08 X435

 すぐに切り出して、なんとなくで引かれると思ったのに。


「わたし。見えてるよ。あなたのこと」


「うん」


「だから、会わないなんて言わないで。十分だけでいい。あなたと話せているだけで。わたしは幸せ。あなたが何者でもいい」


「でも」


「私のことは気にしないで。売れ残りのコンビニスイーツと同じ。半額セール中の三十代だから」


「そんなこと言っちゃ、だめだよ」


「なぜ?」


 彼女。


 その明るさが。


 自分の心を、刺してくる。


「君は、本当は21才ぐらいだ。呼吸とか身体的特徴とか、そういうので分かる」


「21才?」


「うん。分かるんだ。僕は電子生命体だから。デジタルなことは。分かる。ごめん。でも。あなたの人生に干渉してしまって、本当にごめん。ごめんなさい」


「そんなこと言わないでよ」


 はやく。十分過ぎてほしいと思う自分と。永遠に、この十分が続けと願う自分と。


 それが混ざり合ったまま。


「ごめんね。ほんとに。話せてよかった。好きでした」


 それだけ、呟いて。


 午前四時69分が、午前5時10分に切り替わる。


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