外伝~結衣の決意~

 和馬さんが死んでから……あっという間に1ヶ月が過ぎました。


 和馬さんのお別れ会の帰り道……私はあの日のことを思いだします……。





 今日は……大好きな和馬さんとデートです!


 和馬さんは私の初恋相手で、ずっと好きな人です……。

 みんなは、アンタの容姿なら他にもっと狙えるでしょ?というけれど……。

 私からしたら世界一の男の人だ。


 優しいし、身長も高いし、がっしりとした身体。

 笑うと目が無くなるところとか可愛い。

 なにより好きなのは……私を見てくれるあの眼差し。

 小さい頃からいつも変わらず見守ってくれる。


 そして私のワガママを聞いてくれるが、行き過ぎるとキチンと叱ってくれる。

 まだ妹のようにしか見られてないのはわかっている。

 それに甘んじている自分にも。

 でも、私も結婚が可能な16歳……そろそろ妹を終わりにしたいと思っていました。


 そんな時にチャンスがきました。

 両親の結婚記念日のプレゼント選びに誘うことができたのです!

 実は最近避けられていて、不安だったから嬉しかったなぁ……。


 多分私が年頃の娘だから、和馬さんは気を使いだしたのだと思う。

 よく俺みたいなオッさんとじゃなく、同世代と遊びなさいと言ってくるし。

 私は和馬さんが良いのに……。


 でも今回はこのチャンスを生かして、和馬さんに女の人として意識してもらえるよう頑張る!


 なので私は前日の夕方から服を引っ張りだし、あーでもないこーでもないと試行錯誤を繰り返した。


 でもあまり胸が強調されるのは恥ずかしいし、和馬さんにはしたないって思われたくない。

 でも、女の人と意識してもらうためにはそういうのも必要だし。

 う〜!どうしよう!……私は悩んだ末にワンピースに決めた。


 これなら肩もでて女の人らしさもあるし、清楚感もあって和馬さんも引かないだろうし。


 あとは明日、和馬さんがいつも褒めてくれる髪をきちんとして、軽く化粧をして行こう!


 そして当日の朝を迎え、準備をした私は家を出発した。


 ちなみに電車やホームで多くの男性からジロジロ見られてしまった。


 う〜、なんかこの格好変かな?肩になにかかけるべきだったかな?


 でも、今から戻ったら和馬さんを待たせちゃうし。


 私は、気にしつつも待ち合わせ場所に向かいます。


 待ち合わせ場所には、すでに和馬さんがいました。


 私は慌てて駆け寄ります!


 私が待ちましたか?と聞くと平気だよと言われました。


 私が勇気を振り絞ってデートみたいですね?と聞いたらあっさり躱されてしまった。


 むむむ、大人の対応。


 そして2人で歩きだします。


 私は久しぶりで、もう嬉しくてテンションが上がってしまい、抑えるのが大変でした。


 ここ1か月くらいは和馬さんが忙しい事もあり、うちにも来なかったから。


 和馬さんは、その鍛え抜かれた身体と精神を買われ、営業マンとして働いている。


 業績も常にトップに近い位置にいる、優秀な営業マンらしい。


 なにそれ!?カッコいい!!


 そして、少しでも長く一緒に居たい私は和馬さんに提案した。


 喉が渇いたのでどっかでお茶しませんか?と。


 和馬さんは快く了承してくれました。


 さらに!なんと!ワンピースのことを褒めてくれた!


 私は、飛び上がりたいほどの嬉しい気持ちを抑えつけ、冷静を装った。


 それでも滲み出ていたかもしれないけれど。


 でも、その後の子供扱いがいただけない。


 もう!私だってもう和馬さんと結婚できるんだよ?


 そして良い感じの喫茶店があったので、私達はそこに入ることにしました。


 中はとても涼しいところでした。


 席に着き、最初は暑かったこともあり快適だったんだけど……。


 でもワンピースだったので肩が出てしまい、次第に冷えてきた。


 う〜、やっぱりなにか羽織ってくるべきだったかな?


 でも、そうすると肩だせないし……。


 すると、和馬さんが黙って立ち上がり、私の肩に自分が着ていたシャツをかけてくれた。


 もう、心臓が止まるかと思った。


 だって顔が近くまできて、いい匂いがして。


 そしてそのすぐ後に、嬉しさと恥ずかしさがこみ上げてくる。


 私はもう!好き!大好き!と言いたかったぐらいキュンとしました。


 だって、こっちが何も言っていないのに黙って肩にかけてくれるなんて……素敵。


 なにより、私はこの煙草と和馬さんの混じった匂いが大好きだった。


 和馬さんは、お父さんによく怒られてたけど。


 煙草を吸って娘に近寄るんじゃない!って。


 そして、その後は楽しくお話しが出来た。


 お父さんの愚痴や、和馬さんの会社の話とか。


 とりあえず女の人の影はなさそうなので、一先ず安心することができたかな?


 まだ買い物も終わっていないので、名残惜しいけど店をでることにした。


 するとビックリ!

 いつの間にか会計が終わっていたらしく、和馬さんはそのまま私の手を引いて店を出た。

 私は会計云々よりも、そちらの方に動揺してしまった。


 でもなんとか平静を保てたとは思う……思いたい。

 というかスマートすぎる。

 う〜!私の方がどんどん好きになるばかり。

 やっぱり、私じゃまだまだ子供なのかなぁ……。


 でも和馬さんは言ってくれた。

 私が大人になったら奢ってと。

 つまり……それまで待ってくれるってこと?

 それともただの社交辞令?

 う〜!わかんない!


