第55話:雪夜
別に苦痛や熱い寒いが好きなわけではない。
このんで痛い思いをしたり、暑い所や寒い所で暮らすのは嫌だ。
安全で気候の穏やかな土地で暮らすのが一番いい。
それが大前提なのだが、寒い中で食べる熱々の鍋料理は最高に美味しい。
安全快適な境内から雪深い異世界の氏子村を見ていると、つい思ってしまう。
家族で熱い鍋料理を囲んで和気藹々に食事がしたいと。
だがそれを味わうためには、常春の境内では無理なのだ。
異世界の氏子村で行って、寒さを感じながら食べなければ得られないのだ。
いざ食べようと思っても、色々と問題が出て来てしまう。
掘っ立て小屋の奴隷希望者達に混じって食べるのは、村の秩序を壊してしまうので、現地妻のライラの家で食べることになる。
つまり長老や村長の家という事になる。
まあ、長老と村長の家だから、他の家よりも頑丈で広い。
女神や俺をもてなすのに何の問題もない。
役持ちの氏子衆が集まって、お下がりを食べるのにも問題がない。
そうなると俺達と村長家族だけで食べるというわけにはいかない。
つまり大量の食材が必要になってしまうのだ。
「今日は鶏モツ鍋じゃ、醤油と砂糖と生姜を利かした、すき焼き風の鶏モツ鍋が食べたいのじゃ、直ぐに用意しろ」
また石姫皇女が我儘を言い出した。
俺は食が偏っていて、同じ物を3食365日食べ続けても平気な性分だ。
だが石姫皇女は毎食毎日違う料理が食べたい性格だ。
そんな石姫皇女は、長時間異世界にいる事は許してくれるが、食生活が貧しくなることは絶対に許してくれなくなった、率直に言って舌が肥えてしまったのだ。
料理大会の間は面白がってくれていたが、出張料理人を派遣したり、食べ歩きをするようになってからは、日本で食事をしたがるのだ。
その石姫皇女を異世界で食事をさせるために、多くの食材と調味料を異世界に持ち込むことになってしまった。
だが日本の、いやこちらの世界の調味料を知らない氏子衆に、舌の肥えた石姫皇女を満足させる料理を作るのは難しい。
結局俺が作ることになったのだが、俺が作れて石姫皇女を満足させられる料理など限られていて、その一つが鶏モツ鍋だった。
そもそも素材が日本のブランド鶏に負けていない必要がある。
廃鶏がとても美味しい食材であった上に、異世界の虫や草花を食べさせたことで、とても美味しい食材になっていた。
朝引き廃鶏のモツの鮮度がよかった事も大きい。
肝も砂肝も心臓も玉紐も、熱く美味く最高のご飯の友になる。
「唐揚げじゃ、ザンギではないぞ、二度揚げの生姜を利かした唐揚げじゃ。
カレー粉の唐揚げは明日じゃ、今日から準備をしておくのじゃ」
次の日に言われたのが廃鶏の唐揚げだった。
今日急に言われたが、本当は二日前から下味をつけて準備している。
心が読める石姫皇女は、そんな事は先刻承知している。
石姫皇女が食べたいと言わなければ、順番で氏子衆に下げ渡されるのだ。
今日の予定は、異世界豚のウィンナーと白菜と玉葱とシメジを使った、鶏ガラスープとトマト仕立のスープ鍋だったのだが……
「それもだ、それも食べるぞ、一緒に出すのじゃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます