第34話冬馬君は勇気を振り絞る

あのプールの日から、1週間が過ぎた。


あれ以来は、会っていなかった。


単純にお盆休みということで、お互いに忙しかっただけだな。


俺も、家族と父方の祖父母の家に行ったり、バイトに精を出していた。


綾の方も、お父さんが帰ってきて、家族水入らずの時間を過ごしていた。


俺はきちんと挨拶しようかと思ったのだが、綾に止められてしまった。


お父さん、帰れなくなっちゃうからと。


なにもかも手につかなくなっちゃうと。


というわけで、綾には家族を優先するように言っておいた。


それは、かけがえのない時間だからと……。


綾も、それをわかってくれた。


ほんとうに、良い彼女を持ったよ。








バイクを走らせ、俺は綾の家の前に着く。


「冬馬君!久しぶり!」


「綾、久しぶりだな。元気そうでよかったよ」


「……でも、寂しかったよ?冬馬君に会えなくて……」


「まあ、それは……俺も同じだ。だが、家族孝行できたんだろ?」


「エヘヘ、良かったぁ。うん!お父さんったら喜んじゃって……か、彼氏とかいないだろうな!?って言われちゃった」


「うーん……俺はきちんとしたいのだが、そういうわけにいかないんだろう?」


「うん、ごめんね。私は、冬馬君のそういうところ好きなんだけど……」


「いや、いい。家庭の事情は人それぞれだ。じゃあ、行くか」


「うん!」


綾は慣れた感じで、バイクの後ろに乗りメットを被る。


「よし、しっかり掴まってろよ?」


「うん!でも、いいのかな?冬馬君に送り迎えしてもらって……」


「気にするな。俺がしたいからしてるだけだからな。それに、どうしたって遠回りになるし、お金もかかる」


俺の地元駅は、綾は定期外だし、バスじゃないと来れない。

しかも、時間が片道30分はかかる。

バイクなら、ここまで10分ほどでつけるからな。

往復でも苦にはならない。


「で、でも、冬馬君だってエンジン代とか……それに、色々出してもらってちゃってるし……私も、バイトしようかな?」


「うーん……まあ、本人が気になるなら考えた方がいいか……よし、その辺の話もしてみるか」


とりあえずバイクを走らせ、俺の家に向かう。

今日は、お家デートということだ。

綾が、また行きたいと願ったからな。


果たして、俺の精神は持つのだろうか?

まあ、妹もいるから平気か。





と、思っていたんだが……。


「あれ?あいついない?」


「え?いないの?」


「自転車がないからな。まあ、とりあえず上がってくれ」


これは、忍耐力が試されるな……!


「ふ、2人きり……!お、お邪魔します!」


家に入り、リビングに向かう。

自分の部屋では、理性が持ちそうにない。

予定変更である。


「アレ?今日はリビングで良いの?」


「まあ、誰もいないしな。ここでも、ゲーム機あるからできるぞ。ほら、あそこに」


ゲームをしてみたいと言われたから、今日はうちというわけだ。


「わぁー!ホントだ!みてもいいかな!?」


「ああ、良いぞ」


「ありがとう!」


嬉しそうな表情で、アレコレと見始める。

その可愛い笑顔に見惚れつつも、キッチンに向かう。

そして、お茶でも出そうかと思ったのだが……。


「ん?何かメモがあるな……なにぃ!?」


「ど、どうしたの!?冬馬君!?」


「い、いや!なんでもない!ちょっとコップを落としそうになっただけだ!」


「そ、そう、なら良いんだけど……」


「ああ、大丈夫だから。そのままで良い」


あんにゃろう……どういうつもりだ?

妹のメモには、こう書いてある。


「お兄!友達から誘われたから出かけてくるね!押し倒しちゃダメだよ!キスまでは許可します!~バイ貴方の可愛い妹より~」


だが、これでいない理由はわかったな。

俺に気を遣ったな……相変わらず、できた妹だ。

キスか……心に留めておこう。


とりあえずお茶を入れ、綾のところに戻る。


今更だが、気合いが入っている気もする……。

服装は赤のミニスカートに、ピッタリめのシンプルなU字型白Tシャツなのだが……。

まさしく、俺好みの格好である。

あと……真っ直ぐに下ろしている髪が、輝いて見える気がするんだよな……。

……あと、何か違和感を感じる……まさか。


「綾……もしかして、髪切ったか?」


「……気づいてくれたぁ……!嬉しい!」


危ないところだったー!!


「いや、なんか髪が綺麗だなーと思ってな。少し、長さが違う気もするし」


「エヘヘ、そうなの。昨日、美容院に行きました!」


「そういうことか。うん、可愛いな」


「あ、ありがとう……で、でも冬馬君は、どんなのか好みかな……?」


「なんでも似合うと言いたいところだが、それは違うか。うーん……古臭いけど、染めてほしくはないかな。あと、ロングは元々好きだな。あとは、ポニテもいいな」


「そうなんだ……うん、大丈夫!私も、染める気はないから。そっか、良かったぁ……ずっと伸ばしてて……エヘヘ」


いかん、可愛すぎる……!


「と、とりあえず、ゲームするか?」


「え?うん、そうだね!これ、やりたい!」


それはゾンビが出てくるゲームで、2人プレイできるやつだ。


「お、それか。いいぞ」


起動をして、2人並んでソファーに座る。





ダダダダダダ……!!!!!

リビングに銃撃音が響く。


「き、きたよー!ど、どうすれば良い!?」


「任せろ!俺の女に近づくんじゃねえ!」


「凄い!全部倒しちゃった!」


「ハッ!ざまあねえな!」


その後も、2人で楽しくゲームを続ける……。




「あー!楽しかったね!」


「まあ、たまには2人プレイもいいな」


「えへへ、ゲームでも守ってくれたね。そ、それに、俺の女って……」


「あ、ごめんな。言い方悪かったか?」


「ううん!う、嬉しかったよ!その、ドキドキしました……」


ドキドキしてんのは、俺だっつーの!!

綾は頬を赤らめ、モジモジしている。

……これは、チャンスなのか?

初めてだから、よくわからん……。

よし!俺!勇気を出せ!


「あー……綾、俺はお前が好きだ」


「え……?」


「だが、俺は好きだからこそ大事にしたいと思う」


「うん……でも、私……」


「まあ、待ってくれ。それでも……もう気持ちを抑えられそうにない」


「冬馬君……?」


「嫌なら、振り払ってくれ」


俺は両手で、綾の肩に手を置く。


「あっ……」


綾は、ゆっくりと両目を閉じる。


俺も、ゆっくり近づき、出来るだけ優しくキスをする……。


そして、ゆっくりと離す……すると、綾の瞳から涙が零れる。


「嬉しい……ずっとしたかったの……でも、自分から言ったら……はしたないって思われちゃうかなって……私ばっかりしたいのかなって……」


「綾……」


俺は堪らなくなり、ゆっくりと抱きしめて、もう一度キスをする………。


「あっ……うん……」


綾も、それを受け入れてくれた……。


そうか……やはりあっていたようだ。


雄としての欲求を超えた何かが、俺の中に渦巻いている……。


もしかしたら……これが、愛しいということか……。





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