第252話 野望の終焉(その2)

「まずは、武器から試してみるか」




 新しい玩具を得て、ニュルンベルク公爵はご機嫌のようだ。

 俺たちの前方五十メートルほどにいる巨大ゴーレムは、その両手を前に出した。 

 すると、両腕の肘から下がロケットのように俺たち向かって飛んでくる。

 まるで、子供の頃に見たロボットアニメのロケットパンチのようだ。


「腕が飛んだ!」


「『飛翔』の魔道具ですか?」


 エルとハルカが驚くが、どうやら逃げる時間はないようだ。

 俺と導師が強固な『魔法障壁』を張って、片方ずつロケットパンチを防いだ。


「とてつもない威力だな!」


「まだ止まらないのである!」

 

 『魔法障壁』で受け止めてもロケットパンチの勢いを止められず、俺たちを薙ぎ払おうと突進を続けた。

 そのせいで俺たちはズルズルと押されて後退して行くが、さらに『魔法障壁』を強化して防ぎきり、ようやく膠着状態に持ち込んだ。

 それから十数秒後、ようやくロケットパンチは元の場所に戻った。


「ヤバイ武器だな」


「ええ」


 ブランタークさんは、ロケットパンチの威力に警戒感を露わにする。

 巨大な金属製の塊を高速で飛ばすので威力がもの凄く、俺と導師は『魔法障壁』の貫通を防ぐので精一杯だった。

 操縦者の意思で巨大ゴーレムの腕に戻って行き、ロケットパンチ自体の造りが頑丈で傷すらついておらず、何度でも放ててしまう。

 どうにか対処しないと、いつか『魔法障壁』を貫通され、俺たちの体に直撃してしまうはず。

 あんな巨大な金属の塊が直撃したら、人間なんてひとたまりもないだろう。


「古代魔法文明時代の超兵器の威力はどうかな? バウマイスター伯爵」


 巨大ゴーレムから聞こえてくるニュルンベルク公爵の声は自信満々だ。

 このまま続ければ、俺たちを倒せると確信したらしい。


「あの野郎、本来の素の部分が出たのかな?」

 

 これまでは、顔を合せた時くらいは紳士を装っていたのに、よほど追い詰められてから逆転可能な展開になったので、その声には傲慢なものが滲み出ていた。


「ようやく子供の頃のマックスに戻ったかの? 敵にも寛容なフリをするのも大変じゃの」


 俺の後ろで、テレーゼが一人納得していた。

 以前から知り合いだから、彼の素の性格を知っているのか。


「テレーゼは下がれ。他の王国軍組もだ」


 あんな巨大なゴーレムが出た以上、戦闘要員以外にはこの部屋から出てもらうしかない。

 魔法が使えない兵士たちなど簡単に蹂躙されてしまうだろうし、なによりもこちらの戦闘の足を引っ張ってしまって邪魔だったからだ。


「エル」


「悪いが、俺は退かないぞ。ハルカさん、兵士たちをこの部屋から出してくれ」


「エルさん! 私も残ります!」


「いや、これに参加できるのはヴェルの悪運の犠牲者のみでね。今回はまだ、ハルカさんは出席できないんだ」


「ですが……」


「この面子を見なよ。負けるはずがないじゃないか」


「……。わかりました」


 ミズホ女性であるハルカは、渋々とであるがエルの言うことを素直に聞き、兵を下げる決断をした。

 

「エルヴィン、俺はバウマイスター伯爵の護衛だ。残るぞ」


「いえ。この戦いに限ってはヴェルの護衛は俺ですよ。ハルカさんの手伝いをしてもらえませんか?」


「……わかった、エルヴィンに任せよう」

 

