第366話 それって、八つ当たりじゃあ……巨大ゴーレム登場!(その3)

 そして数日後……。

 俺たちは、再びベッケンバウアー氏に会いに行った。




「バウマイスター辺境伯、貴殿が開発した板はいいな。以前よりも微量のミスリルでこれまでの焼き物板以上の性能を発揮する。魔法陣も刻みやすいと評判だぞ」


 ベッケンバウアー氏は、試作した四輪魔導車の重要部品を俺が魔法で作ったシリコン板に魔法陣を刻んだものに変えたところ、性能と稼働時間が大幅に上がったと報告してきた。

 

「使用する部品数も減ったし、魔道具の軽量化とコストダウンもできそうだ。なにより、魔道具ギルドが作れないものを魔導ギルドが作れた。万々歳だ! ざまあ見ろ! 魔道具ギルドめ!」


「魔導ギルドと、魔道具ギルドか……。本当に仲が悪いのだな」


「色々と歴史的な背景もあってねぇ……」


「余から見ると、同じような組織に見えるがな」


 今日は、魔王様とライラさんも俺たちに同行していた。

 バウマイスター辺境伯暗殺未遂事件の仲介役オズワルド議員が逮捕され、警備隊によって家宅捜索も行われた件を聞いたついでだ。

 なんでもその際に、ゾヌターク王国では産出しない宝石や出所が不明な金塊が見つかり、彼自身が取り調べで、プラッテ伯爵と魔導ギルドからのものだと証言したそうだ。


「もっとも奴は、中古魔道具の取引代金だと言い張っておるがな」


「オズワルド議員は起訴されるのかな?」


「殺人未遂では困難じゃな。我が国の法では、国外での犯罪を裁く法がないからの。金の流れが相当怪しいので、政治資金規制法と脱税くらいかの?」


 オズワルド議員の逮捕と家宅捜索も、実は別容疑での別件逮捕にあたるそうだ。

 バウマイスター辺境伯領内で発生した暗殺未遂事件で彼を裁くには、法律が整備されていないから仕方がない。


「となると、魔族はリンガイア大陸で犯罪のし放題か」


「その危険はあるが、逆に言うと、リンガイア大陸で捕まれば現地の法で処罰される。ゾヌターク共和国政府は口出しもできない。そこはお互い様だな」


 その辺は、これから交渉していかなければいけないのであろう。

 それは責任者に任せるとして、なぜエリーたちを連れてきたかというと、陛下が魔族の王と会ってみたいと言い出したからだ。

 暗殺未遂事件の依頼者がプラッテ伯爵と魔道具ギルドであるという証拠を持参したついで、という建前と共に、陛下は魔族にも王族がいて安心したというのが本音かもしれない。

 上手く繋がりをもっておき、もし魔族が王政国家を作ろうとしたら、手を貸して同盟でも結んでおきたいという本音もあるのであろう。

 いわば魔族国家の分裂に期待してのことだが、国家同士の関係に綺麗事などない。

 自分たちの利益のため、エリーもライラさんもそれを期待しての参上かもしれなかった。  

 あくまでも非公式の会見なので、そこまでの効果は期待できないと思うけど。


「魔族の国の魔道具には、このような板は?」


「いや、魔族の国の魔道具は、従来の人間が作る魔道具の仕組みと同じじゃぞ。機能を達成でできるように魔晶石と人工人格が取りつけてある。人間のものよりも大分性能は上だがな」


