第46話冬馬君は地味な生徒B君をやめる

 ピピピッ!!ピピピッ!と目覚ましの音がする……。


「……ふぁーあ、よく寝たな。さて、いよいよか。あー……前髪が目にかからん。後ろも、以前は肩ぐらいまであったからなぁ……」


 きちんと髪を切るのなんか、何年振りだ?

 今までは、自分で切っていたからな……。


 俺は部屋を出て、一階へ降りる、


 そして、洗面所の鏡の前立つ。


「違和感……これは、慣れるまで時間がかかるな」


 その後歯磨きを終え、リビングに入る。


「あっ!お兄!おはよ!……うん!カッコいいよ!」


「おっ、冬馬。おはよう、さっぱりしたなぁ」


「おはよう、二人共。いまのところ、違和感半端ないけどな」


「ふふふ……綾ちゃんが惚れ直しちゃうね!」


「だと、良いんだがな……だが、本番はこれからだ」


「冬馬、気張れよ?」


「ああ、親父。では、飯を食い、準備に入る」


 俺は、急いで朝ご飯を食べる。





「さて、まずは電話するか」


 俺は、とある人に電話をかける。


「あ、もしもし。真司さん、おはよう」


「おう、冬馬。覚悟は決めたようだな?」


「まあね。綾のためなら、なんてことない。ようやく、真司さんが言ってたことわかってきたよ」


「だろ?そういうのは、自然とわかるものさ。で、許可は取ってあるが、どうする?」


「真司さんがそのまま、自分のところに持っていくことはできるかな?」


「俺がお前から受け取り、そのまま行けばいいのか……おう、いいぜ。今日は、別のところに停めておく」


「ありがとう、真司さん。お金はきちんと払うから」


「そんなのいるか。可愛い弟分の門出の日だ。それくらいさせてくれ」


「真……真兄、ありがとうございます」


「おっ、久々だな。それで呼ばれるのは……ただ、条件がある」


「ん?なんだ?俺にできることなら、出来る限り協力する」


「ふっ、さすがは我が弟分よ。あのなー、今度の体育祭で優勝したクラスの担任がな、他の男の先生達からキャバクラ奢ってもらえるんだよー……冬馬、本気出してくれないか?」


「はい、さよなら。じゃあ、よろしく」


「待てーー!!お前ばっかずるいぞーー!!俺だって、女の子とーー」


 俺は電話を切る。


「全く……せっかく、カッコよかったつーのに……」


 まあ、照れ隠しなのはわかってるけど……いや、あれは本気だったか。




 次に俺は、久々の髪型でヘアセットをする。

 そしてスプレーで固める。

 でないと、潰れてしまうからな。


「よし、これでいいか」


 もうすでに、親父と麻里奈は家を出ている。

 俺は家を出る前に、母さんのところに行く。


「母さん、おはよう。うん、髪型変えたよ。大事な女の子が、俺が不甲斐ないせいで、周りから色々言われてるみたいなんだ。その子は何も気にしないけど、俺が嫌なんだ。だって、その子には心から笑っててほしいから。俺は、その笑顔を好きになったんだから……うん、じゃあ行ってくるよ」


 俺は家を出て、バイクに乗って出発する。






 学校近くまで来た。


 そして、そのままゆっくりと校門の中に入っていく。


「な、なんだ!?あのカッコいいのは!?」


「カワサキだ!!あれ、最低でも40万はするぜ!?」


「だ、誰かしら!?」


 俺は、真司さんがいるところまですすむ。

 そして、メットを脱ぐ。


「おっ!懐かしいな!さっぱりして……うんうん、いいんじゃないか?」


「はは、まだ違和感あるけどね。じゃあ、お願いします」


「おうよ。帰る時間になったら、俺のところに来い」


 バイクは真司さんに預ける。

 でないと、イタズラとかされそうだからな。


 よし、ここからだな。

 俺は、自分の容姿が整っているとは思っていない。

 よくて、上の下だろう。

 だが、やりようはいくらでもある。


 髪の量を軽くし、サイドを残しつつ、天辺にボリュームを出す。

 前髪も、おでこが軽く出るようにした。

 えりあしは、刈り上げない程度に残しておく。


 あとは姿勢だ。

 背筋を伸ばし、胸を張る。

 顎を引き、堂々と歩く。

 これだけで、大分変わるはずだ。


「ねえねえ!!あの男前は誰!?」


「あんな人、うちにいた!?」


「なんか、強そうだな……」


「あんな気合いの入った奴いたっけ?」


 ……とりあえず、上々のスタートといったところか。

 すると、聞き慣れた声がする。

 そいつに、肩を組まれる。


「よっ!冬馬!おいおい!さっぱりしたな!」


「よっ、アキ。まあな……お前に聞きたい。これで、少しは平気か?」


「良い男だな、お前は。ああ、ばっちしだ。十分男前て通じるさ。この、超絶イケメンの俺が保証する」


「なら、安心だ。じゃあ、行ってくるわ」


「おうよ。ククク……これで、俺も遠慮なく絡めるな」


「……ほどほどにな」


 そのまま視線を感じながら、校内に入る。

 そして、入り口付近の順位表を見る。

 うちの学校は、学年50位までは張り出されるからな。


「……よし。これならば……」


 俺の順位は、学年で5番目に入っていた。

 そして……。


「おいおい……綾には本気を出せとは言ったが……」


 なんと、綾は学年トップになっていた。

 だが、5位ならなんとか釣り合いもとれるだろう。


 その時、俺の心が動く声が聞こえる。


「と、冬馬君……?」


 そちらを見ると、目を見開いた状態の、俺の大好きな女の子がいた……。


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