第128話文化祭の終わり

 一息ついた俺たちは、最後の仕事へと向かう。


 そして、そこには……大行列が出来ていた。


「あっ! さっきの人だよ!」


「かっこよかったですっ!」


「ミスターコンテストの映像見ました!」


「あと! さっきの騒動もっ!」


「彼女さん、素敵な彼氏で良いなぁー!」


 俺はあっという間に女の子に囲まれてしまう。


「あん? どうなってる?」


「むぅ……ほら、モテちゃった……」


「いや、これはそういうアレじゃないだろう。というか、俺が好きなのはお前だけだ」


「「「キャ——!!!」」」


「うおっ!?」


 な、なんだ!?


「出たわっ! 一途な愛!」


「はっきり言ってくれる人って素敵だよねっ!」


「ブレない感じが良いです!」


「は、はぁ……どうも」


「貴方に投票しましたからっ!」


「私もステキな彼氏作りますっ!」


 気が済んだのか、女の子たちは帰っていった……。


「……とりあえず、教室に入るか」


「そ、そうだね……あの、嬉しかったです……」


「あん?」


「はっきりと言ってくれて……」


「んなの当たり前だ。ほら、行くぞ! 言っておくがな……俺だって照れくさいんだからな?」


「へっ? ……ふふ、そうなんだ?」


「当たり前だろ……」


「えへへ……ありがとう、冬馬君」


 この笑顔が見れるなら、頑張った甲斐があるというものだ。



 中に入ると……予想通り満席となっている。


「あっ! きたわねっ!」


「もう、二人のせいで大変だよー」


「ごめんね、愛子、加奈」


「悪かったな、みんな。じゃあ——最後の一踏ん張りと行くか!」


 俺はクラスのみんなに向けて、大きく声を発する。


「「「おうっ!!!」」」


「「「ええっ!!!」」」


 男子と女子が元気よく返事をしてくれた。


 そして、協力して接客をしていく。


 ……そこにはリア充も非リア充もない。

 陰キャも陽キャもなく、みんなが笑顔でいる。

 そうだ……本来はこうあるべきなんだよ。

 たかが高校生に、上下関係やマウントの取り合いなんぞ必要ない。

 それが一部の人間や、良くない大人達によって歪められているだけなんだと思う。

 みんなそれぞれ違って当たり前で、それを少しでも受け入れていけば良いんだと……。




 そして……最後のお客様がお帰りになる……。


「つ、疲れたぁぁー!!」


 さ、流石にきつい……!

 コンテストからの騒動、そして最後の労働……。


「ふぅ……冬馬君は質問攻めが凄かったもんね?」


 そう……俺目当ての客が押し寄せてきて、その対応に追われたのがきつかった。

 無下にはできないし、かといって写真は困るし……。

 だが……おかげで綾の騒動は大した騒ぎにはならなかったのが幸いだな。


「まあ、これで少しはのんびりできそうだな」


 ストーカー?も解決したし、文化祭も終わったし。

 あとは、年末まではのんびりとしたいものだ。


「二学期も色々あったね……」


「ああ、そうだな」


「面倒ばかりかけ……ううん、何でもない」


「そう、それで良い。さて……片付けるとしますか」


 みんなで協力して、ある程度の片付けを済ませる。

 明日の午前中に学校に来て片付けるが、今やっておけば早めに帰れるからだ。




 そして、在校生だけの後夜祭の時間になる。


 キャンプファイアーの火を囲むように、皆が談笑したりしている。


 中には踊ったり、告白している人なんかもいる。


 ちなみに、綾はいつもの二人と楽しくお喋りをしている。


 俺は一人佇み、火を眺めていた……。


 正直……少し疲れた。


 ストーカーの件が相当ストレスがかかっているな……。


 そもそも、ずっと気を張っていたし……。


 あいつだとわかった瞬間——湧き上がる怒りを抑えることに苦労した。


 そのせいか、少し具合が悪い。


 綾には絶対に言わないし、気づかれないようにしなくては。


「冬馬」


「真兄、お疲れさん」


「お前もな。しかし、大人になったよ」


「えっ?」


「よく耐えたな? すぐにでも殴りたかっただろ?」


 綾の方を見ると、こちらには気づいていない。


「ああ、そうだね。綾がどれだけ不安だったかを考えると……今でも殴りたいくらいだ」


「でも耐えたな。自分がそれをすればスッキリはするかもしれない」


「うん、でも綾は悲しむ。それに俺も補導されちゃうしね」


「そしたら清水は責任を感じてしまうな……クク、大きくなりやがって」


 その大きな手で、俺の頭をワシワシとする。


「ちょっ!?」


「冬馬、お前はもう平気だな」


「真兄……」


「弟みたいに思っているお前を、俺はずっと心配していた。だが、俺は教師だ。お前一人だけを特別扱いはできなかった。もちろん、他から見たら特別扱いしているだろうが……俺はもっと色々してやりたかった」


「そんなことは……十分やってくれてるよ。真兄には感謝してる」


「へっ……俺も清水に感謝しなくちゃいけないぜ。可愛い弟分を、ここまで成長させてくれたんだからな。おっと……邪魔者は消えるとするかね」


 真兄はそう言うと立ち去り、俺は後ろを振り返る。


「冬馬君!」


「おう、どうした?」


「あ、あのね……好きですっ! 付き合ってくださいっ!」


「……はい?」


「はぅ……ち、違うのっ! わ、私、言ってないなと思って……」


「……ああ、そういうことか」


 確かに告白される前に、俺が告白をしたんだよな。


「あ、あと……後夜祭で告白すると、ずっと一緒に居られるって……」


「ジンクスってやつか……あんまり好きではないんだがな。俺は母さんが死なないように、そういうのに縋ってたから。でも、結局願いは叶わなかった……」


「そっか……ごめ」


「でも——たった今、好きになった」


 綾はいつもそうだ。

 俺の嫌な思い出を上書きしてくれる。


「ふえっ?」


「これで綾とずっと一緒に居られるんだろ?」


「う、うん」


「なら良い。そのジンクスを信じるとしよう……いや、そうなるように努力していこうか——お互いにな」


「冬馬君……うんっ! そうだねっ!」


「おっと、肝心なことを忘れていたな……綾、俺も好きだ」


「ふふ……すごいよね。自分が大好きな人が、自分のことを好きって……一体どんな確率なんだろう?」


「さあな……まあ、それには同意する」


「よーしっ! 踊ろっか?」


「よし来たっ! 行くぞっ!」


 綾の手を引き、キャンプファイアーの近くへ駆け出す。


 俺達も皆の輪の中に入り、不器用ながらもダンスを楽しむ。


 こうして、俺達の文化祭は終わりを迎えたのだった。

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