第179話 入籍、そして……

 皆にもみくちゃにされ……。


 真兄がきて、いい加減帰れと言われ……。


 ようやく、俺達も帰ることにする。


「ふぅ……参ったな」

「えへへ、ほんとだね」

「さて……じゃあ、出しに行くか?」

「えっ?」

「いや……婚約届けだよ。今なら役所もやってるしな」


(というか、一刻も早く結婚したい)


「こんな可愛い嫁さんとか、すぐにでも結婚したい」

「ふえっ〜!?」

「あれ? ……声に出てたか?」

「は、はぃ……」

「まあ、良いか。別に本当のことだし」

「あぅぅ……」


(うーん……オロオロしてて、実に可愛いな。しかし、今日は遠慮はしない)


「おいおい……これくらいで照れてどうする?」

「え、えっと……?」

「その、あれだ……もっと凄い事をする予定だ」

「……ガ、ガンハリマス」

「クク……まあ、一応気をつけるけどな。ほら、行くぞ」

「う、うん!」






 俺たちは手を繋いで、校門の前にくる。


 そして、一度だけ振り返る。


「ここを一歩出たら……もう、高校生じゃなくなるんだな」

「そうだよね。楽しかったなぁ……もちろん、三年も一緒に居たかったと思うけど……その分、二年の時の思い出が強い気がするの」

「ああ、わかる気がする。三年の時よりも、二年の時の方が鮮明に覚えてる」


 そして、俺たちは——未来へ向けての一歩を踏み出した。







 そして電車に乗り、俺の地元で降り……。


 駅中で立ち食いうどんを食べて……。


 そのまま区役所に向かう。


「ド、ドキドキするね……」

「あ、ああ……」

「冬馬くん、手の汗すごいよ?」

「わ、悪い……柄にもなく緊張してるらしい」

「ふふ、私は解れたけどね?」

「綾は……俺がダメなところ見せると喜ぶよな?」


(別に嫌というわけではないが……)


「うーん……可愛いって思えるんだ」

「そういうものか」

「女の子にとっては大事なことなんです」


 そんなことを話しつつ、受付に向かい……。


「お願いします」

「これ、卒業証書です」

「はい、婚姻届ですね……書類は揃ってますし、親御さんの署名もありますね。では、少々お待ちくださいね」


 それだけ言い、すぐに下がっていく。


 そして、二人共緊張からか……黙って待っていると……。


「吉野さん、いらっしゃいますか?」

「は、はいっ!」


 再び、二人で受付に向かう。


「はい、確かに承りました。ご結婚、おめでとうございます」

「「あ、ありがとうございます」」

「ふふ、お若いご夫婦ですね。それでは、こちらがパンフレットになります。あとでご確認ください」

「「は、はい」」


 ……それだけで、何ともあっさりと終わる。


 俺たちは何とも言えない気持ちのまま、役所を後にする。


「……なんか、あれだな」

「……うん、あっさりだよね」

「えっと……よ、吉野になったんだよな?」

「う、うん……多分」

「いまいち、実感が湧かないよなぁ……」

「そうだよね……」

「ふむ……とりあえず、お互いに電話するか」

「うん、そうだね」


 俺達は携帯を取り出し、電話をする。


「あっ、親父? ああ、入籍してきたよ。それがさ、あっさりと終わって……そうそう! ……みんな、そんなもんなんだな……そういうことか……わかった、とりあえず帰るわ」


 俺が電話を切ると、綾も同士に終わったらしい。


「何だって?」

「お母さんが、実感ないでしょ? って……」

「俺もだよ。温度差があるだろって……まあ、役所仕事だからってな。ここから、一緒に暮らしたり……その、あれだ、子供とかを作って……そのうちに実感するって」

「う、うん……私は、苗字が変わったから……吉野さんって呼ばれるうちに実感するって」


(そうか……男と女じゃ、色々と違うのか)


「さて……じゃあ、俺の家に行くか。というか、もう綾の家でもあるけど」

「そ、そうなんだね……不思議……」

「確かに……」


 俺たちは目を合わせ……静かに微笑み合う。


 そして、再び手を繋いで歩き出す。







 俺の家に到着して……まずは、母さんに挨拶をする。


 二人で正座をして、語りかける。


「母さん、俺……結婚したよ。まだ実感はないけど……母さんと父さんのような、幸せな家族を作りたいと思ってる。今日から、綾をよろしくお願いします」

「お義母さん、お久しぶりです。清水……吉野綾です。なんだか不思議な感じですね……お義母さんも、結婚した時はこんな感じだったのですか? ……なんだか、夢を見ているようで……ふわふわします。私も冬馬君と幸せな家庭を作りたいと思います。これから、よろしくお願いします」


