13.風上の青花 杪図南-Suwae Tonanさん作

 年末というのは物凄く慌ただしい。クリスマス色に染まっていた町は26日はあっという間に赤と緑が消えて、今度は紅白がそこら辺に溢れ返る。クリスマスになれば郵便局には年賀状についての旗が立てられるし、慌ただしいのはそんな飲食店や郵便局だけかと思えば普通の会社も1年の締めや来年の予定を建てたり、結局は納期に追い駆けられるはめになる。

 まぁ、俺は普通の会社とはもう無縁な訳だが。


「もーいーくつー寝ーるとー、クーリースマースー」

「あと約20日はあるな」

 会社員であるはずの友人、啓馬が居る会社はそこそこのホワイトらしく。こんな年末だろうが休みはしっかりとある。その代わり、結構な実力主義なんて話も聞いた事があった。本人は中々そういうのは表には出さないし、いい歳したおっさんが正月の歌のリズムでクリスマスの替え歌作ってる訳だが。

 時は師走しわす、カッコよく言ったが12月の始め。俺お気に入りのソシャゲでイベントが開催されているので一刻も早く炬燵に潜り、スタミナが続くまで周回したい気持ちを抑えて啓馬の買い出しに付き合っていた。

「あっ、そうだ。今日の夜はレビューやるぞ、拓也!」

 スーパーに入って酒だのつまみだの買い込んだ啓馬はなんとなく嬉しそうにそう言った。元々、俺のノイローゼ解消も兼ねたレビューだったはずなのに、更新速度が一定の間隔を保ってしまった上に、なぜかレビューの方が閲覧数が多くなってしまった。地味に悲しい。

「12月って普通ぐったりしてそうなのにお前元気だな」

「俺の会社は注文が入らなくなって営業が無理やり取って来ない限りは暇だ!」

「それいいのか?」

「まぁ夏は忙しかったし、大丈夫じゃないか?」

「能天気だなぁ……」


           *


「実は俺、今日は究極のつまみを用意してるんだよね」

 さて夜にやって来た啓馬は当然のごとく俺の冷蔵庫から買い溜めしていた酒を取り出し、ついでに自分の鞄からタッパーを取り出した。

「なんだよ?」

「きゅうりのビール漬けです」

「出たー! 悪魔の食べ物!! 意外とデブるやつ!!」

「元がビールだしそりゃデブるだろ。でも、これほんと美味いよな」

「ちょっと甘く感じて最高だよな。こんな料理開発した人間は天才に違いない」

「天才のハードル低い気もするけど同意はするわ。さぁ究極のつまみ用意してやったんだ、レビュー頑張れよ」

「頑張るけどさ、どうせ作り置き余分にしてるだろ? それくれよ」

「当たり前のように強奪しようとすんな。自分で作れ」

「分かったよ」

 俺は早速ビール漬けに箸を付ける。かりっと良い音を立てて、柔らかいながらもビールのアルコールが消え甘味だけ残ったきゅうりを噛み締める。本当に美味い。一体なぜこの組み合わせをしようと思ったのか分からないけど、食への関心が高すぎるご先祖に感謝するしかない。


 さて、今日レビューする小説は、杪図南-Suwae Tonanさん作、『風上の青花』だ。



「で、感想は?」

 読んでる間にだいぶ減ったビール漬けをかじりつつ、俺はゆっくりと噛んだ後で飲み込む。甘い。だがこの甘さに負けて、批評も甘くはいきそうになかった。

「全体的に綺麗だけど、胃もたれ気味な小説かなぁ……」

「ありゃ、こういう小説に対しても相変わらず突っ込むのな」


「言い回しに被りが無くて本当に綺麗で整ってると感じる文章だけど、周りがよく使わない漢字にフリガナが無かったり、登場人物も被らせないための工夫だとしても難しい漢字。で、さらに漢字が多くて全体は中華な雰囲気なのかと思えば横文字も混ざってくるから『綺麗だけど情報量は多くて覚え難く、目が疲れやすい』って状態も生まれてると思う」

「うーん、でも後書き確認したけど、これ番外編らしいぞ?」

「まぁだから内容にはあまり触れられないし、今回は1作品だけの批評だから他の作品は他作品のレビューの条件として不公平だから読まないけど。じゃあこれが色んな作品によくある『最終回っぽい話や〇年後をあえてプロローグに持って来る』ってやり方だったとしても、やっぱり情報量の多さ、無理やり詰め込んだような感じが綺麗な文章で整ってる作品の良さを削いでる気がした」

「お前、綺麗過ぎて隙がない文章も嫌いだもんな。不真面目だから」

「最後で唐突に俺をけなしてくるな。合ってるけど」


「話を戻すが、設定的に単行本3冊分くらいありそうな量を5000字くらいに詰め込んでるから、丁寧な描写がどうしても裏目に出る。世界観の説明的に感じる部分と、肝心の恋愛描写や細かな風景の描写の部分、この2つがぶつかって全体的にチグハグな様子になってる気がした」

「でもそれ、最近の小説だとよくありがちなんじゃないか? 日記風な異世界転生物なんか最初から序盤の仲間が出来るまで、大御所の人も説明が多めだと思うんだけど」


「ありがちと言えばありがちなんだけど、俺が気になったのは『説明部分が1回で終わらない』って部分だな。会話→説明→会話→説明だから、正直に言うとこの構成だったら一辺に出して、後は口頭で謎を残したまま話した方が読み易くはなると思う。単純に好みだと思うんだが、俺が現代→過去→現代→過去みたいな読んでる時のテンポを崩され続ける構成の話が苦手なのもある」

「一気に読みたい派だもんな、拓也」

「そんなに設定や前までの話を覚えられるほど脳みその容量がありません」

「言ってて悲しくならないか?」

「事実だから悲しくならない」

「なんだその開き直り方」


「俺としてはこんなところかな……」

「綺麗な文章なんだけどな。言い回しの被りがないのはさっと読んでいても分かるから、ここら辺は参考にしたいと感じる文章なんだけど」

「俺も同意する。でもやり方でそこが削がれてて、個人的にはもったいないと感じたかな」


「第2回目も残り2作になったなぁ」

「締めがこんな辛口レビューばっかりで良いのかと言いたいがな」

 先ほども言ったがレビュー系は伸びこそあれど、果たして適切なレビューなのか自分でも分からない。しかしまぁ幸いな事に企画参加はして頂いているので、俺としては正直に書くしかない。いつか背中刺されて異世界転生おじさんになるんじゃないかと冷や冷やしてるが。

 俺の言葉を聞いて啓馬が何か思いついたように「あっ」と声を上げた。


「だったらお前が連載してる小説の更新ペース上げればいいんじゃないか?」

「そうだな……」




「来年から本気出すわ」

「去年も聞いたぞそれ」


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