第89話冬馬君は彼女に萌える

 翌日の月曜日の放課後、俺は早速道場へと顔を出していた。


 昨日帰ってから連絡したら、明日なら平気だと返ってきたからだ。


 自主練の日なので、自由に使って良いそうだ。


 というわけで……。


「さて、剛真。やるとするか」


「おう!言っておくが、俺も負けられぬ!!」


「ククク、お互いにな」


 何故なら……。


「冬馬君〜!頑張って〜!道着姿カッコいいよ〜!」


「浜中君ー!負けんなよー!勝ったら……うん、一緒に帰ってあげるー!」


 と、このような状態なわけだ。

 ちなみに、部員達は色々な意味で男泣きしてる。

 部長にも春が来たと……もしくは、羨ましいと。

 いや、まだ付き合ってもいないけどね……。


「なっ——!?ま、負けられん……!冬馬!本気でいかせてもらおう!!」


「げげっ!?あいつなんてこと言いやがる……おいおい、素人に本気とか……聞いちゃいねえな……とりあえず、死なないようにしよう」


「行くぞ!!」


「こいや!」


 お互いに、道着を掴んでは払うを繰り返す!


「くっ——!?やりおる……!」


「チィ——!相変わらず隙がねえ……!」


「どうした!?冬馬!!組み合うのは怖いか!?」


「あぁ!?舐めんなよ!上等だ!コラァ!!」


 道場の真ん中にて、堂々と組み合う!


「ぐぬぬっ!!やはり、体幹がしっかりしておるな!」


「当たり前だ……!パワーでお前に敵うわけがないからな……!」


「部、部長と互角……」


「あいつ、なんでも得意なのか!?」


「苦手なものとかないのかよ!?」


 均衡状態が続く……が。


「どうした!?力が抜けてきてるぞ!?」


「クッ……!スタミナでは勝てないか……!」


「ふんぬっ!!」


「おおっ!?」


 俺が息を吐いたタイミングを見計らって、剛真が大外刈りを仕掛けてきた!


 そしてドーン!!という音がし……勝負はついた。


「チクショー、負けたかぁ……あぁー!疲れたー!」


「ハァ、ハァ……なんという奴だろうか。インターハイでも、こんな強い奴滅多にいない。だが、これで騎馬戦のリベンジを果たした」


「フゥ……ああ、そうだな。次は何して遊ぶか考えておくか」


「冬馬君!?大丈夫なの〜!?」


「浜中君ー!良いぞー!今日、一緒に帰ろー!」


「ど、どうすれば良い?と、冬馬!!」


「どうって……帰れば良いじゃんか。勝利者としてな。というか、インターハイにもきてもらったらいいんじゃないか?お前、強くなりそうだ」


「グ、グヌゥ……!き、緊張するのである……!」


「……まあ、気持ちはわかるがな。男ならどっしりと構えてろ。なっ?」


「……そうだな。情けない男になるところだった……」


 その後、帰るかと思ったのだが……。


「ねえねえ!冬馬君!私にもできるかな!?」


「あっ!私もー!ちょっとやってみたいかも〜」


「はい?いや、まあ……良いかもな」


「ん?何故だ?」


「綾は超絶可愛いからな。いざという時の為に、護身術を教えるのもアリだなと思ってな」


「ちょ、超絶……はぅ……」


「うむ!森川さんも可愛らしいので、必要かもしれないな!」


「何言ってるし!!」




 というわけで、女子用の道着に着替えたわけなのだが……。

 これは、嬉しい誤算があったな……。


「綾……めちゃくちゃ可愛いな!オイ!!」


「ふえっ!?ど、どういうこと!?え?普通の道着だよね……?」


 あっちでも剛真が、森川に似合っていると言っている。


「女子にはわからんか……!この可愛さは……!しかも……ポニーテール!!」


 男ならば分かるであろう!

 可愛い女子の道着姿の破壊力を!!

 しかも、ポニテ!!

 こう……萌えるわな!!


「よ、よくわかんないけど……あ、ありがとぅ……そ、そんなに見つめられると照れます……」


「断る。この目に焼き付けておく」


「あぅぅ……」


 ひとしきり眺め満足したので、訓練の時間にする。

 ちなみに、スマホにて綾の写真を撮ったことを明記しておこう。

 照れ顔もまたよし!


「まずは、俺が横から右の肩を掴むから……」


「えっと……こう?」


「そうだ。肩を掴んだ方の手を、掴まれてない方の手で思い切り引くんだ。それだけでも、相手はよろめく。もっと言えば、同時に肘鉄も食らわすと良いな」


「で、できるかな……?」


「まあ、怖いもんな。中々難しいよなぁ……1番単純だが、痛いやつを教えるか」


「えっと、どうしたらいいかな?」


「後ろ向いてくれ」


「う、うん……」


 ……ヤバイ、うなじが綺麗だ。

 ずっと見ていられるな……。

 え?俺がまるで変態だって?

 ……否定ができない。

 しかも、今から抱きつくし。


「では……失礼」


 後ろから綾の両腕と共に、身体をぎゅっと抱きしめる。

 と、同時にとてつもなく良い香りが俺を襲う!

 いかん……ムラムラしそうだ。

 いや、これじゃ変態そのものじゃねえか!

 しっかりしろ!これは必要な訓練なんだ!


「ひゃん!?」


「どうした?ほら、膝を曲げて俺の頭に頭突きをするんだよ。俺は、綾を襲う暴漢なんだから撃退しないと」


「え、で、でも……ドキドキしちゃう……」


「ほら、俺を暴漢だと思って」


「お、思えないよぉ〜……だって……キュンとしちゃうもん……」


「ゴハッ!?」


 あまりの可愛さに、俺はその場に崩れ落ちる!!


「あ、あれ?ほどけた……?」


「や、やるな……!俺を萌え倒すとは……!」


 綾は、見事に俺を撃退することができた。

 萌えという攻撃により……。

 え?趣旨が違うって?

 うん、俺もそう思う。


 もちろん、その後ちゃんとした訓練をした。

 というか、女子同士でやれば良いだけの話だった。

 俺も剛真も、道着姿の可愛さに冷静ではいられなかったようだ。





「なんか……楽しかったね!」


「そうか、ならよかったよ。俺も可愛い綾が見れて大満足だ」


「はぅ……と、冬馬君もかっこよかったですよ……?」


「ありがとよ。あっ、そういや黒野はどうした?」


 昼休みは俺といたし、放課後はこれだしな。


「うん、明日の昼休みに伝えるって。で、そのまま放課後遊ぶことにしたよー」


「そっか。じゃあ、明日はどうすっかなー」


「ふふ、寂しいですか〜?」


「ああ、寂しいな」


「ふえっ!?あ、えっと、あの……」


「何故聞いた本人が照れる……?」


「だ、だって……むぅ〜……私だって大好きな冬馬君を照れさせたいのです……」


「そんなの……簡単なことだ」


「え……?あれ?なんで顔背けて……どうして、今照れてるのー!?」


 ……自覚がないとは恐ろしいな。


そのセリフ自体がどんな破壊力を持っているかも知らずに……。


 全く……可愛い彼女なことだ。


 一体いつになったら、慣れるのいうのか。


 ……そんな日は来なそうだな……。




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