 私は信号待ちでそんなことを考えていた。


 すると、いきなり和馬さんに抱きしめられた。


 私はなに!?え、え!?と思った瞬間、物凄い衝撃に襲われて意識を失った。






 ……そして目を覚ました私は病院にいた。


 お母さんとお父さんが、泣きながら私を抱きしめます。


 私は状況が飲み込めず混乱していた。


 ただ身体中が痛いことと、和馬さんが居ないことに気づきます。


 そして、すぐに直前にあったことを思い出し……両親に聞いた。


 和馬さんは!?和馬さんは無事!?


 両親は……私と目を合わせてくれませんでした。


 私はそれだけでわかってしまい、泣き崩れました。


 両親は泣き崩れる私に、ポツポツと語ってくれました。


 和馬さんが、私を暴走した中型車から庇い亡くなったこと。

 運転手は飲酒運転の居眠り運転だったこと。

 そして亡くなったこと。


 事故の激しさから、和馬さんが庇ってくれなかったら……私は間違いなく死んでいたこと。

 何故それがわかったかというと、私は事故当時……和馬さんに抱きしめられていたそう。

 和馬さんの身体は……見るも無残な様子で酷かったそう。


 なので……おそらく咄嗟に私を抱きしめて、自分がクッションになろうとしたのではと。


 私は理解して、また泣き崩れた。


 あの時、和馬さんは急に私を抱きしめた。


 きっと車に気づき、避けようとしたのだろう。


 でも、私がいるから避けられなかったに違いない。


 だから、私を抱きしめて2人で生き残れる可能性のほうを選んだのかもしれない。


 私の所為だ!私がボンヤリしてたから!和馬さんとデートできて浮かれていたから!


 私はそのまま、また意識を失った。


 そして目を覚ました。


 私は周りを確認し……ああ、夢じゃないんだと絶望した。


 すると、また涙が溢れて止まらない。


 楽しく終えるはずだったデートが、最悪の日になってしまった。


 そして両親が慰めてくれたが、一向に涙は止まらなかった。


 私は食事も喉も通らず、泣き疲れ寝るという行為を繰り返した。


 そして、いよいよお父さんが私の頬を叩いて怒鳴った。


 お前がそんなんで和馬が喜ぶと思ってんのか!?と。


 そして、お前だけが悲しいんじゃないだぞ!?とも。


 私はハッして、意識してお父さんの顔を見た。


 すると……そこにはやつれたお父さんがいた。


 そうだ……お父さんは、和馬さんを本当の息子のように思っていたのを私は知っている。


 でも私は泣き止まず、だって私の所為で和馬さんがと言うとお父さんは言った。


 いや、俺の所為だ……俺が和馬に、結衣に何かあれば頼むといつも言っていたからだと。


 あの野郎は俺との約束を律儀に果たしただけで、お前の所為じゃないと。


 そして、2人で抱き合い泣きました。


 そして悲しいけれど、一先ず泣くのはやめようと父と決めました。


 だってじゃないと、和馬さんが心配して天国に行けないと。


 そして吐き戻しながらも、私は食事をとり、リハビリを始めた。


 和馬さんのおかげで、私は重大な怪我もなく、順調に回復した。


 そして和馬さんの亡骸は……損傷が酷くすでに火葬してあるので、お別れ会だけが行われた。


 私はそこで知った……和馬さんが皆から慕われていることを。


 若い方から中年の方まで、幅広い世代がいた。


 そして皆が泣いて、悲しんでいた。


 私は中にはいるのが怖かった……もちろん、私が悪いのだからある程度は覚悟はしてた。


 けど……実際どんな罵詈雑言を言われるかと。


 お父さんとお母さんが私をじっと見つめていた。


 なので、私は勇気を振り絞って中に入った。


 1人学校の制服姿で松葉杖をついてる私に、皆が注目しています。


 私は大声で叫びます!


 私が和馬さんに助けて頂いた者です!

 皆さんの大切な人を奪ってしまい申し訳ありません!と。

 私は目を瞑り、どんな言葉でも受け入れようと構えました。


 しかし、一向に誰も何も言わないので恐る恐る目を開けました。


 すると、皆が笑っていました。


 ある人は、「ああ、君が和馬君がよく話してくれるお嬢さんだね。僕は彼に色々と助けてもらっててね」


 またある人は、「おお!和馬君の言う通り可愛いお嬢さんだ!こりゃ会社の女性に目がいかないわけだ」


 またある人は、「あら、貴方が噂のお嬢さん?ふん、あんな良い男に命を救ってもらったんだ。良い女になりなよ!」


 誰も私を責めなかった。


 私は思わず叫んだ……どうして誰も私を責めないんですか!?と。


 すると、皆が口を揃えて言った。


 そんなことしてもアイツは喜ばない。


 むしろ、和馬の大切な子である貴方を責めたりなんかしたら、こっちが怒られてしまうと。


 少なくとも、俺達が知るアイツならそう言うなと。


 私は……我慢しきれずに涙が溢れました。


 そうだ……私が知る和馬さんもそういう人だと。


 いつだって人のことばっかり。


 でもそんな人だから……私も含めてみんな大好きなんだ。


 そして、色々な話を聞かせてもらえました。


 そして……お別れ会が終わりを迎えた。





「お父さん……ここ、海がある……見てきてもいい……?」


「……そうか……わかった」


 そして、お母さんに支えてもらいながら海まで歩いた。


 私は叫びます。


「和馬さん!貴方のこと大好きです!私の命を助けてくれてありがとうございます!和馬さんのことは生涯忘れられないけど、和馬さんに心配かけないよう精一杯生きていきます!


 私は、和馬さんが救ってくれたこの命を精一杯生きようと心に誓いました……。




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