エピローグ

 ん……何だ?


 誰かが、俺を揺すっている……。


「……さん……冬馬さん!」


 目を開けると……女神がいた。

 俺は思わず抱き寄せて、布団の中にしまい込む。


「きゃっ!?」

「うん、今日も可愛いな。さて、やるとするか」

「し、しません!」

「えぇー、しないのか」

「そ、そんな顔してもダメです!」


 膨れてる綾は、いつまでたっても可愛いままだ。


「どうしても?」

「ぅぅ……その、別に……嫌ってわけじゃなくて……」


(うむ、照れ顔も良い……相変わらずウブなままで可愛い)


「そ、それに、まだ朝だし……それだよ! 遅刻しちゃうよ!?」

「……そうだった!」


 俺は飛び起きて、すぐにパジャマを脱ぐ。


「キャァァァ!」

「わ、悪い!」


 俺の息子は朝から元気マックス状態だった!


「あぅぅ……」

「おい? もう、何回も見ただろうに……」

「だ、だって……いつもは暗いもん」

「なるほど……えっと、部屋から出れば良いんじゃね?」

「う、うん、そうだね……」

「そう言いつつ、視線が熱いのですが?」

「も、もう! 冬馬さんの馬鹿!」

「わ、悪い! 俺が悪うござんした! だから——枕を投げないで!」






 朝のドタバタが終わり……朝食を食べる。


「も、もう……」

「悪かったって」

「き、昨日……あんなにしたのに」

「足りない。綾となら幾らでもしたい」

「はぅ!?」

「まあ、身体に負担かかるから我慢する。昨日もごめんな、つい本気になってしまった」

「お、お願いします……でも、たまには嫌じゃないよ……?」


(はい、今日もお嫁さんはめちゃくちゃ可愛いです)


