第177話 再会
それから日にちが経ち……。
卒業式当日がやってくる。
(啓介も無事に受かったし……これで、あとは綾に会うだけだ)
「綾ちゃん、間に合うかな?」
「だと思うが……」
綾は一昨日帰ってくる予定だったが、誠也が風邪を引いたらしく……。
今日の朝ギリギリに空港に着く予定らしい。
昨日の電話でも、二人にしきりに謝られたが、それは仕方のないことだ。
……すると、俺のスマホが振動した。
「ん?綾?」
「なんかあったのかな?」
俺はとりあえず電話に出る。
「もしもし?」
『も、もしもし!? 冬馬くん!?』
電話越しの綾は慌てた様子だ。
「落ち着け、綾。どうした?」
『えっと、電車事故があって……幸い、大怪我した人や死人はいなくて……でも、点検作業があって遅延しちゃうって』
「タクシーは?バスは? レンタカーは時間がかかるか……」
『もうすっごい並んじゃって……卒業式、間に合わないかなぁ……みんなと一緒に出たかったのに……あっ! 誠也! ちがうの! 誠也は悪くないから!』
電話越しに、誠也の泣き声が聞こえてくる。
(このままでは、二人にとって良くない思い出になってしまうな……そんなことは、この俺が許さない)
「綾、玲奈さんに代わってもらえるか?」
『えっ? う、うん……』
すると……。
『もしもし? 冬馬君?』
「お久しぶりです、玲奈さん」
『ごめんなさいねぇ、こんなギリギリになって……』
「いえ、誰も悪くありませんよ。怪我人もいないそうですし。今から迎えに行くので、綾に着替えをさせておいてください。そして、誠也に泣くなと。お前の兄ちゃんが、何とかしてやるからと」
『……ふふ、相変わらずね。わかったわ、二人のことは任せてちょうだい。でも、貴方が気をつけなさいね?』
「ええ、もちろんです。安全運転でいきます。幸い、まだ時間はあります」
『そうね。卒業式は十時開始だから、まだ二時間半はあるわね』
「ええ、それでは失礼します」
俺は電話切り、急いで準備を済ませる。
「お兄! ヘルメット!」
「おっ、サンキュー。じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね!」
「もちろんだ」
麻里奈からサブのヘルメットを受け取り、俺はバイクを走らせる!
(さて……待ってろよ、綾——すぐ行くからな)
◇◇◇◇
ど、どうしよう!?
「お、お母さん!」
「落ち着きなさい、綾」
「へ、平気かな? 事故とか……」
「あの子がそんなヘマをするとは思えないわ。誠也、泣かないの」
「グスッ……僕のせいで……」
「お兄ちゃんに、しっかりしたところを見せるんじゃなかったの?」
「……うん!」
(ほっ……よかった。私のせいで、誠也が気にしちゃったら可哀想だもん)
「ほら、早く着替えなさい。おそらく、バイクで来るってことよ。貴方が怪我をしないように、しっかりしなさい」
「う、うん!」
私はトイレに行って、上着やスカートを脱いで……動きやすい格好に着替えます。
(うぅー……可愛い格好で会おうかと思ってたのに……)
「顔、変じゃないかな? なんか可愛くなくなったとか思われたらどうしよう? 冬馬君は、かっこよくなってるんだろうなぁ……」
(ど、どうしよう……今更ドキドキしてきた……このタイミングで会う予定じゃなかったから……でも……会えるんだ……嬉しい)
「それに相変わらずカッコいいし……すぐに判断してきてくれるって……結局、私にとって冬馬君は——ヒーローなんだ」
(でも、それでも良いって思えるようになった。それに依存したり、甘えすぎたりしなければ……その分、私が他のことで支えれば良いんだって)
「よし! 情けない顔しない!」
私は気合いを入れて、着替えを済ませるのでした。
そして……軽く食事を済ませ、駐車場付近で待っていると……。
「あっ!」
忘れもしない、見覚えのあるバイクが目に入る。
気がついた時には、私の身体は走り出していました。
(冬馬君だ……ずっと会いたかった……!)
◇◇◇◇
安全運転を心がけつつ、何とか一時間で到着し、バイクから降りると……。
「冬馬君!」
駐車場の向こうから、綾が駆け出してくる。
(……ああ、綾だ。ずっと……会いたかった)
気がつけば俺も、走り出していた。
そして……。
「会いたかった……!」
「俺もだよ」
綾を強く抱きしめ——キスをする。
その体温、声、香り、その全てが愛おしい。
「んっ……」
(……身体全体が、幸せに包まれている感覚だ)
「お母さん! なにするの!? 見えないよ!?」
「はいはい、貴方にはまだ早いわ」
(おっと、いかんいかん)
名残惜しいが、綾と離れ……もう一度、姿を確認する。
顔は少し大人っぽくなり、長い髪もサラサラで綺麗だ。
でも、雰囲気なんかは以前のままのような気がする。
「綾、お帰り」
「う、うん……ただいま!」
「ほら、早く行きなさい」
「そうですね。誠也、また後でな」
「うん! 兄ちゃん——ありがとう!」
「なに、気にするな。可愛い弟を泣かせるわけにはいくまい」
俺は綾にヘルメットを渡し……。
「ほら、いくぞ」
「えへへ、懐かしいね!」
「ふっ、そうだな」
一年ぶりだというのに、すぐに以前のような雰囲気に戻る。
実は少しだけ心配していたが……ほっと一安心である。
「しっかり掴まってろよ?」
「うん!」
懐かしい柔らかなモノを感じつつ、俺はバイクを発進させる。
必ず、間に合わせてみせる!
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