第23話:決断

 永劫の時を待たされているのかと思ってしまうくらい、村長が決断するまでの時間が長く感じられたが、ほんの1分程度だったのだと思う。

 心の弱い俺には長く感じられただけで、本当はそれほど悩んでいないのだろう。

 だが、俺だけでなく、村長にも長く感じられたのではないかな。

 実の父親を追放するのか、神の加護を失うのか、究極の選択を迫られたのだから。


「父を追放いたしますので、これからも支援をお願いしたします」


「「「「「オオオオオオオ」」」」」


 俺には氏子衆の喜びの声に聞こえたが、本当はどうなのだろうか。

 家族を追放される氏子衆の中には、哀しんでいる者もいれば、俺を憎んでいる者もいると思うのだ。

 明日また結界に入れるかどうか確認しなければいけない。

 この追放刑の結果、石姫皇女と俺を恨み憎む者が現れて当然なのだ。


「女神様、配祀神、我々のような愚かで身勝手な者達を想い、心を痛めてくださっていること、心からお礼申し上げます」


 ライラが土下座して礼を言ってくるが、思いっきり情けなかった。

 曲がりなりにも神だと名乗っているのに、完全に心を読まれている。

 いや、心を読んだのではなく、表情に現れていたのだろう。

 この決断を口にするために、悩み苦しんだことに気付かれている。


「ですがそんなに心を痛めていただかなくても、十分に情けをいただいております。

 村から追放されると言っても、防壁の外に集落を作って住むことを許していただいておりますので、家族そろって村外集落住むことも可能でございます。

 追放される者に良識があれば、大切な家族を安全な村外に住ませようとは思いませんから、そのような事を口にするようなら、気になさることはございません。

 そも様な腐れ外道は追放されて当然の者でございます。

 どうか心安らかにいてくださいませ」


 本当に情けない話だが、遥かに年若いライラに慰められてしまった。

 同時にその厳しい言葉が、実の祖父である長老の肺腑をえぐったのだろう。

 長老の顔色が死人のように真っ青になっている。

 まあ、当然と言えば当然だ、氏子総代のくせに、氏子衆を危険にさらす要求を石姫皇女と俺にしたのだから。

 だが、ちゃんと反省しているからまだましだな。

 欲深く身勝手な人間の中には、この状態になっても神々を騙そうとするからな。


「ふっふっふっふっ、広志はいくら見ていても飽きないのぉ。

 悩み苦しみあがく姿がとても面白いから、これからも異世界に連れてきてやろう。

 それはそれとして、生ケーキとアイスクリームケーキとホワイトシチューとすき焼きを寄こすのじゃ、それとチーズハンバーグじゃ、チーズハンバーグを作るのじゃ」

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