 そして、話題は……。


「今日から担任の先生だね」

「ああ、ようやく第一歩を踏み出せそうだ」

「教師になって、もう一年かぁ……あっという間だったね」


 俺と綾が結婚して、もう五年が経つ。

 大学を卒業した俺たちは、年明けからマンションの一室で二人暮らしを始めた。

 俺は無事教師に、綾は義母さんの仕事を手伝いながら、翻訳の仕事もしている。


「誠也はどうだ?」

「もう、大変。高校生になったから反抗期で」

「まあ、安心しろ。あんまり酷いようなら、俺に言うと良い」

「ふふ、そうだね。あの子、相変わらず冬馬さんには弱いから」


 誠也は今年から高校生になり、見た目だけはもう大人になった。

 ただ反抗期で、お義父さんやお義母さんは苦労しているらしい。

 相変わらず、俺には懐いてくれてるけどな。


「黒野はどうなった?」

「うん、仲直りしたって。冬馬さんに礼を言っておいてって」

「そうか。まあ、博も頑固なところがあるからな」


 博と黒野は相変わらず付き合っているが、よく喧嘩をする。

 というか、二人共理論派なので……冷戦状態になる。

 そんな時は、大体俺たちが間に入ることになる。


「飛鳥ちゃんは平気?」

「ああ、いつものことだったよ。智が理詰めして、飛鳥がパンクしたって感じだ」


 飛鳥と智は、一回別れたが……また付き合ったりしている。

 というか、飛鳥が『別れてやる!』って言って……智が『好きにしてください』とかいうパターンが多い……まあ、なんだかんだで仲が良いのかもしれない。



「そっちは?」

「うん、子供連れて実家に帰ってたけど……いつも通り仲直りしてたよ」

「今回の原因は?」

「剛真君が上司と飲みに行って良いかって聞いてきて……いいよって言ったんたけど……そう言うしかないじゃん!って感じで喧嘩になったって」

「あぁーなるほど」


 剛真と愛子はデキ婚というやつで、もう子供は三歳になる。

 それ故に、色々と問題も起きるらしい。

 それでも、二人で成長していけば良いと思うがな。


「アキ君と小百合さんは?」

「ああ、意外にも上手くいってるな」

「そうだよね。あのアキ君が、完全に尻に敷かれてるもんね……意外にも」


 あの二人は結婚こそしてないが、未だに付き合っている。

 それぞれ仕事をしつつ、互いの家を行ったり来たり……。

 ラブラブって感じではないが、ある良い意味で一番落ち着いているかも。


「みんな、それぞれの道に進んでるね」

「まあな……流石に、昔みたいに会ってはいないが、今でも大事な友達だ」


 あっ——ちなみにマサは行方知らずだ。

 といっても、死んだわけでもなく……バックパッカーになった。

 だから、何処で何をしているのか……誰にもわからない。







 朝食を済ませたら、玄関で靴を履く。


「じゃあ、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい——んっ」


 いつものように、軽くキスをする。


「続きは帰ってきてからだな」

「も、もう……遅刻しちゃうよ?」

「ああ、行ってくる」




 俺は家を出て、エレベーターに乗る。


「さて……今日から担任を受け持つのか」


(俺も、真兄みたいな先生にならないとな。生徒と同じ目線にたって、大人の理不尽を振りかざさないように)







 バイクに乗り、無事に学校へと到着する。


「先生! おはようございます!」

「今日もかっこいいですね!」

「はいはい、おはよう」


 女子生徒から、次々と挨拶が飛んでくる。

 まあ、身近な大人の男性に興味が湧く年頃ってやつだな。

 これを勘違いしてる痛い教師もいるが……何のために教師になったんだって話だ。


「おっす! 吉野先生!」

「おう」

「今度、一緒に狩り行こうぜ!」

「ああ、いいぞ」


 男子からも、声をかけられる。

 流石にプライベートで会ったりはしないが、オンラインでゲームとかはやったりする。

 あとは小説の話とか、やんちゃな話とか……。






 そして、ホームルームの時間になる。


「初めまして、俺がこのクラスの担任だ」


 黒板に名前を書き……。


「吉野冬馬という。まあ、堅苦しいのは好きじゃないんで……適当によろしく頼む」


「クスクス……」

「面白い先生だね」

「うん、かっこいいし……」


 女子からは、反応は悪くない。


「チッ……」

「先生! それでいいんですか!?」

「楽そうで良いや」


 男子の方が……色々拗らせるから大変そうだな。

 そして……俺はその中の一人に目がいく。

 その男子は、ただ静かに時が過ぎるのを待っているかのようだ。

 ただ自然体で、外を眺めている……まるで、昔の俺のように。


(まあ、そのうち話しかけてみるか)