 加えて、品質管理と規格化により生産力が高く、同じ魔道具だと性能バラつきがなく、魔力消費量が少ない。

 人間にはいまだ生産できない種類の魔道具を作れる強みもあった。


「この魔法陣を刻む板は凄いな。魔族にもない技術だ」


「そうですね。こう言っては失礼ですが、まさか技術力が劣る人間の方が新しい魔道具の仕組みを開発してしまうとは……」


 シリコンウェハーと極限鋼の板にミスリルを吹きつけ、そこに魔法陣を刻んだものが魔道具の重要部品になるなんて、二人は聞いたことがないようだ。


「新しい板の素材をバウマイスター辺境伯が作るとはな。魔道具ギルドからすれば、余計にバウマイスター辺境伯には死んでほしいというわけだ」


 どういうわけか、エリーは俺をヴェンデリンと名前で呼ばなかった。

 そうか、ベッケンバウアー氏や王城の人間が不思議に思うからか。

 この娘は若いのに、こういうところも頭が回るな。

 だからライラさんも、彼女に忠誠を誓っているのだと思う。


「この技術の開発が進めば、人間の魔道具も我ら魔族に対抗可能になるであろうな。魔族の技術でないのが残念であるが……。あとは、ヘルムート王国の王が、オズワルド議員とプラッテ伯爵と魔道具ギルドに対しどんな措置をするかだが、それは余の領分ではないからな」


 プラッテ伯爵は知らないが、魔道具ギルドへは無用の混乱を防ぐため、現在の会長やそのシンパを組織から排除し、新しい人事体制の元で魔導ギルドから『魔法陣板』の供給を受け、新しい魔道具の開発と量産を進めるという点でケリであろうか。

 ようは、今の古い体質がなくなればいいのだから。

 俺たちは現上層部の悪事の証拠を握っているので、まさか魔道具ギルドの会長も拒否はすまい。


「では、陛下の下に向かいます」


 魔導ギルド本部を出た俺たちは、そのまま城内へと入った。

 事前に知らせは受けていたようで、門番はそのまま素直に入れてくれた。

 俺が有名人なので、まさか入れないという選択肢は存在しないのかもしれないが。


「陛下、バウマイスター辺境伯です。お客人をお連れしました」


「よくぞ来てくれた。魔族の王よ」


「民主制を信奉するゾヌターク共和国ではなんの力もない王だがな。バウマイスター辺境伯暗殺未遂事件に関する情報をお持ちした」


 エリーとライラさんは、新聞記事のみならず、独自に国権党議員などとも連絡を取っていたようだ。

 三ヵ国間の交渉を進めるため、お飾りでも王が役に立つとその政治家が理解したのであろう。

 少なくとも、国権党の方が民権党よりは話がわかるようだ。


「プラッテ伯爵め。こやつはまだいい。バウマイスター辺境伯暗殺の報酬は私財から出しているからな。だが、魔道具ギルドは許されない。我が王国が、一体いくら補助金を出していると思っておるのだ!」


 陛下が怒って当然だ。

 本来、魔道具研究に使うための補助金を、俺の暗殺に使用したのだから。

 魔道具ギルドは貴族ではないが半ば公共的な組織なので、資金の不正な流用は許されるはずがなかった。

 挙句の果てに、このところ新しい魔道具の開発がまったく進んでおらず、魔族との交渉では魔道具の輸入阻止を目論んで政府と交渉団に圧力をかけ、前会長の死後、新会長の選出に手間をかけて組織を一時機能停止にした。

