第31話冬馬君はガンバル

 さて、夏休みに入り8月5日を迎えた。


 あの初デートから、3日といったところか。


 ……めちゃくちゃ楽しかったな……すこぶる可愛いし。


 ちなみに、あれ以来は会っていない。


 お互いに、そればかりになってはいけないからな。


 もちろん、会いたいとは思うが……。


 それに……俺とは違い、綾は人気者だ。


 友達などの付き合いもあるだろう。


 それを邪魔してはいけない、それではあまりに自己中だ。


 ちなみに、俺はアキにだけは付き合ったことを伝えてある。


 めちゃくちゃ笑われたがな……。


 だから言ったろ!?とか、ハハハ!ほれみたことか!とか……。








「さて、部屋の片付けはこんなものかな」


 今日は、いよいよ綾が俺の部屋にくるのだ。

 ……まあ、俺も健全な男子なので、色々と隠さなきゃいけないしな。


「お兄ー!?そろそろくるんじゃないのー!?」


「ああ!わかってる!今、終わったところだ!」


 俺は一階に戻り、リビングに入る。


「と、冬馬!俺はどうしたらいい!?」


「なんで、親父がテンパってるんだよ……普通でいいよ」


「何を言うか!息子の初めての彼女だぞ!?そして、お前の傷を癒してくれた子だぞ!?父として、きちんとしたいではないか!」


「親父……有り難いが、普通で頼む。親父がそうやって構えていたら、綾の方が緊張しちまうよ」


「むむ……それも、そうか。では、少し落ち着けてくる」


 親父は和室に行き、母さんになにかを言っているようだ。


「お兄に彼女かー……」


「なんだ?寂しいのか?」


「ち、違うし!お兄が幻滅されて振られないか、心配なだけだし!」


「うんうん、可愛い妹よ。大丈夫だ、彼女は彼女。妹は妹、別腹だ」


「よく言ってる意味がわからないんだけど……」


「大丈夫だ、俺もわかっていない」


「……もしかして、お兄……緊張してる?」


「……バレたか。実はそうだ。手汗が止まらない……」


 心臓の鼓動も早いしな……まだ、来てもいないのに大丈夫か?これ。


 その時、インターホンの音が聞こえる。


「あっ!お兄!!」


「ああ、行ってくる」


 俺は玄関に向かい、ドアを開ける。


 そこには、とてつもなく可愛い女の子が立っていた。


「おい、綾……ちょっと、可愛すぎるぞ?」


「こんに……えぇ!?ど、どういうこと!?」


 普段はおろしているロングヘアーを、ポニテにしている。

 もちろん、左右に触覚ありの状態だ。

 今日は白のワンピースタイプの服装のようだ。

 上には薄い生地の、水色のカーディガンを羽織っている。

 なんていうか……眩しい……清楚系な感じだ。


「うん、よく似合ってる。それに、ポニテがめちゃくちゃ可愛い」


「あぅ……あ、ありがとう……その……嬉しいです……」


 うむ、照れ顔は眼福である。

 ご飯三杯はいけそうだ。


「お兄がデレデレだ!」


「うんうん、俺も母さんにああだったな……」


「こ、こんにちは!本日はよろしくお願いします!」


「まあ、とりあえず上がんな」


「うん!お邪魔します!」






 その後、母さんに挨拶をし、リビングのテーブルに座る。


「冬馬君のお父さん、初めまして。清水綾といいます。と、冬馬君の彼女……です」


「うんうん、初々しくていいね。こちらこそ初めまして。冬馬の父で辰馬といいます。色々極端で面倒くさい息子だが、よろしく頼むね」


「はい!こちらこそよろしくお願いします!」


「はい、もういいだろ。部屋行こうぜ」


「えー!?お兄!私、話してないよー?」


「これから来ることもあるから、その時にしてくれ。俺が居た堪れない」


「あれ?お兄、照れてるのー?」


「おやおや、息子の照れ顔なんか初めてだな」


「ふふ……冬馬君、可愛い」


「あー……勘弁してくれ。ほら、行くぞ」


「うん!すみません、失礼します」


「冬馬ー、いくら可愛いからって襲うなよー?」


「……ガンバルよ」


「え?え?えぇー!?」


「お兄!ガンバ!!」





 そして、俺の部屋に入る。


「お、お邪魔します……」


「お、おう。まあ、座んな」


「う、うん……さっきのは……?」


「うん?ああ、気にしなくていい。綾が可愛すぎるから、俺が襲わないか心配しただけだろ」


