16.王女護衛任務につき竜殺しは竜騎士学園に入学する アヒルの子さん作
『――続いてのニュースです。――地方は今朝から雪が降り続き、去年から引き続き大寒波となる見通しです。各県では大雪警報が出ており……』
「うわぁ……道理で水が冷たいと思った」
カーテンを開ければ小さな雪が降り続いていて、思わずそんな言葉が漏れた。
俺の名前は
しっかし帰って来て早々雪が降り続いて来て……中々に風も強いらしい。こりゃあ明日積もるんだろうなぁ、嫌だなぁ。三連休だぞ三連休。まぁ外に出れたとしても遊びになんか滅多に行かないんだが。
「こんな日は引きこもって小説を書くに……いや、そういえば今走ってるソシャゲのイベント、まだ条件クリアしてなかったな。ログボ貰って、ついでにやっちまおう。そうしよう」
俺は予定(?)を立てると推しを愛でるためにパソコンを付けた。そういえば、Vtuberの新年コラボもチェックしておかないと駄目だ。正月は遊びにゲームに動画に忙しいぜ、最高だな。小説も一応大体は終わってるし。今日は休憩で良いだろう。
ウキウキな俺の気分の上昇を止めたのは、ベッドに放って置いた携帯のバイブがヴーッ、と中々に大きめ震えて音を出したからだった。拾ってロックを解除すると友人……
「もしもし?」
『あ、拓也? あけおめー!』
電話に出ると相変わらず能天気かつデカイ声が聞こえてきた。
「その挨拶、もう貰ったぞ?」
『口では言って無かったし、2度目のあけおめくらい素直に貰っとけよ』
「はいはい、あけおめ……もしかして、それだけか?」
『まっさかー、お前に話があってさ。直接話したいし、今から家行っていいか? 土産もあるぞー』
嫌な予感がした。啓馬が俺に土産を持って来る時、それは大体何かしらの「お願い」だからだ。
「……今度は何を企んでるんだ?」
こんなセリフ、ドラマくらいでしか言う事がないと思っていたんだが。
『なんだよ、大した話じゃないって。まぁお願いはあるんだけどさ』
「やっぱり……」
『それも着いてから話すよ、そんじゃ!』
そんな事を一方的に聞かされた挙句に電話がプツン、と音を立てて切れた。そもそもお願い以前に俺は家に上げる事を了承した覚えはないんだが……2021年になっても、あの男はどうやら変わらないらしい。
「はぁ……」
今年も振り回されるんだろうか、そんな思いが溜息になってしまった。
「あけおめ、拓也!」
「あけおめ、さっきも聞いたけどな」
結局やって来た啓馬は、もはや定番となっている酒とつまみを持って上がり込んで来た。気前が良ければ良いほど、この男は頼み事をする確率が上がっていくんだがな。
「外の雪、積もっちゃいそうだな」
荷物を下ろした後、啓馬が窓の外を見てそう呟いた。
「やっぱりか……あぁー、嫌だな、自転車が滑り易くなるし」
「でも水道が凍るほどじゃないだろ?」
「確かにな。そんなに大吹雪って感じでもないし」
「だな。うーっ! 寒い! 拓也の部屋に炬燵があって良かった」
「そのせいでクソ狭いけどな。それで、用事は?」
「あ、そうそう……去年の終わり頃までやってたレビュー企画、覚えてるか?」
「あぁ……アレな。っておい、まさか――」
「おう、募集してみたぞ」
「おい」
俺聞いてないんだけど、そんな声とよっぽど睨んでいたのか啓馬は「顔怖いぞー」と茶化してきた。
「新年早々何やってんだよ……まぁ、前回はそんなに集まらなかったし、今回もさぞかしスカスカだっただろうな」
「いやそうでもなかったんだ。約30近く集まった。俺達のレビューを見て貰った上で」
「……嘘だろ?」
「ほんとほんと。画面見せてもいいぞ」
「って事は……」
「そう! お前にまたレビューして貰う!」
やたらと啓馬の目が
「痛い!!」
「募集はまぁ許そう、だが俺に拒否権はあるんだろうな? え?」
「募集終わっちゃったからやって貰わないと困る」
「お前一人でやれば?」
「そんな事言わないでくれよ拓也~!」
「止めろ気持ち悪い」
こんな無茶ぶりされた挙句に猫撫で声でお願いされてもちっとも嬉しくない。
「はぁあ……分かった、やるよ。そこまで覚悟して貰ってる人の作品なら、俺も見てみたいし」
「おぉ~、さっすが拓也! 持つべきものは友!!」
「気晴らしで始めたはずなんだがなぁ、このレビュー……」
若干納得はいかないものの、そこまでして見せてくる人たちはきっと自分でも作品の良し悪しを探りたい気持ちもあるのかもしれない。とにかく、真面目に当たった方が良いだろう。
「いつも通り、馬鹿正直に書くけどな」
「さすが知名度も何もないぼっちだ、怖い物はないな」
「ぶん殴るぞ」
さて、今日レビューする話は、アヒルの子さん作、『王女護衛任務につき竜殺しは竜騎士学園に入学する』だ。
「で、感想は?」
啓馬がすっかりくつろいで、自分の家でもないのに淹れた茶を啜りながら訊いてきた。
「……文章のカクつき方が気になるかなぁ」
「開幕から気になる発言だけど、どういう意味?」
「文頭に空間を開けるって小説だと基本的な事で、それはこの作者さんだって理解していると思うんだよ。隙間って大事なんだ。開け過ぎても駄目だし、閉じ過ぎてても読者の目が泳ぐ。興味は持ってるけど、読者が読み続けるか分からない最初だとなおさら『読み易い』は優先しても損はない……と、俺は思ってる」
「まぁ、そうだな」
