第53話冬馬君は友達に謝る

 とりあえず、自己紹介は済んだ。


 ここからが、ある意味で1番大事だ。


「さて……これで、自己紹介は済んだな」


 俺は地べたに正座し、土下座をする。


「と、冬馬君!?」


「まあ、お前ならそうするか」


「ガハハ!相変わらずだな!」


「まあ、冬馬は筋を通す男ですから」


「アハハ!たしかに!」


「仕方のない人……まあ、それが良いところでもあるわ」


「皆、不義理をしたことを謝らせてくれ。俺の勝手な都合で、今まで関わらなかったことを……そして、それに付き合わせてしまったことを……すまなかった!!」


「冬馬君……」


 これが、本当の目的だ。

 こいつらを、俺は勝手な都合で裏切った。

 母さんを亡くした俺を、心配してくれた友達を……。

 こいつらが、変わらず俺を友達と言ってくれたことが、どんなに嬉しかったか……。

 きちんと、謝りたかった。

 こいつらは、気にするなと言うだろう。

 だが、俺は自分が許せない……!


「よし!冬馬、起きるんだ」


「アキ……ありがとな。お前が無理矢理関わってきたこと……今では感謝している」


「へっ……らしくないこと言うなよ!親友!」


「アキ……」


「エヘヘ、冬馬君!いい友達だね!」


「だが……ケジメは必要だな。まずは、俺からだな!」


「よし!こい!」


「オラァ!」


 腹に拳がめり込む!


「グホッ!」


「と、冬馬君!?」


「いいんだ、綾。さあ、次!」


「ガハハ!セイァ!!」


 同じく、腹にめり込む!


「ゲフッ!!……あ、相変わらずだな……!はい、次!」


「やれやれ、暑苦しいですね。まあ……悪くないですけど!」


 こちらも、同様にくらう!


「ガハッ!見かけによらない奴め……!」


「ハァ……仕方のない人ね。ハァ!!」


 頭にチョップをくらう!


「アイタッ!お前は呼んでないから!さっき殴っただろうに!?」


「よーし!いっくよー!!」


「待て待てーい!飛び蹴りはーーグハァ!?」


 俺は吹っ飛び、床を転がる!


「冬馬君ーー!!??」


「あー!スッキリした!帰ろー!」


「そうね、帰りましょう」


「ガハハ!またな!」


「やれやれ、律儀な男ですね」


「じゃあな!冬馬!綾ちゃん!そいつヨロシク!!」


 ……全員が、教室から出て行った。

 たくっ……こんな俺に、変わらずに接してくれるとは……。

 良い友達を持ったな、俺は……。



 その後起き上がり、急いで昼飯を食べる。


「なんか、凄かったね……それぞれ有名な人だし」


「あー……そういや、そうだな。生徒会長、勉強でほぼ学年トップ、陸上部のエース、運動部連盟の会長、学校1のモテ男……うん、地味なのは俺だけか……」


「えぇー!?地味じゃないよー!もう目立ってるよー!」


「いやいや、まだまだだ。大好きな綾の彼氏に、相応しくなるためにはな」


「あ、あぅぅ……!でも、でも……もう!どうしようー!?」


 悶えている綾を見るのが、俺は好きだ。

 愛しさが込み上げてくる……。


「……そういえば、チアガールやるんだっけ?」


「う、うん……恥ずかしいけど、冬馬君が応援団やるから……」


「まあ、応援団と一緒にやるからな。無理はするなよ?」


「してないよ!じ、実は……やりたかったの。でも、周りに止められて……私がいると、男子が押し寄せて練習にならないって……」


「ほう?それはそれは……綾、安心しろ。見にきた奴の目を、片っ端から潰していく」


「ダメだよ!?……あと、冬馬君と一緒に帰れるし……お、応援団姿の冬馬君見れるから……絶対カッコいいもん!」


 ……どちらかというと、チア姿の綾に俺がやられそうだな……。

 見たいけど、見せたくない……!

 グググ……!!いや、綾がやりたいなら尊重すべきだ。

 俺がすることは……邪魔者を始末することだな。






 その日の放課後、早速体育祭の練習をした。

 リレー選手には、バトンの受け渡しのがあるからな。

 こればかりは、時間外にやるしかない。

 といっても、30分程度だ。


 練習が終わった俺は、綾が待っているところへ向かう。

 すると、森川や黒野と楽しそうに話していた。


 ……そうか、俺と付き合ったことで、遊ぶ時間は減ったはず。

 恋人も大事だが、友達も大事だ。

 今なら、それがよくわかる。

 そうだな、少し待っていよう。


 俺は気づかれぬように、その場を離れる。

 そして水道水を飲み、近くのベンチに座る。


「よう、冬馬」


「おう、アキ。珍しいな?1人か?」


「いんや、あそこにいるよ。ただ、疲れてな……悪いが、お前を口実に使った」


「いや、いいさ。それくらいなら構わん」


「おっ!?やっぱいいな!」


「肩は組むな!」


「キャーーー!!!」


「来たわ!きたわーー!!」


「隠れ男前の眼鏡姿も良かったけど、これはこれで……!」


「イケメンと男前の友情……萌えるわ!!」


「……ア、アキ?アレはなんだ?」


「……前にもあったろ?」


「そういえば、電車の中であったな……あれは、そういう視線だったのか……」


「そういうことだ。ただでさえお前、一部では人気だったからな。そっから、俺とお前が……その……」


「やめろーー!!言うなーー!!」


「俺だってやだよ!!だが、俺は女の子の期待は裏切れない!!」


「威張るんじゃねーー!!」


「キャーー!!」


「いちゃついてるわ!」


「眼福……!!」


 ……一体、世の中はどうなってる?


 ハァ……言葉にならない。


 精神的ダメージが大きい……。


「冬馬君ーー!!」


 ハッ!俺の天使がきた!

 傷ついた心を癒されたい!


「綾ーー!!」


 俺は綾を強く抱きしめる!!


「はぇーー!?と、冬馬君!?な、なんで!?」


「綾ーー!!好きだーー!!」


「えぇーー!?う、嬉しいけど……わ、私も好きーー!!」


「……お前ら、バカップルか」


「うるせーー!!お前のせいだよ!!」


 ……だが、俺は知る。


 帰りに綾に事情を説明すると……。


「え?あ、そういう……だ、ダメ!あっ、でも、悪くないかも……」


「綾さん?おーい、綾さーん?」


「でも、でも……」


 ……どうやら、綾も萌えたらしい。


 だが……そんなことでは、俺の愛は揺るがない!!


 ただ……想像はしないでくれと、頼み込んだことは明記しておこう。

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