 そこで、綾が俺に振り返る。


「本当に良いのかな?」

「ああ、母さんも喜ぶと思う」

「お義母さん、有り難く使わせて頂きます」


 綾の荷物は、母さんが使っていた部屋に置いてある。

 つまり、今日からは綾の部屋でもある。


「じゃあ、少し部屋を確認してくるね」

「ああ、行ってくるといい」


 綾は立ち上がり、階段を上っていく……。


(さて……いよいよか……どうする? 優しくできるか心配だ……)


 その時——俺の頭に……。


『冬馬! 女の子には優しくって言ったでしょ! 自分本位にやったら……怒るわよ?』


 そんなわけはないのに、そんな声が聞こえたような気がした……。


「うん、わかってる……大事にするよ、だって——掛け替えのない女の子だから」






 俺は五分ほど自分を落ち着かせ……綾の元に向かう。


「綾、どうだ?」

「うん……全部ありそうかな」


(とはいえ……どうすればいいんだ?)


「冬馬君?」


 下から綾が覗き込んでくる。


(ええい! 男、冬馬! しっかりしろ!)


「綾、覚悟はいいか?」

「ふえっ? ……あっ——はぃ……」


 俯いてモジモジしてる綾を目の前にして……俺のスイッチが入る。


「きゃっ!?」

「さて、俺の部屋に行くか」






 俺は綾をお姫様抱っこして、自分の部屋のベッドに押し倒す。


「ま、待って……お、お家の人は?」

「麻里奈は卒業式だし、親父はそれを見に行ってる。そのままお別れ会があって、帰りも遅くなるそうだ」

「そ、そうなんだ……でも、シャワーとか……私、昨日から入ってなくて……」


(いや、それはそれで……待て! 母さんのセリフを忘れたのか!?)


「それもそうか……すまん、性急すぎたな」

「う、ううん……浴びてきてもいい……?」

「ああ、もちろんだ。俺はここで待ってる。覚悟が決まったら入ってくれ」

「は、はぃ……」


 そう言い、綾が部屋を出て行く……。


「っ〜!! ……ハァ……危ないところだった」


(母さんのセリフを思い出さなかったら……やばかったな)


「せっかくの思い出なのに、綾が嫌な思いをするところだった……もしや、そのために?」


(母さん、ありがとうございます)







 俺は座禅を組んで、静かに……その時を待つ。


 そして……足音が聞こえてくる。


「は、入ります……」

「お、おう……っ〜!!」


 そこには、タオルを巻いただけの綾がいた。

 その長く綺麗な脚は艶めかしく……タオルの隙間から谷間が見えている。


「は、恥ずかしいね……」

「綾、大事にする——お前の全てを俺にくれ」

「は、はぃ……全部、冬馬君にあげます……優しくしてくださぃ……」


 そこで、俺の理性は飛んだ。









 と、普段の俺ならなっていただろう。


 しかし、俺は有言実行の男であり、母の言葉もある。


 優しくベットに押し倒したら……入念に準備をする。








 そして……いよいよ、俺のアレがやばいことになる。


「と、冬馬君……その——もう我慢しないで良いよ……?」


 その時——脳が弾けた。










 ……すげぇ……何だ、これ?


幸福感が半端ない……気持ちいいとか、そういうものを超えている……。


「えへへ……嬉しぃ」


 隣には、生まれたままの姿で微笑む綾がいる。


「その、あれだ……痛くなかったか?」

「うん……だって、優しくしてくれたもん」

「そ、そうか」

「ふふ、覚悟しておけなんて言って……結局優しいんだから」


 そう言い、俺の頬をツンツンしてくる。


なにこの子? めちゃくちゃ可愛くない? えっ? 俺の奥さんなの?


「まあ……母さんが語りかけてきた気がしてさ」

「そっかぁ……」

「でも、もう約束は果たした」

「ふえっ?」

「覚悟しろよ——次は手加減できない」

「もう、さっきしたばっかりなのに」

「優しくできないかもしれないが……」

「ううん——良いよ、冬馬君なら……」


 そうして再び……俺たちは身体を重ねる。


言葉では言い表せない幸福感に包まれながら……。

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