 タケオミさんも、ハルカと共に兵士たちこの部屋から撤退させることを了承した。


「エルヴィン、死ぬなよ」


 シスコンではあるが、タケオミさんはエルを認めているようだ。

 珍しく、彼に優しく声をかける。


「テレーゼ様、あなたも」


「いや、妾は残るぞ」


「しかしながら、テレーゼ様の剣の腕では……」


 魔法使いでもないし、剣の腕もそこまで凄いわけでもない。

 それなのに残るのは無謀だと、タケオミさんはテレーゼに意見した。


「ヴェンデリンが負けるとは思わぬし、もし妾が死んでも、帝国になんの影響もないのでな。それに妾も役に立つぞ」


 テレーゼは、胸元からなにかを取り出した。

 よく見ると魔法の袋であり、その中からどこかで見たような物体を取り出し、付属しているピンを引き抜いてから巨大ゴーレムの方に投げつけた。


「目を瞑れ!」


 テレーゼの指示で全員が目を瞑るのと同時に、その物体は巨大ゴーレムの元で眩いばかりの閃光を放つ。

 その物体の正体は、閃光手榴弾のような……、まさにそれであった。


「閃光炸裂魔弾は効果があるの」


「おおーーーっ! 眩しいのであるなぁーーー!」


「くっ、テレーゼ! 目つぶしか……」


 再びロケットパンチを飛ばそうとしていたニュルンベルク公爵たちは、閃光手榴弾のせいで一時的に視力を奪われ、予想以上に混乱していた。 

 まさか、安全な巨大ゴーレムの中にいる自分たちが、こんな攻撃を食らうとは思わなかったのであろう。

 

「とんだ隠し玉だな」


「ヴェンデリンよ。古代魔法文明時代の遺産は、ニュルンベルク公爵領だけで出るわけではない。量は少ないが、こうしてフィリップ公爵家にも伝わっておるわ」


 テレーゼが持つ魔法の袋には、過去にフィリップ公爵領で発掘された魔道具の中でも、特に貴重で危険なものが仕舞われているそうだ。


「どうしてそれを、当主を引退したテレーゼが持っているんだ?」


「代々の当主は、この魔法の袋に入ったものを秘匿する義務があるからの。本来はアルフォンスに渡さなければいけないのであろうが、これまでにない当主交代劇のせいで渡す機会を失していての。よい機会じゃ。ここで使えるだけ使ってしまうとするか」


 テレーゼは、続けてなにかを魔法の袋から取り出す。 

 それは、大きさが一メートルほどの筒であり、よく見るとそれはバズーカ砲に似て……バズーカ砲そのものか。


「『魔導噴推砲』という名だと聞いておるがの」


「使えるのか?」


「暇な時間に、一緒に見つかった説明書は読んでおるわ」


 テレーゼは、魔導噴推砲を構えてその引き金を引いた。

 発射された噴推弾は巨大ゴーレムの右肘に命中し、右側のロケットアームをもぎ取ってしまう。


「威力絶大じゃの」


「今だ!」


 いまだニュルンベルク公爵たちの視力が回復していない、今がチャンスだ。

 俺、ブランタークさん、導師、カタリーナの魔法が唸り、エルとイーナが槍を投擲し、ヴィルマが狙撃を行って巨大ゴーレムの目の部分を破壊する。

 肢体のほぼすべてを破壊された巨大ゴーレムは、轟音を立てながら地面に倒れてしまった。


「やったぞ!」


「いや、待て」


 動けなくなった巨大ゴーレムを見てエルが喜んでいたが、魔法使いにはまだだとわかる。

 魔族の強大な魔力は健在で、なにか次の行動に入ろうと蠢いているのを。


「この程度でぇーーー! 大人型カラクリ魔人君は倒せないのであるなぁーーー! カムヒア!」


 魔族の叫び声が響くのと同時に、巨大ゴーレムは損傷した頭部と手足を切り離して宙に浮かび上がった。

 続けて、巨大ゴーレムが出現した壊れた壁の奥から、追加の手足が飛んできて合体してしまう。

 巨大ゴーレムは、あっという間に元の姿に戻ってしまった。


「甘い甘い、甘すぎるのであるなぁーーー。この数年、我が輩は懸命に発掘品の修理を行っていたのであるな」


 つまり、巨大ゴーレムの予備部品は大量にあり、胴体に内臓している魔晶石と魔族の魔力が続く限り、いくらでも新しい部品を引き寄せて復活可能ということか。


「ある意味! この大人型カラクリ魔人君は無敵なのであるな!」


「見たかバウマイスター伯爵! この大人型カラクリ魔人君の威力を!」


 いつの間にか目つぶし攻撃から復活していたニュルンベルク公爵が、俺たちに向けて高笑いをした。

 その様子は、まさに性格の悪いラスボスそのものだ。


「戯言を……。伯爵様、何回か潰せば部品も尽きるだろうぜ」


「そうですよね」


 ブランタークさんの説に賛同した俺たちは、再び全員で魔法攻撃を再開し、巨大ゴーレムをボロボロに吹き飛ばした。

 ところが……。


「カムヒアなのであるなぁーーー!」


 再び後方から手足と頭部の部品が飛んで来て、巨大ゴーレムを元どおりにしてしまう。

 