 ようやく就任した新会長は、前会長の方針を受け継いでいまだ魔道具の輸入阻止を企んでいる。

 さらに今、魔導ギルドが新しい技術を開発したが、職人たちに圧力をかけて魔導ギルドに協力できないようにしている。

 陛下から見ても、今の魔道具ギルドは害悪な存在でしかないのであろう。 


「魔道具ギルドは話にならない。まだマシとは言っても、プラッテ伯爵も無罪のはずがない。私財の没収と改易を命じよう」


 王国のために貢献している俺を殺そうとしただけでなく、公式な交渉ルートではなく私的に魔族と接触して、不法行為の報酬を支払った。

 私貿易ならまだ許せるが、敵対する貴族の暗殺を魔族に依頼するなど、今後模倣犯が出るかもしれないと考えると、陛下としては絶対に許さないはずだ。


「魔道具ギルドも、今の上層部は首を挿げ替える。こちらの足を引っ張りおって! ワーレン!」


「はっ!」


「アームストロング軍務卿に命じろ! プラッテ伯爵の屋敷と魔道具ギルド本部に兵を送り、連中の身柄を確保せよと」


「畏まりました」


 陛下はワーレンさんに対し、エドガー軍務卿のあとを継いだアームストロング伯爵に今回の暗殺未遂事件の犯人を捕縛せよと、伝えてくるよう命じた。


「そういえば、プラッテ伯爵の奴はおらぬの」


「普段は、城内にいるのですが……」


 法衣貴族で空軍閥の重鎮であるプラッテ伯爵は、いつも城内にたむろしている。

 俺の悪口を言い、反バウマイスター辺境伯家派閥の組織化に忙しかったようだが、そんな貴族など珍しくない。

 人間というのは、所属する集団の中で必ずソリの合わない人たちが出てくるのだから。

 それにしても、プラッテ伯爵。

 俺憎しで、家を潰すとはな……。

 そして魔道具ギルド。

 これまで、そう関係は悪くなかったと思ったのだが……。

 早速ワーレンさんが伝令に走り、アームストロング軍務卿が王国軍を編成してプラッテ伯爵の屋敷と、魔道具ギルド本部の制圧に入った。

 ところが、プラッテ伯爵の屋敷に本人の姿はなかった。


「残された家族が言うには、魔道具ギルドに出かけていると」


「察知されたか?」


 ワーレンさんからの報告に、陛下は首を傾げた。

 オットーたちの襲撃を切り抜けた俺たちが王城に姿を見せた時点で、プラッテ伯爵は自分の関与が知られたとすぐに察知してしまったのかもしれない。

 自分だけで、慌てて魔道具ギルドに逃げ込んでしまったようだ。


「どちらにしても、魔道具ギルドを押さえれば済む話だ。すぐにアームストロング軍務卿に命じて……」


「なんだ? 地震か?」


 突然、地面がかなり激しく揺れ始めた。

 王城が倒壊するほどではないが、かなり大きな揺れだ。

 急ぎ謁見の間からバルコニーに出て震源を探すと、魔道具ギルドのある場所に鋼鉄の巨人が立っていた。

 大きさは五十メートル近いと思う。

 形は、ニュルンベルク公爵が最後に乗って戦った巨大ゴーレムによく似ていた。


「ヴェル!」


「ああ……」


 魔道具ギルドの地下に、あんな巨大ゴーレムが鎮座できるようなスペースがあったとは……。