 そして、無事に最初の週を迎えて……。


 綾をつれて、真兄の家に行く。


「おう、来たか」

「冬馬君、綾ちゃん、いらっしゃい」

「弥生さん、お邪魔します」

「真司さん、お邪魔しますね」


 二人に出迎えられ、家の中に入ると……。


「冬馬君!」

「お兄!」

「おう、先に来てたか」


 そこには可愛い妹と……その彼氏がいた。


「と、冬馬君? 目が怖いよ?」

「お兄!」

「ぐぬぬ……啓介、泣かしたら沈めるぞ?」

「が、頑張ります!」


 つい、この間……正式に紹介されてしまった。

 まあ、啓介は無事に市役所の職員になったし……。

 麻里奈も成人したから良いんだけど……こればっかりは複雑である。


「ハハッ! 俺の気持ちがわかったか!?」

「うるせい! 真兄と一緒にすんな!」

「あぁ!?」

「んだよ!?」


 すると……。


「喧嘩はめなのっ!」

「おお〜ごめんよぉ〜このお兄ちゃんがパパに生意気言うからさぁ〜」

「パパが悪いの! お兄ちゃんをイジメちゃダメ!」

「なにぃ!? き、貴様……」

「ふふふ、すでに懐柔は済んでいる」


 大学生のころから、真兄がいない間によく遊びに来てたし。

 だから、娘の皐月ちゃんは俺に懐いている。


「お兄ちゃんもめなの!」

「そ、そうだな、うん、俺も悪かったよ」

「フハハッ! 叱られてやんの!」

「あんたがいうな!」

「あなた?」

「冬馬さん?」


 二人の冷たい視線が、俺たちに突き刺さる。


「「ごめんなさい」」

「もう……綾ちゃん、苦労するわね」

「えへへ……でも、懐かしいです」


 そう……こうやって集まるのは随分と久しぶりのことだ。

 それぞれ仕事も違うし、年齢も違う。

 どうしたって、会う機会は減っていく。


(それでも……当時の思い出が消えたわけでも、色褪せたわけでもない)


 今でも宝物のように、心の中にある。


 蓋を開ければ、今すぐにでも映像が流れるほどに……。










 楽しい時間を過ごし、夕方頃に帰宅する。


「あぁ〜楽しかった!」

「ああ、そうだな」


 テーブルについて、二人でお茶を飲む。


「でも、あれだね……先に結婚式挙げておいて良かったね」

「ん? ああ、そうかもな。色々と仕事が多くて……そんな暇がなかったかもな」


 俺たちは真兄の助言により、大学卒業と同時に結婚式を挙げた。

 教師というのは激務で、中々暇が取れないからと。


「どう?」

「うーん、まだ初日だから何とも言えないが……気になる奴はいたな」

「そうなんだ……どの辺りが?」

「高校生の頃の俺のような顔をしていたな……達観? 諦め? 哀愁漂う感じだ」

「ふふ、そういえばそうだったね」


 俺は当時を振り返って、胸が熱くなって来た。

 そして、綾の両手を優しく握る。


「綾、ありがとう。君に出会ったおかげで、俺は変わることができた」

「ううん、そんなことないよ。私こそ、冬馬さんに救ってもらったから」

「月並みな言葉だが……これからも、側にいてほしい」

「は、はぃ……ずっと一緒だよ」


 俺は愛おしさが溢れて、すぐに立ち上がる。


「綾!」

「ま、待って!」

「うん?」

「そ、その……えっと……」

「嫌なら嫌って言って良いんだぞ? そういう気分じゃない時もあるしな」

「ち、違くて! ……できちゃった」

「何が……あっ——」


 俺の脳裏に、あるワードがよぎる。


「それって……」

「うん……冬馬さんと私の子供……」


 その瞬間——俺の心を何かが満たす。

 その衝動のままに、綾を抱きしめる。


「ふえっ!? 冬馬さん!?」

「綾、ありがとう……俺と家族になってくれて……」

「ふふ……泣いてるの?」

「そういう綾こそ……」

「冬馬さん、私……貴方と出会えて幸せです」


 俺は返事の代わりに、優しくキスをするのだった……。




 ~完~















 ———あとがき———


 ここまで読んでくださった方々、誠にありがとうございます。


 これにて、本作品は完結となりました。


 本作品は、私の描くラブコメの処女作であり、初のコンテスト用作品となりました。


 この作品は『なんか、主人公がカッコいい小説ないなぁ』と思い、作成した物語です。


 故に流行りとは違く『男らしく、かっこよく、潔く、堂々と』をテーマにいたしました。


 そんな話なので読まれるか不安でしたが……有難いことに、PV100万超え、フォロー3900超え、お星様1300超えという、評価を頂きました。


 最後は少し駆け足でしたが、自分の描きたいことは描ききれたと思います。


あまり引き伸ばしても冬馬君が可哀想ですし(°▽°)


もちろん、万が一書籍化になれば……色々描きたいですけどね(((o(*゚▽゚*)o)))


 改めて、読者の皆様……長い間、ありがとうございました。


 また何処かで『おとら』という作者を見かけたら、よろしくお願い致します。

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静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について おとら@四シリーズ商業化 @MINOKUN

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