「ヴェンデリンさん、続けますわよ」


「そうだな、三度目の正直だ」


 もう一度、魔法の集中砲火で巨大ゴーレムを攻撃した。

 再びボロボロになるが、すぐに新しい手足が飛んできて元どおりになってしまう。


「キリがないな」


「残念だったな、バウマイスター伯爵よ! 魔族よ、トドメめを刺せ!」


「それでは、再び攻撃開始なのである!」


 ニュルンベルク公爵は、巨大ゴーレムのしぶとさを自ら確認し、余計に自信をもったようだ。

 巨大ゴーレムの両腕からロケットパンチが飛び、今度はいつの間にやら背中に装備していた背負い式の魔砲からも巨弾が発射される。

 ロケットパンチの他に砲撃も加わり、俺たちは防戦一方になった。

 『魔法障壁』の展開で、俺たちは徐々に魔力を減らされていく。


「これって、大ピンチじゃないですか?」


「あと何回壊せば、あの巨大ゴーレムは復活しないのである?」


「それは向こうに聞いてくれって話だな」


「ブランターク殿、素直に教えてくれるとは思わないのである!」


「だろうけどよ」


 二本のロケットアームに加えて魔砲による砲撃も防ぎながら、俺は導師とブランタークさんは、さてこれからどうしたものかと思案に耽っていた。


「テレーゼ、なにかとんでもない秘密兵器はあるか?」


「攻撃力でいえば、そう魔砲と変わりないからの。その前に一つ聞いてもいいか?」


「いいけど」


「うむ。ゴーレム本体を攻撃するよりも、その後方に攻撃して備品を補充する仕組みを破壊した方がよくないか?」


「……それだ!」


 そんな当たり前のことを、俺はテレーゼに指摘されるまで気がつかなかった。

 ゴーレム自体を破壊してもすぐに新しい部品が飛んでくるのなら、その部品を飛ばす仕組みを破壊した方がいいのは当たり前であった。


「目標! 巨大ゴーレム後方にある手足が飛んでくる部屋!」


「伯爵様と導師が撃てないから、俺たちで頑張るしかないか……」


 巨大ゴーレムからのロケットパンチと砲撃を防ぐのに忙しい俺と導師は、この攻撃に参加できない。 

 ブランタークさんとカタリーナが大量の『ファイヤーボール』を放ち、ルイーゼとイーナが魔力を篭めた槍を、テレーゼはまだ弾が残っている魔導噴推砲を連射する。

 発射された魔法や弾は巨大ゴーレムの横をすり抜け、後方にある壊れた壁に開いた穴に入り込み、その中で大爆発を起こした。


「なんとぉーーー! 合体システムがぁーーー!」


 テレーゼの策は正しかったようだ。

 壊れていない手足などの予備部品が、誘爆に巻き込まれて破壊されてしまったらしい。


「魔族! それよりもあの装置だ!」


「あの爆発では故障した可能性が高いのであるな。我が輩のせいではないとだけ言っておくのであるな」


「あの装置?」


 もしやと思って『飛翔』を唱えると、俺の体は宙に浮く。

 ほぼ一年ぶりに、俺は久しぶりに飛ぶことが可能となっていた。


「意外と呆気ない最後だったな。例の装置は」


「伯爵様、今のうちに全員で畳みかけるぞ」


「隙を与えて復活でもされると困難ですね。全員で攻撃開始!」

 

