いもやが現れて、ナビーの声が聞こえてきた。


マブヤー魂よマブヤー魂よウーティキミソーリ追いかけておいで。マブヤー、マブヤー、ウーティキミソーリ……」


 マブイのままで動けなかったが、マブイグミをされると身体に向かって進めるようになった。

 身体に吸い込まれる感覚がした後、パッと目を覚まし体を起こした。

 目の前では、ナビーが怖い顔をして今にも平手打ちをする構えだったので、思わず目を閉じて身体に力が入った。

 次の瞬間、ナビーが抱き着いてきて焦ってしまいもっとガチガチになってしまった。


「ごめん、ごめん……私のせいで……」


「はっ……な、なんで謝るんだよ。ナビーのせいじゃないだろ」


「違う……私は知らないうちに加減していたかもしれなくて……もっと本気になれていたら、シバを危険な目に合わせなくてすんだのに……」


「しょうがないよ。もともと仲間だった人に直ぐ本気で戦える奴の方がおかしいって。それに、ナビーさえ大丈夫なら俺は治してもらえるしね」


 ナビーは申し訳なさそうな顔から一変して、キリっとした表情になった。


「言っとくけど、マブイグミがあれば大丈夫って思わないで。身体からマブイが落とされることって、身体にもマブイにも負担がかかるから、何回もやっていたら戻せなくなるってこと覚えといて!」


 マジムン魔物退治をするということは、マブイが落とされることと密接にかかわってくるので、一般人との重要度が桁違いになるといいたいのだろう。

 正直、ナビーさえ大丈夫なら俺がいくらでも犠牲になる覚悟はあったが、少し考え直したほうがよさそうだ。


「わかった、覚えておくよ。ナビーも、今度は本気だせよ!」


「うん、わかっているさー! 昔の仲間より今の仲間を大切にしないとだからねー」



 ナビーと話していると、琉美るみ白虎びゃっこライジングさん比嘉昇が駆けつけていた。


「シバ、やられたみたいだったけど大丈夫なの?」


「うん、何とか大丈夫だったよ」


 ライジングさんが動揺しながら琉美に言い寄る。


「ねえ、琉美ちゃん! 誰と話してるんだ? それに、あの3人はなんで急に消えたんだよ!?」


「そうでした。ライジングさんは途中から何が起こっているか見えてないのでしたね」


 ライジングさんの目には、琉美以外見えていないことを忘れていた。

 俺とナビーはまとっているセジを解いて通常に戻ると、急に目の前に現れた俺たちに驚いたライジングさんは、しりもちをついてしまった。


「なっ、どうなってるんだよ!? なんで急に目の前に!?」


「この際だから、ライジングには私たちのこと、知ってもらっておいたほうがいいのかもね」


「ナビーちゃんたちのことって?」


「実は、沖縄の伝統にれることが趣味って言っていたのは嘘だわけよ。本当は、マジムンっていう魔物を倒しているわけさ」


「マジムンって、あの沖縄版の妖怪みたいなやつ? まさか……」


「まあ、とりあえず体験したほうが早いね」


 ナビーは、自分の首にかけていた黄金勾玉クガニガーラダマをライジングさんの首にかけて、シーサー化している白虎を見せてあげた。


「なんじゃこりゃー!? し、シーサーが……」


「こいつの名前は白虎。マジムンではないし、俺たちの仲間だから安心して。それに、普通の犬だから」


 黄金勾玉クガニガーラダマを取り上げると、白虎が見えなくなってまた驚いている。そのあと白虎のシーサー化を解くと、犬の姿に戻って普通の人でも視認できるようになった。


「!? 急に犬が……」


「これが白虎の本当の姿なんだ」


「もう、なにがなんだか……」


 混乱しているライジングさんを気にも留めずにナビーが慌て気味に言う。


「剛が言うには、他に仲間がいて悪さしているらしいさー。実際に、那覇市内で濃いマジムン魔物の気配がポツポツ現れ始めているから本当なんだろうね」


「それってアマミンが言っていた、異世界琉球から来たっていう人のマジムンのことなのか?」


「そうなんだはずね……剛はそいつからヒンガーセジ汚れた霊力をもらって、マジムン化しているみたいだね」


 琉美が驚いた様子で話に入ってきた。


「人のマジムンって、もしかして、さっきの人もマジムンなの?」


「琉美にはまだ話してなかったね。前にアマミキヨ様たちに、異世界琉球から人のマジムンがこの世界に来ているって聞かされていたわけさー。そいつが、元私の仲間と手を組んで、悪いことしようとしているわけよ」


