第62話冬馬君は彼女と定番デートする

 昨日、綾にデートを申し込み、無事サプライズも成功した。


 誕生日自体を知ることは容易かった。


 綾のお母さんに聞けばいいだけだからな。


 そこから9月あたりから考え、ネックレスに決めた。


 指輪とか……重たいかなと思ってな。


 それに……それを渡す時は……。


 まあ、そういうことだな。


 だが、男よけに必要かもしれない……。


 そこは、後々考えるとしよう。






 準備をして、綾を迎えに行く。


「冬馬君!おはよう!」


「おう、おはよう……よし、動きやすい格好だな。お洒落したかったかもしれないが、我慢してくれ。ちなみに……俺は、割とそういうの好きだからな?」


 今日は青のジーンズに赤のスニーカー、上は白いモコモコのニットのセーターを着ている。


「えへへ……冬馬君が好きなら良いの。でも、洋服の指定って始めてだったから、それはそれで選ぶの楽しかったよ?冬馬君風に言うと、限られた装備アイテムの中から選ぶ感じかな?」


「そうか、楽しかったならよかった。いや、その例えめちゃくちゃわかりやすいな」


「えへへ、でしょ?冬馬君もシンプルな格好だけどカッコイイね!やっぱり、脚が長いからかな?」


 俺は黒のジーンズに、上は青のパーカーを着ている。


「あ、ありがとな。格好を褒められるのは、あまり慣れないな……」


「ふふ、可愛い。あっ、あまり嬉しくないかな?」


「いや、まあ、でも……綾に言われるなら、不思議と悪くない」


「……そ、そっか……わ、私が特別ってこと……?」


「もちろんだ。綾は、俺の特別な女性だ」


「う、嬉しいです……」


 ……おっといかんいかん。

 上目遣いと照れ顔に、心臓を射抜かれてる場合じゃない。

 まだ、始まってもいないのに。


「ゴホン!では……行くとするか」


「結局、どこに行くの?」


「それは、着いてからのお楽しみだ」


 俺は綾を乗せ、県境を越えていく。

 関東で特別なデートの定番といえば……アレしかない。



「わぁ……遊園地だ!」


 そう、遊園地である。

 恋人や家族連れの定番だな。


「あれだろ?……夢だったと聞いたからな、彼氏とくるのが……」


「え……?り、リサーチしてたってこと……?うわぁ……嬉しい……」


 黒野と森川から聞き出した。

 かなり恥ずかしかったが、こんなに喜んでくれるなら安いものだ。

 ……だが、恥ずいのはここからだ……!

 いけ!俺!可愛い彼女の夢を叶えるんだ!


「さて……お姫様」


 俺は綾の手を取り、ひざまつく。

 そして、手の甲にキスをする。


「ひゃい!?」


「今日一日、綾はお姫様だ。したいこと、やりたいことをなんでも言ってくれ。俺は出来る限り、それに応えよう」


「は、はい……お、王子様……」


 ……流石に恥ずかしいな。

 良かった、人がいなくて。

 なぜなら、振替休日なので、今日は皆にとっては平日だからだ。


 その後チケットを購入し、無事に中へと入る。

 もちろん、俺の奢りである。


「さて……まずは何がしたい?」


「腕を組んで、この中を歩きたいです!」


「お安い御用だ。ほら、どうぞ」


 ……俺の理性よ、今日一日は頑張ってくれよ……!

 やせ我慢でもいいから、カッコつけさせてくれ……!


「えへへー……私の頭がね、ちょうど冬馬君の肩に当たるの……これ、好きかも。身長のバランスが合ってて良かったぁ」


「まあ、10~12センチ違いだからな……その、キスもしやすいしな」


「う、うん……」


 その後楽しくお喋りをしながら、園内を散策した。

 これだけのことが、こんなに楽しいとは……凄いことだな。


「さて……そろそろアトラクション行くか」


「混む前に、ジェットコースター乗りたいかな」


「よし、行こう」


「うん!」


 2人で並ぶことなく、案内される。

 やはり正解だったな。

 我ながらよく考えたものだ。


 そして……。


「キ、キャーーー!!!」


「ウ、ウォーーー!!!」






「す、凄かったね!私、実は来るのも初めてで……いつもの理由で……」


「俺もだな。母さんが身体弱かったからな。一緒に乗れないし。もちろん、母さんは連れてってあげたいって言ったんだが……俺と麻里奈が嫌だったんだよな。母さんと一緒に楽しめないものは……」


「冬馬君……」


「いや、すまんな。綾の誕生日のお祝いなのに……」


「ううん!聞かせて!だって、冬馬君の話なら聞きたいもん!」


「……フッ、良い女だな。ますます惚れてしまうな。そんなに惚れさせて、一体俺をどうする気だ?」


「ふぇ!?ど、ど、どうしよう!?……わ、私に夢中にさせるのです!」


「ハハハ!今更だな!とっくに夢中だというのに」


「はぅ……!わ、私もです……」





 その後小休憩をとり、次のアトラクションを決める。


「わ、私、お化け屋敷が行きたいです……」


「ん?そういうの好きなのか?」


「じ、実は……でも、好きだけど怖がりなの……」


「あー、なるほど。うちの麻里奈と一緒か。あいつも『お兄!一緒に見てあげる!』って言いながら、ブルブルしてたな」


「あっ!わかる!私も誠也に一緒に見てあげる!って言ったことあるもん」


「……その時の誠也の顔が思い浮かぶな。やれやれって顔してなかったか?」


「あれ?なんでわかったの?」


 ……そりゃ、同じ気持ちになったからだろうな。





 お化け屋敷も、そのまま入ることができた。


 そして……定番ですよねー。


「キャーーー!!!」


「ひゃん!?」


「と、冬馬君!?どこ!?」


「ふぇ!?」


「今!なんかいたよ!?」


「冬馬君〜怖いよぉ〜」


「はいはい、ヨシヨシ。俺がいるからな」


 結局、楽しいんだか怖いんだがわからんな。

 俺は可愛い綾を見れて、眼福なのですけどね。


「あー!怖かった!でも楽しい!」


「そうか、あれで楽しいのか」


「うん!冬馬君!ありがとう!また一つ夢が叶ったよ!」


「なんか、いっぱいあるらしいな?」


 森川と黒野に聞いたら、昔から言っていたそうだからな。


「う、うん……子供みたいかな?」


「いんや、いいんじゃないか。可愛いよ」


「そ、そうですか……ずっと、いいなぁって思ってたの。好きな人と登下校したり、デートしたり……その、イチャイチャしたり……」


 ……モジモジする綾は正義である。

 もはや、説明などいらない。


「フッ、俺に任せておけ。全て叶えようではないか」


「え?あ、でも、その……ドキドキしすぎちゃうから、手加減してくれると嬉しいです……」


 ……それは……こっちのセリフだーーー!!!


 俺は園内の中心で、心の中で叫ぶのであった。






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