 巨大ゴーレムは、壊れた部品の供給システムを破壊されて復活が不可能になった。

 ならば、今のうちに完璧に破壊しておくべきだ。


「一気に行くのである! ふぬぁーーー!」


 導師と魔法で身体機能を強化してから『魔法障壁』を解き、そのまま両腕でロケットパンチを掴み、万力のように締め上げはじめる。

 導師による魔力を惜しまない攻撃で、そのロケットパンチは徐々にひしゃげて罅が入っていった。


「イーナ!」


「エル!」


 次は、二人で投擲用の槍を投げる。

 槍は巨大ゴーレムのロケットパンチとの接合部分に当たり、その部分がひしゃげた。

 これで、二度とロケットアームを合体させられないはずだ。


「次はボクね」


 『飛翔』を取り戻したルイーゼは、俺が『魔法障壁』で動きを止めているロケットアームの上に軽業師のように立ち、強大な魔力を篭めた一撃を上から振り下ろす。

 残ったロケットアームは、ひしゃげてその機能を喪失し、そのまま地面へと落下してしまった。


「伯爵様! 行くぞ!」


「はい!」


 ロケットパンチの完全破壊を見届けてから、俺とブランタークさんは巨大ゴーレムへと駆け寄る。

 相変わらず魔砲による攻撃は続いていたが、カタリーナが極限まで圧縮して威力を増した『ウィンドカッター』を操作してゴーレムの後方に回し、魔砲を背中から切り落とした。


「お師匠様から言われていた、魔法のコントロールが上達していてよかったですわ」


 切り離されて魔力の供給を絶たれた魔砲は、そのまま沈黙してしまった。


「魔族! なんとかしろ!」


「これが俗にいう、大ぁーーーい、ピィーーーンチ!」


「殺すぞ!」


「うるさい、見苦しい、チームワークがなっていない。撃つ」


 ニュルンベルク公爵の怒鳴り声が聞こえてくるが、さらに続けてヴィルマが狙撃で巨大ゴーレムの両眼を撃ち抜き、彼らの視界を完全に奪ってしまう。


「ここは、我が輩の魔法で……。うぐっ!」


「魔族! 何事だ!」


「体が上手く動かないのであるな。体中水ぶくれで、頭もフラフラするのであるな」


「なぜそんなことが? バウマイスター伯爵の魔法か?」


「残念ながら、俺じゃないよ」


「私です」


 魔族の闇魔法を抑える役割を静かにこなしていたエリーゼは、同時に密かに魔族に対し罠を仕掛けていた。

 魔族も生物なので人間と同じく治癒魔法で回復するという性質を生かし、少しずつ、繰り返し強力な治癒魔法をかけたのだ。

 どんな治癒魔法でも、かけすぎれば逆に害になる。

 エリーゼは、遠方から魔族だけを狙い撃ちにし、高濃度の治癒魔法をその体に浸透させるという難事に成功したのだ。


「過治癒状態になると、肌の水ぶくれ、動機、息切れ、眩暈、精神への悪影響が起こります。さらにそれを放置しますと……」


 最悪、死に至るケースもあると、エリーゼは俺たちに説明した。


「あれ? 前に俺の治癒魔法が強すぎるって……」


「必要量の数倍~数十倍くらいならなにも起こりません。必要量の数百倍以上をかけませんと」


「これは予想外なのであるな」


 巨大ゴーレムの壊れた部分を交換するシステムが破壊され、自分も過治癒の副作用で調子が悪い。

 魔族は相当に弱っている。

 トドメを刺す最大のチャンスは、今をおいて他にないはずだ。


「ブランタークさん!」


「おう!」

 

 ここで、魔力を温存していたブランタークさんと共に巨大ゴーレムに向かって走り出した。


「接近を許すな!」


「魔族使いが荒いのであるな」


 過治癒に悩みながらも、さすがは魔族。

 その強大な魔力を使って、『ウィンドカッター』をまるで嵐のように展開した。


「だから俺がいるんだよ!」


 だが、それらはすべてブランンタークさんの展開する『魔法障壁』によって防がれた。


「伯爵様、あの巨大ゴーレムの胴体部分がかなり頑丈なようだがどうする?」


 ブランタークさんが展開した『魔法障壁』を使って前進しながら、俺はどんな魔法であの巨大ゴーレムを戦闘不能にしようか考える。

 どれだけダメージを与えても、肢体はともかく、操縦席がある胴体にはダメージを与えられなかったからだ。

 ニュルンベルク公爵の強気は、巨大ゴーレムの操縦席の頑丈さを頼りにしてのものだったわけか。


「放出する魔法では……」


 威力が低いので、巨大ゴーレムの胴体部分にダメージを与えられない。

 ではどうするのか?

 答えは、前に師匠と戦った時に見出していた。


「膨大な魔力を放出せず、一点に纏めて……。いや、この場合は『一刀』にか……」


 師匠の形見である魔力剣の柄を取り出し、これまでにないほどの膨大な魔力を篭める。

 だが、具現化させる刀身はなるべく細くだ。

 長さも最低限にするが巨大ゴーレムを切り裂くものなので、短くなりすぎないようにする。

 俺のイメージの問題なのか?

 柄からは、日本刀に似た赤い刃が現れた。

 赤色なので火系統なのだが、炎のようなものは見えない。

 極限まで刃を細くしたせいだ。


「これで焼き切る」


 『飛翔』で巨大ゴーレムの前まで接近してから、一気に炎の刀身を振り下ろす。

 