 前世の父が子供の頃に見たと言っていた、ロボットアニメの出撃シーンにそっくりだ。

 残念ながら、あの巨大ゴーレムは正義の組織のロボットではなく、王国軍の捕縛に抵抗するプラッテ伯爵と、魔道具ギルドの会長……。


「エリーゼ、今の魔道具ギルドの会長って誰?」


 元副会長が会長に横滑りという面白みの欠片もない人事だったはずだが、あの葬儀の席にいたどの爺さんが会長になったのか知らなかった。


「ヴェル、お前はいい加減、そういう重要な地位にいる人の名前と顔を覚えろよ!」


「別に覚えなくても不都合はないから……」


「ある! 俺たちが恥ずかしいじゃないか!」


「他人の名前なんて、覚えなくても生きていけるし……」


 エルの文句に、俺は反論した。

 そういう偉い人の顔と名前を懸命に覚える生活なんて、前世で卒業したのだから。


「そもそも貴族が、紋章官の仕事を奪うのはよくない」


 それに、普段よく接している貴族の名前と顔はちゃんと覚えている。

 つまりだ。

 魔道具ギルド会長の名前と顔が覚えられないということは、その必要が一切ないと俺の脳が判断したわけだ。


「滅多に顔を合せない貴族の名前と顔を覚える手間があったら、新しい魔法でも覚えた方がマシだって」


「そんな屁理屈はどうでもいいけど、あの巨大ゴーレム。こちらに向かってきていないか?」


「そう言われるとそうだな」


 魔道具ギルドの建物は、巨大ゴーレムが地下から出る時にその余波で完全に破壊されてしまった。

 続けて、向いにある恨み重なる魔導ギルドの建物も破壊されている。

 どうやら、魔道具ギルドの会長はよほど魔導ギルドが嫌いであったようだ。

 プラッテ伯爵と魔導ギルド会長以下執行部の捕縛を行おうとしていた王国軍は、突如出現した巨大ゴーレムに驚き、恐怖して応戦するどころではなくなってしまった。


「怯むな!」


 陣頭指揮を執っていたアームストロング軍務卿が、冷静に王国軍の統制を取り戻してから魔法と弓矢で攻撃を始める。

 王国軍にいる複数の魔法使いが魔法を放つが、残念ながら初級魔法使いの『ファイヤーボール』程度では、巨大ゴーレムの装甲に傷一つつかなかった。


「これは駄目だ。バウマイスター辺境伯!」


 アームストロング軍務卿は、王国軍による巨大ゴーレム撃破を諦めた。

 巨大ゴーレムに人々が押し潰されないよう避難誘導を行い、先に崩れた建物から生き埋めになった人々の救援を行う。

 巨大ゴーレムは、魔導ギルドの建物以外には攻撃を加えなかった。

 だが王城へと進路を取り、その進路上にある建物を踏みつぶしていく。

 運悪く、自分の店や家を潰される不幸な人たちが続出した。


「どうしてゴーレムはこちらに?」


「帝国へ向かっておるな」


「陛下?」


 いつの間にか、俺のすぐ後ろに陛下の姿があった。


「攻撃力はすさまじい巨大ゴーレムであるが、余たちを殺して王国の支配者となるのは無理だ。そこで、北上して帝国に亡命を試みる。今の皇帝が連中を受け入れるのかという疑問はあるが、彼もいまだ帝国すべてを掌握していないであろう。分裂を怖れて渋々ながら受け入れる可能性がある」