「ふぇ!?お、お、お……」


「まあ、落ち着いてくれ。そんなことしないから。親父と妹いるし」


「そ、そうだよね!ご、ごめんなさい……」


「……今日、親父と妹いて良かったな……」


「え?」


「いや、なんでもない。さて、どうする?」


「お、お部屋見てもいいかな?」


 ……大丈夫なはず……あれらは隠してある。


「ああ、良いぞ。大したものはないが」


「やったぁ!ありがとう!エヘヘ、好きな男の子の部屋だー」


 ヤバイな、可愛いぞ。

 俺、ガンバレ。


「へぇー、なんか不思議……誠也とは違う……それに、匂いが……あっ!この本知ってる!あっ!これも!」


 匂い?臭かったのか?どういう意味だ?


「ねえねえ!ちょっと見てもいいかな!?」


「ああ、いいぞ」


「緊張のせいかな? 少し暑くて……ハンガーあるかな?」


 そう言い、カーディガンを脱ぎたしたのだが……。


「……すまん、綾。冷房の温度下げるから着ててもらえるか?」


「え?ど、どうして?ワンピースだけだと、み、みっともないかな……?」


「違う。魅力的すぎて、俺の理性がもたない」


 今すぐベッドに押し倒したくなる……!

 肩出てるだけなのに……!

 何故に、こんなに衝動に駆られる……!

 俺!ガンバレ!


「理性……?あっ……えっと……その、着てますぅ……」


「頼む……ドキドキしすぎて、俺にはまだ早い。ごめんな」


「で、でもね!う、嬉しかった!その、私がそういう対象になるって……」


 何を言っているんだ?この可愛い奴は?


「当たり前だろ。俺は健全な男子高校生だ。好きな女の子には……その、なんだ。ドキドキするわけよ」


「で、でも冬馬君、あまりそういう視線向けないから……私、そういうのには敏感だったから……だから、どうすればドキドキしてもらえるかなって……」


 ……いかんいかーん!!耐えろ!!おれ!!


「それは、そうだろう。興味がないといえば嘘になるが、それでは失礼だろうに。そんなことは、俺の信念に反する。その、なんだ……綺麗事かもしれないが、俺は綾の中身もきちんと好きなわけで……もちろん、身体も魅力的で……でも、好きだからこそ……あー、すまん……上手くまとまらない」


「う、ううん!伝わってきたよ!そ、その……とっても、嬉しいです……エヘヘ……私、冬馬君が彼氏で幸せ者だなぁ……」


 いや、どう考えても俺の方が幸せだと思うが?


「そ、そうか。その、なんだ……俺も、綾が彼女で幸せだよ」


「エヘヘ、凄いね。こんなことってあるんだね」






 その後、しばらく話していたが、俺の精神力に限界が訪れた。


 なので、リビングに戻り、親父と妹を交えてお喋りに花を咲かせた。


「あのですねー、お兄がですねー……」


「へぇー!そうなんだ!」


 今は、妹と話している。

 俺の小さい頃の話のようだな。


「なあ、冬馬。綾ちゃんは良い子だな」


「ああ、そう思う。俺には勿体ないくらいだ」


「ハハ!まさか、息子から聞けるとは……冬馬、わかってるな?」


「ああ、もちろんだ。大事にする。出来るだけ、節度ある行動をする」


「なら、よし。まだ、高校生だからな。だが……まあ、いいか」


 その後、夕方を迎え、綾をバイクで駅まで送っていく。


 ちなみに、来る時に迎えに行かなかったのは、綾がそう望んだからだ。


 よくわからないが、自分で俺の家まで行って、挨拶をしたかったらしい。


「冬馬君、ありがとう!わざわざ、家まで送ってくれて……」


「いや、いいさ。心配だしな」


「え?まだ、夕方だよ?」


「可愛い彼女がいると心配なんだよ」


「か、彼女……慣れないね……ずっと嬉しい」


「そうだな……俺もだ。じゃ、じゃあな!」


「うん!またね!今日は楽しかった!」


 再び、バイクを走らせる。



 俺も、可愛さに慣れそうにもないな。

 むしろ、増してきている。


 とりあえず言えることは、今日の俺ガンバった!

 よく耐えた!自分を褒めてやりたい!


 ……当分の間、自分の部屋には入れないようにしよう。


 俺の理性が持ちそうにない……。

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