「いくらバウマイスター伯爵とはいえ、この巨大ゴーレムの胴体も『極限鋼』とミスリル合金の複合装甲なのだぞ。斬ることなど不可能……なにぃ!」


 操縦席内のニュルンベルク公爵から驚きの声があがる。

 なぜなら、巨大ゴーレムの胴体が斬り裂かれ、その亀裂から外にいる俺の姿が見えたからだ。

 ただ、完全に両断はできなかった。

 あれだけの魔力を篭めたのに、巨大ゴーレムの前部装甲を斬り裂いただけに終わってしまった。


「なんて頑丈な……。もう一度……」


 と思ったのだが、予想以上に魔力を使ってしまったようだ。

 俺は眩暈を感じ、その場に座り込んでしまう。


「伯爵様」


「ブランタークさん、続きを……」


「俺の魔力量じゃ、ひっかき傷も怪しいところだよ。導師!」


「某も無理である! ここに侵入するまでと、巨大ゴーレムの手と戦っていたら魔力の消費が予想以上に激しいのである」


「カタリーナの嬢ちゃんは?」


「私の残り魔力を結集しても、ヴェンデリンさんのような刀身は出せませんわ」


「なぁーーー!」


 地下遺跡の一番奥にあるこの部屋に向かう途中での戦いと、巨大ゴーレムとの戦闘で全員の残り魔力量は心許ない。

 通常の戦闘ならば十分に余裕があるが、巨大ゴーレムの胴体部分を壊すことなど不可能であった。


「困った……」


 まだ、巨大ゴーレムは活動を完全に停止していない。

 早くトドメを刺さないと敵に援軍がやって来る可能性もあり、俺はどうにか巨大ゴーレムを破壊する方法を考え始めた。

 だが、その心配は予想外の人物によって解決される。


「ヴェル! 俺が行く!」


「エル?」


「待て! お前は魔法なんて使えないだろうが!」


 相手が相手なので、これまであまり攻撃を行っていなかったエルの突進を、慌ててブランタークさんが止めに入った。


「これがありますよ! ルイーゼ!」


「了解! エルが駄目なら、ボクとイーナちゃんの投擲で止めを刺すから」


「これを、ハルカさんから借りていてよかった!」


 エルは、ハルカから借りていたらしい魔刀を抜き、それに限界まで火魔法を刀を纏わせた。

 まだ肢体を破壊されたゴーレムは宙に浮いており、そこまでの移動はルイーゼによる強制打ち出しだ。


「投石機の石になった気分だな」


「いくよ、エル! これでボクも魔力が空っぽだぁ」


 残りすべての魔力を纏ったルイーゼによって撃ち出されたエルは、先ほど俺が作った亀裂を広げるようにゴーレムの胴体に正確な一撃を加える。

 着地したエルはすぐに魔刀を鞘に仕舞うが、パっと見ただけでは巨大ゴーレムがダメージを受けたようには見えなかった。


「エル、なにも変化がないけど?」


「安心しろ。すでにあの巨大ゴーレムは真っ二つだ」


 エルが自信満々に答えた直後、本当に巨大ゴーレムは縦に真っ二つに割れて崩れ落ちた。

 さすがに、ここまで壊れると宙には浮けないようだ。

 ガシャンと音を立てて地面に落ち、ただの残骸と化して活動を停止した。


「だから言っただろう。もう斬れているって」


「ええっ! 凄いな!」


 最後の最後で、一番の難敵にトドメを刺した。

 エルにはかなり美味しいところを持っていかれたが、俺たちはバトル漫画のキャラじゃないので、巨大ゴーレムが倒せればいいのだ。


「エル! 凄い一撃だったな!」


「タネを説明すると、あの巨大ゴーレムはヴェルの一撃で大ダメージを受けていたのさ」


 見た目には胴体部分の正面装甲の一部が切れただけに見えたが、実際には他の部分も見えない傷でボロボロになっていたらしい。

 そこにエルが、魔刀でトドメの一撃を加えて、その崩壊を促したのだと言う。


「それで真っ二つであるか……」


 導師が感心しながら、巨大ゴーレムの残骸を見ていた。

 みんな大量の魔力を使ってしまったが、あのしぶとかった巨大ゴーレムは無事に倒せた。

 一番頑丈だった胴体部分も真っ二つとなり、崩壊して崩れ落ちている。


「ヴェンデリンよ、あの二人の確認をしないと」


「そうだった」


 テレーゼの指摘で急ぎゴーレムの残骸の山へと向かい、ゴーレムに乗っていたニュルンベルク公爵と魔族を探す。

 まず最初に、右腕、右足が斬り落とされ、大出血したニュルンベルク公爵の姿を発見した。

 俺とエルの両断に巻き込まれて、その身を斬り裂かれたようだ。

 辛うじて意識はあるようだが、その怪我の具合と出血量を見ると到底助かりそうにはなかった。


 どうやらこれで終わりのようだな。

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