 琉美は、人のマジムンの存在に動揺を隠しきれていない様子だ。

 俺も最初はそうだったし、実際に戦ってみても普通のマジムンよりも強さが桁違いなので、異世界から来たという人に勝てるのか心配になっている。


 俺のスマホに花香ねーねーから電話がかかってきた。


「もしもし、どうかしましたか?」


「今、大丈夫? もしかして大変な状況じゃないかしら?」


「今は大丈夫ですけど、那覇市内にたくさんマジムン魔物の気配が現れたとナビーが言っています」


「やっぱり……今ね、テレビやネットのニュースで急に道端で倒れる人が続出って話題で持ちきりなのよ! 救急車で運ばれているみたいで、マブイグミが難しくなるからと思って電話したの」


「わかりました。ナビーに伝えますのですぐ対応します!」



 電話の内容を伝えると、ナビーは頭を抱えてしまった。


「やることが多すぎて、なにやっていいかわからんさー」


「やることって、マジムン倒して、マブイグミして、石敢當いしがんとうを取り付ける以外に何かあるのか?」


「それぞれの数が多くて、何から手を付けていいかわからないわけよ……」


 悩んでいるナビーを落ち着かせるため、琉美が冷静に状況の整理をうながした。


「こういう時は優先順位を決めて、何からしたほうがいいか考えればいいんじゃない」


「んー、マジムン倒すのに専念しても、石敢當いしがんとうがないならまたどこかに現れてキリがない。マブイグミに専念しても、たくさんのマジムンが他の人を襲うだろうし。石敢當いしがんとう設置に専念しても、その時間でマブイを落とされる人が増えすぎて、私たちだけでは対応できなくなるから、どうしようかねー……」


「役割分担しればいいんじゃない? そもそも、私はマジムン退治に直接参加できないし、シバだってマブイグミはできないのでしょ? 片方に専念していたら暇な人が出てくるから、ここは思い切って別行動をとったほうがいいのでは?」


「そうだな……正直、俺たちでは石敢當いしがんとうを用意できないから、それは完全にレキオス青年会に任せることになるしね。俺たちはマジムン退治とマブイグミをひたすらやるしかないってことになるけど、問題はナビーがどこに行くかってことだな」


「シバは白虎がいれば大丈夫ね? シバが大丈夫そうなら私は琉美と一緒にマブイグミに行くけど。正直言って、2人だけではいつまでかかるかわからないからよ……」


 マジムンがたくさんいても、1匹ずつ倒していけば何とかなりそうだが、やはり時間がかかるだろう。でも、今はやるしかないようだ。


「俺の方は何とかやってみるよ! ナビーたちは花香ねーねーに一度相談してみたほうが良いと思うよ。かなりの人数が病院に運ばれるはずだから、簡単にマブイグミできないからな」


 まだ、混乱しているライジングさんに状況を話して、石敢當いしがんとうをレキオス青年会でどうにかしてほしいとお願いすると、こころよく受け入れてくれた。


「じゃあ、僕たちは壊された石敢當いしがんとうの場所と個数を把握しようと思う。それと同時に、残っている石敢當を取り付けて、足りない分は活動基金と募金で何とかしよう。でも、流石に全部をまかなえないと思うから、過度な期待はしないでくれよ」


 ナビーと琉美は一番遅くマジムンの反応があった場所に、俺は一番最初に反応があった場所にそれぞれ向かった。

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