第100話冬馬君は彼女を困らせられない

 翌日の電車の中、俺に新たな課題がなされた。


「そうか……うん、わかったよ。これを考えるのは俺の役目だろうな」


 綾は、昨日の帰りに矢倉書店に行ってきたらしい。

 他にも用事があったから、そのついでだそうだが。

 その際に写真を見せたところ、弥生さんの方もまんざらでもなさそうだったらしい。

 さらには、なんと親父さんから許可が出たそうだ。

 なんでも、俺の紹介する男なら少なくとも良い男だろうと。

 なんていうか、すげー嬉しい。

 ただ、条件がある……デートには俺がついていくこと。

 というわけで、色々と考えなくてはいけないわけだ。




「なんか、嬉しいね。こうして色々な人が繋がっていくの。もちろん、どうなるかはわからないけど……」


「まあ、そうだよな。まあ、楽しいことではあるんだが……その反面忙しくなるから、綾成分が足りなくなるところだがな?」


「ふえっ?えーっとですね……わ、私もです……」


「よし。じゃあ、今日はどっか行くとするか」


「うん!えへへ〜、丁度良かったぁ」


「うん?何がだ?」


「ううん!デート楽しみ!」


「そ、そうか……俺もだよ」


 相変わらず真っ直ぐな子だから、嬉しい反面困ることもあるなぁ。

 主に俺の心臓的に……この高まりが止むことはあるのだろうか?




 教室の席に着くと、啓介が声をかけてきた。


「冬馬君!おはよう!」


「おはよう、啓介。昨日はありがとな」


「いや!こっちの台詞だよ!もう母さんも姉さんも喜んじゃって……帰ってきたお父さんが、また連れてきなさいって言うくらいに」


「そうか、それから良かった。じゃあ、また語り合うとするか」


「うん!いいね!」


「……お姉さん?田中君、お姉さんいるの?可愛い?綺麗?」


「あの〜、綾さん?」


「冬馬君は黙ってて!大事なとこなの!」


「は、はぃ……」


 ヤベェ……目の色が変わったかのようだ。


「い、いや、清水さんなんかとは比べ物にならないよ!清水さんの方が可愛いよ!」


「そこは大事じゃないの!お姉さんの反応は!?」


「え?えっ〜と……」


「綾、あのなぁ……」


「むぅ〜!」


「わかった、わかった。黙ってるよ」


「別に普通だったと思うよ?好青年だとは言ってたけど……」


「ホッ……そうなんだ。ひとまず、よしとします!」


「あの〜、綾さん?一体何事で?」


 とりあえず、膨れるのがめちゃくちゃ可愛から良いけど……。


「だ、だって……この間名倉先生が……と、冬馬君は歳上の女性にもモテるって……そ、それに年上好きだったって……」


「あんにゃろう……綾に何を吹き込んでやがる……」


「ほ、ほんとなの……?」


 ……うん、オロオロしてて可愛い。

 ……少し困らせたい気はするが、それは俺の矜持に反するな。

 もしそうだと言ったら?とか言ってみて、反応を見たいとは思うがな。


「まあ、あの歳であの辺りにいるのが珍しかったんだろう。だから、よく遊んでもらってはいたな。みんなの弟みたいな感じで。俺も長男だったから、歳上に憧れたりはしたかもな」


「あっ——そ、そうなんだ。うん。その気持ちはわかるかも。私も、昔はお兄ちゃん欲しいとか思ってたもん」


「まあ、あるあるだわな。というわけで……啓介、すまなかったな」


「ううん、大丈夫だよ。清水さんは、冬馬君が大好きなんだねー」


「うん!大好きなの!」


 ……啓介、よくやった!

 この言葉が聞ければ……今日はすでに最高の日だ!


「……なあ、ホームルーム始めても良いか?」


 いつの間にか、真兄が横で腕組みをしていた。


「あっ——真司先生」


「ふえっ!?あぅぅ……は、恥ずかしいよぉ〜」


 ………まあ、俺は大満足ですけどね。




 そして、昼休みの時間になったのだが……。


「冬馬!?どうなった!?おい!!」


「おっ、落ち着けっての!く、首が締まる……!」


「馬鹿野郎!これが落ち着いていられるか!」


「せ、先生!冬馬君、死んじゃいますよ!」


「おっと……すまんすまん。俺としたことが」


「ケホッ……ったく。また騒がれても面倒だから単刀直入に言うけど、とりあえずデートの許可は下りたよ。たたし、俺が同行すること。あと弥生さんも、俺の紹介なら会ってみるってさ」


「っ——!!そ、そうか……!ウォォォ——!!冬馬!!今日ほどお前がいて良かったと思った日はない!」


「それはそれで、なんだか複雑なんだけど?……まあ、良いけど。真兄には色々と世話にはなってるから。俺に恩返し出来ることがあって良かったよ」


「で!いつだ!俺は今からでもいけるぜ!」


「行けねえよ!学校だよ!」


「アハハ……弥生さんもお仕事ありますし……」


「む?そうもそうか。いつなら都合がいいだろうか?」


「それも聞いてありますよ。直近だと、今週の土曜日なら空けられるみたいです。なんでも、親父さんの都合で定休日だそうなんで」


「土曜日……確か……加奈の奴が……よし!問題なし!」


「あるから!何だ!?今の一言は!?」


「あぁ?いや、加奈が土曜日は暇か?って聞いてきてよ」


「馬鹿なの!?それ急かされるからな!?例の一緒に遊ぶ件だろうに……」


「だ、だが、しかし……グヌヌ!」


「まあ、気持ちはわかるけど。俺も、妹か綾かって言われたら困るところだ」


「う〜ん、そんなに困ることないんじゃないかな?加奈も一緒に来れば良いと思うよ?」


「うん?……まあ、真兄に女性の相手がいた方が、よりカモフラージュにはなるか。ただ、兄さんには私がいるわ!とかならないのか?」


「ふふ、加奈はそんなこと言わないよー。むしろ、良い人いないかしら?って言ってたもん」


「じゃあ、問題ないか。ただ、黒野だけ1人余るな……」


「そしたら愛子も呼ぶよ。愛子も知ってるし、仲間外れにしちゃうもん」


「真兄と黒野の関係も知ってるから問題ないと……決まりだな」


「冬馬君……それよりも……先生の様子がおかしいんだけど……」


 真兄を見ると……。


「服装は?タキシードか?花束は?バラか?車は?フェラーリか?クソ!俺の財力じゃ無理がある!借金……?よし!今から金融機関へゴーだ!!公務員の力見せてやるぜ!」


「待て待てーい!普通の格好で良いから!車もワゴン車で十分だから!そして……最後のセリフはシャレになってないから——!!」




 なんとか踏み止まらせることには成功した……。


 ……公務員ほど信用度の高い職種はない。


 それこそ、融資を受けられる額はエゲツない。


 あの勢い……フェラーリとか、本気で買ってきそうだったな……。

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