「ないとは言い切れませんねぇ……」


 仮想敵国の王城を破壊した、恐ろしい破壊力を持つ最新鋭の巨大ゴーレムと共に亡命する。

 帝国には、喉から手が出るほど欲しい勢力があるかもしれない。

 その勢力が大きければ、ペーターも配慮しなればならないのか……。


 となると……。


「破壊しないと駄目ですか」


「そうよな。余個人にとっても思い出が多く歴史の長い王城である。壊れてほしくないのが心情だ」


「わかりました。俺も死にたくないから出ますよ」


「バウマイスター辺境伯、それはどういう?」


 陛下からの問いであったが、俺には答えている余裕がなかった。

 俺は急ぎバルコニーから『飛翔』で外に飛び出し、巨大な『魔法障壁』を張る。

 なぜなら、巨大ゴーレムの胸の部分に砲塔のようなものを確認したからだ。

 どうやら巨大ゴーレムは、魔砲の試作品を搭載しているようだな。

 俺が張った『魔法障壁』に、膨大な魔力で発射された直径一メートルほどの砲弾が命中した。

 砲弾は魔力によって威力を強化されており、容赦なく『魔法障壁』を砕いていく。

 俺は次々と新しい『魔法障壁』を展開し続け、どうにかバルコニーの手前ギリギリで砲弾を防ぐことに成功した。

 威力を失った砲弾は王城の正面に落下し、正面門前に設置されている石像などを破壊する。

 門番はすでに避難していたので、犠牲者がいなかったのが幸いだ。


「バウマイスター辺境伯、助けは必要であるか?」


「導師も、他のみんなも、避難者の誘導や救助を頼みます」


「わかったわ、ヴェル」


「エリーゼも、怪我人がいたら治療を頼む」


「はい、ご武運を」


 まさかこの世界で、二度も超巨大超合金ロボットモドキと戦う羽目になるとはなぁ……。

 こちらに歩いて来るだけで、足元の住宅や店舗が踏みつぶされていく。

 ゴーレムの撃破を諦めた王国軍が住民の避難誘導をしているので、犠牲者はほとんど出ていないようだが、やることが無茶苦茶だ。


「プラッテ伯爵は頭がおかしいな」


『恨み重なるバウマイスター辺境伯め! この魔道具ギルドが密かに開発した巨大ゴーレム『大魔神』には勝てまい!』


「ネーミングセンスが皆無だな」


「エル、そんなことを気にしている場合じゃないと思うけど……」


 予想どおり、巨大ゴーレムにはプラッテ伯爵が乗り込んでいるようだ。

 操縦席内で喋った声を拡声する機能もあり、彼の話し声はよく聞こえた。

 それにしても、名前が『大魔神』とはネーミングセンスが欠片もない。

 これは多分、帝国内乱でニュルンベルク公爵とアーネストが乗っていた巨大ゴーレムを参考に試作されたのであろう。

 残骸を回収して、戦後魔道具ギルドに販売したからな。


「ダサイ名前だな」


『私がつけたのではないわ! シャーシェウド会長の命名だ!』


「シャーシェウド会長? 誰? それ」


 初めて聞く名前だ。


『ふざけるな! 魔道具ギルドの会長であるこの私を知らないだと?』


 もう一人、拡声器から老人らしき声が聞こえてきた。

 どうやら彼が、魔道具ギルドの会長のようだ。

 前にエリーゼから教えてもらったような気がしたが、すぐに忘れてしまったのは不可抗力だろう。

 だって、印象が薄すぎるから。

 

「魔道具ギルドに会長がいるのは知っている。誰だか知らないだけだ!」


 さらに興味がないから。 


『バカにしおって! この裏切り者が!』


「どうして俺が裏切り者なんだよ?」


 むしろこれまで、魔道具ギルドのために色々と貢献してきたじゃないか。

 俺は本来、魔導ギルドの会員なのだ。

 それなのに、様々な古代魔法文明時代の魔道具を研究用として売却してきたのだから。


『魔族から魔道具を購入しおって! 我々がいなくなったら人間の魔導技術は衰退し、魔道具業界はすべて魔族によって牛耳られてしまうのだぞ! そうなれば、王国のみならず人間が魔族によって支配される要因にもなりかねない! その遠因となった私貿易! これを最初に行った貴様は罪深き存在だ!』


 そうは言われても、俺はちゃんと配慮はしていたぞ。

 いくら低性能で高額で無駄にデカくて重くても、人間が製造した魔道具があればそっちを購入して利用していた。

 魔族との私貿易では、あくまでも人間が作り出せない魔道具しか取引していないのだから。

 優れた魔族が作った魔道具の現物を手に入れ、それを修理や解析に回して人間の魔道具職人も技術を上げられる。

 模倣は技術力向上の第一歩であり、そこから魔道具を作れるかもしれないじゃないか。

 なにより、魔導ギルドが魔法陣板を試作したのに、それを使用した魔道具の生産を拒否したのは魔道具ギルドじゃないか。

 今のまま、一切進歩しない魔道具生産を独占して楽したいだけのジジイに言われたくない。

 まあ、これは立場の違いか……。

 

「最初から全面輸入禁止では、魔族の進んだ魔道具に人々が触れるチャンスがなくなるじゃないか」


 それに、貿易で輸入超過にならないように王国政府も関税と輸入量制限などの条件も考えている。

 一切の例外を認めず、とにかく魔道具の完全輸入阻止を目論む魔道具ギルドの方がおかしいのだ。


「成果がないとか抜かして、それはなんだよ? 革命でも考えていたのか?」


 王城近くの魔道具ギルド本部地下で、お前らはどうして巨大ゴーレムなんて作っているんだよ?