「でもどういう理由かは分からないけど、文字の頭が開いてたり開いてなかったりしていて、プロローグから『なぜこんな書き方なんだろう?』っていう疑問の方が先に来たかな。文頭は開いてないのに、縦は開いてる部分が多い。台詞と台詞の間まで隙間は要らないんじゃないかってくらい開いてる」
「うーん? 読み手は読み易いけど書き手としては気になる部分ってやつ?」
「少なくとも、俺は読み難いかな……だから『山と谷はなるだけ文頭には作らないで平地にした方が良いんじゃないか』っていうのが俺の第一の感想。最初のゴキブリのくだりも声を荒げるようなマシンガントークにするんだったら隙間は要らないと思う、マシンガン感が減るし……まずこれで『話に入り込む没入感』が薄くなってるのが作品全体の難点かな。このやり方って一人称視点はまだいいけど、三人称視点だと合わないと考えてるから」
「うーん、中身についてもうちょっと詳しくするとどうなるんだ?」
「合計で3話読んで、文字数は11584字で、この中でやってるのは冒頭で主人公とヒロインらしき女性が任務をやって、休日は妹とデートしてたってくらい。だから『インパクトがあるか?』って聞かれると薄い気がする。俺としてはいきなり3話みたいな『お前護衛ね』って展開でも良かったんじゃないかなと感じたかな」
「それじゃあ、良い点は?」
「舞台設定自体は悪い点がない。世界観はきちんとしてて竜騎士とそれを養成する学園、ファンタジーの定番もあってテーマでページを踏むのを
「ファンタジー好きならまず間違いなく好きだろうな、ドラゴン」
「それに、キャラクターに魅力が全くない訳じゃないんだ。見た目の表現もしっかりしてるから、登場する女の子二人は可愛い事も分かる。妹の元気な印象も好きな人は好きだろうし、主人公は流され体質気味だけど軍所属らしいしな……でも騎士って言うよりは現代の軍に近いんだなと思ったかな。どういう人間なのか説明はあったけど、謎も多いし先は気になると思う」
「なるほどなぁ、今後の展開次第では十分伸びしろは感じられるんだな」
「確かにそうなんだけど、俺的には文体がなぁ……」
「本当にそこは気にするよな」
「俺も書く側でもあるから、漢字の誤用とかこういうのに神経質すぎるだけかもしれないんだけど」
「例えば?」
「そうだなぁ……」
「じゃあ、ここで突然ですが静井 拓也からの『よくやりかねない漢字の使い方間違い』のコーナーです」
「急に挟んで来たな……なんだよ?」
「啓馬、お前『
「え? 不意に、とか……『突然動くような状況』じゃないのか?」
「実は違ってて、正解は『
「あー……それって前後の話によっては実際はゆっくり電車が出発してるのに、急発進したみたいに受け取る事も出来ちゃうのか」
「そうなんだ。誤用してるにしろしてないにしろ、場面によっちゃ紛らわしい事になる。って訳で、普段使わない漢字は例文含めて調べたり、紛らわしい場面になりそうなら分かり易い漢字に置き換えた方が読み易くなると思う。急な出来事なら『不意に』『突然に』とか、ゆっくり進むなら『緩やかに』とかな。まぁ俺も人の事は言えた口じゃないんだが」
「一回お前、掲載してた小説の誤字や誤用は全部書き直したよな」
「気が付けるとこだけな。使い方が間違ってるって分かったら気になっちゃうんだよな……なるだけ自分が恥ずかしくない状態にしたら俺は気分が落ち着くから。これも人それぞれかもしれないけど」
「急に脱線したから話戻すけど……結局のところはどうなんだ?」
「ストーリーもさっき上げた文字数以上は見てないんだが、文体の話を置けば、俺はどちらかと言えば王道な方に受け取ってる。後の話はタイトルだけ見るに学園物としての要素が色濃い作品かなと思えるし、そこでまた変わるかもしれないけど……今回はそこまで見れないからな、王族の護衛になった主人公の学園生活やいかに! ってとこだしな。ただ俺としては、もうちょっとインパクトや緩急があっても良かったんじゃないかと思う」
そこまで言って、俺はふぅと息を吐いて机の上にあった温くなってしまったお茶を一気に飲み干した。丁度いいが、やっぱり熱々の方が好きだ。特にこんな寒い日は。
「こんなとこだな」
「相変わらずの厳しめトークだなぁ」
「気になるところは気になってしまうからしゃーない。まぁ、怒られたらそん時だ」
「ネガティブな拓也が段々開き直るようになってきたのは良い事なのか、悪い事なのか……じゃ、それでアップロードしとくな」
「頼んだ」
啓馬がスマホを取り出すと打ち込み始めた。外の雪はやっぱり降り続ている。曇り空なせいか時刻は昼間なのにそこそこ暗い。
『――地方の天気をお伝えします。明日、――県の北部、南部全体で、激しい雪が降る可能性が――』
明日もきっと雪だな、こりゃ。買い出しがめんどくさくなりそうだ。
「久しぶりの雪でテンション上がるなー! 俺達の子供の頃はしょっちゅう降ってたのに」
俺が見ている事に気が付いたんだろう、今後の予報を見て雪マークだらけだというのになぜかテンションが高い啓馬は、やっぱり相変わらずなようだった。
「そう考えられるお前が羨ましいよ」
「おっ、もっと尊敬してくれてもいいぞ?」
「馬鹿じゃねぇの」
――今年は一体どんな年になって、どんな作品と出会える1年になるんだろうか。
今度は熱々なお茶を啜りながら、俺はぼんやりとそう考えていた。
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