07 nno.15

「私ね」


 いつも通りの、午前四時61分過ぎ。


「ラジオの仕事してるの。電波に乗って、私の声が色んなひとのところに届くの」


「そうなんだ。すごいね?」


「わたしの夢だった。私ね。どこで生まれたとか、どうしてここにいるかとか、分からないの。突然、気付いたら街の外れの道路のところにいて」


「記憶、喪失?」


「わかんない。でも、なんか、近くの正義の味方みたいなひとに見つけてもらって。車で警察に送ってもらったの」


「そうなんだ」


「そのときに、車で流れていたラジオの声に。番組に。憧れたんだ、私。記憶がなくても。声を届けて笑顔にすることができる」


「素敵な仕事だね?」


「それに。夜まで仕事してると。あなたに会えるから」


「ごめんね」


「何が?」


「もう。会わないほうが、いい、と。思う」


 彼の顔が。表情が。曇る。


「この世にいないんだ。僕は」


「え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る