 そんな暇と資金があったら、もう少し高性能な魔道具を作れ!

 ああそうか……。

 巨大ゴーレムは、あくまでもニュルンベルク公爵が使用したゴーレムの改良品でしかないのか。


『見たか! 我々の力を!』


 思いっきり方向性が間違っているな。

 それにしてもこの巨大ゴーレム、まさか手足を吹き飛ばすと、どこかから予備の手足が飛んで来るとか……。

 さすがにそれはないか。

 魔道具ギルドの建物と、巨大ゴーレムが置いてあった地下施設は完全に崩壊している。

 このまま手土産代わりに王城をぶっ壊し、帝国に亡命するつもりなのであろう。

 ペーターが受け入れるかどうかは知らんが。


『これまで、魔道具ギルドはずっと上手く行っておったのだ! それをお前が色々と発掘してしまうから! 同じ物を作れ? そんなすぐにできるか!』


 シャーシェウド会長は、一人ブチ切れていた。

 実は俺たちが、地下遺跡を発掘して様々な古代魔法文明時代の魔道具を手に入れていることが気に入らなかったようだ。

 入手してしまった以上、魔道具ギルドはそれを複製するために努力しないといけないからだろうな。

 きっとこれまで色々と努力はしてみたが、上手く行かなかったのだろう。

 なにが悪いのかは、俺は研究者や職人じゃないのでよくわからないけど。


『お前は、我がプラッテ伯爵家に恨みでもあるのか?』


 もう一人。

 プラッテ伯爵は、魔導飛行船の入手や、空軍軍人の天下り先、息子への対応で俺に激怒しているのはわかった。

 俺も同じ立場なら激怒したであろうが、さすがに暗殺は目論まないと思うので、やはりプラッテ伯爵は堪忍が足りない部分があるのであろう。

 少し悪いとは思ったが、俺も聖人君子ではない。

 プラッテ伯の機嫌よりも、バウマイスター辺境伯家の方が大切であり、自分のためにプラッテ伯爵家を陥れることがあっても仕方がないと思っている。


「息子には配慮したんだがな……」


 表向きは、リンガイアと乗組員たちを救出するため、貴族の義務としてゾヌターク共和国に残ったということにした。

 王宮にいる貴族で実情に気がつかない人はいないが、貴族は建前を大切にする。

 プラッテ伯爵の息子が、貴重なリンガイアと乗組員たちのために豚箱にぶち込まれたという嘘を公式の事実にすることに、疑問を投げかける貴族は少なかった。

 その配慮も、プラッテ伯爵の暴発ですべて無駄になったが。

 出所してもプラッテ伯爵の息子は貴族でなくなっており、爵位も屋敷も私財もないただの無職の庶民になってしまったのだから。


『あれのどこが配慮だ! もういい! お前を殺し、王城を破壊して、それを功績に帝国に亡命してやる!』


『大魔神の素晴らしさに、帝国の魔道具ギルドの連中も感激するであろうな』


「そうか?」


 巨大ゴーレムは確かに強力な兵器ではあるが、稼働率や燃費、整備性に大きな問題があると思うのは気のせいであろうか。

 それに陛下としても、今は巨大ゴーレムの生産よりも魔導技術の進歩であろう。

 民生品でも技術力が上がれば、それだけ新兵器の生産も容易いのだから。

 特に、車両類の生産は必須だ。

 軍で採用されれば、機動力と補給にどれだけ貢献できるか。

 馬を使う戦いが大きく変わる可能性があるというのに、こいつらはそれに気がついてもいない。

 プラッテ伯爵は空軍閥の重鎮なので、魔導飛行船に詳しいはず。

 それなのに、車両の利便性に気がつかないとは……。

 シャーシェウド会長は論外だ。

 こんなデカブツの試作よりも、魔導ギルドに先を越された車両の試作が優先であろうに……。

 とにかく、このデカブツをなんとかしないと。

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