第235話 ダークホース現る(前編)
「さてと。皇帝陛下は俺たちになんの用事かな?」
「ヴェンデリン。間違いなくどうでもいいことか、ろくでもないことだと思うよ」
「だろうね」
季節は秋となり、すでに作物の収穫が始まっていた。
これが終わって税が国や貴族に納められると、いよいよニュルンベルク公爵討伐に向けた動員が行われる。
帝国軍は、正面戦力だけで三十万人を動員する。
これに、補給部隊や情報収集のための部隊、占領地の軍政を担当する部隊などもあるので、実数はもっと多い。
財政が苦しかろうと、皇帝が無能だろうと、帝国の官僚システムが優秀である証拠とも言えた。
だが悲しいかな、戦争は軍人の能力で決まってしまう。
軍の練度や補給状況は一定に保たれているが、ニュルンベルク公爵には地の利があり、その軍はもっと精強で、資金も物資も豊富である。
指揮官の質は、完全に向こうが上であろう。
中級以下の指揮官たちも、彼が独自に選抜して鍛えているのだ。
三倍の兵数があっても、帝国軍が勝てる未来が俺には思い浮かばなかった。
そんな中で、俺とアルフォンスは再び皇宮に呼び出されていた。
そんな暇があったら磁器を作りたかったのに、面倒なことをしてくれる皇帝である。
奏者に案内されて玉座の間に入ると、前と同じく育ちがよさそうなおじさんが……皇帝陛下が待っていた。
周囲にいるコバンザメのような取り巻き連中も……前よりも増えたようだな。
もう少し、マシな側近を集められないのかね?
早速に二人で挨拶をすると、皇帝はこう切り出した。
「二人には、帝都周辺に陣を張って現地の治安維持に努めてもらいたい」
「はあ……」
なぜそんなことを命令するのか、正直意味不明である。
サーカットの町に置いたままか、せめて帝都内に入れて予備兵力にでもしてくれと思ってしまう。
多分、俺たちを帝都内に入れたくないのであろう。
だがサーカットに留め置いたら、戦力的にもったいない。
帝都周辺ってのが、彼らなりの妥協案なのだと思う。
もの凄くどうでもいいけど。
「私は、兵力を保持しておりませぬが……」
「テレーゼから数千も借りればいいであろう」
アルフォンスの疑問に対し、皇帝は素っ気ない声で答えた。
テレーゼに大軍を率いさせて帝都に入れると、自分の留守中になにか企むかもしれない。
だが、それを恐れているように周囲には見られたくない。
猛将という評価が薄いアルフォンスが、テレーゼの代理として帝都周辺で陣を敷けばいいと、腰巾着の誰かが進言したのであろう。
小賢しいというか、中途半端な命令である。
「早速兵の準備を始めます」
「任せるぞ」
わずかな時間で皇宮を辞して、あとはサーカットの町に戻るだけだが、時間的に帝都で一泊しないと駄目であろう。
俺とアルフォンスと、エルが指揮する護衛たちもやはり男ばかりであったが、十名ほどで帝都内を歩いて宿を探すことにした。
「皇帝陛下は、皇宮に泊まって行けとは言わなかったな」
「ヴェンデリンは、皇宮に泊まって行きたかったのかい?」
「堅苦しいし、あきらかに歓迎されないだろうし、食べ物に毒が混じっている可能性も考慮しつつ嫌だ。言ってみただけ」
「私も同意見だな」
帝都の商業街を歩いてみると、初春の帝都奪還直後からは大分景気は回復したようだ。
町を歩く人々の数も表情も、ほぼ内乱前に戻っている。
実際には魔導飛行船が使えず、その分流通量が落ちて、以前よりも景気が少し落ち込んでいるそうだが。
帝国の経済官僚たちは、なんとか戦費と共に景気対策の資金を捻り出そうとし、皇帝の腰巾着たちと水面下で争っていると噂で聞いた。
皇帝が凡庸でも、システムでなんとか帝国が動いている証拠とも言えたが、やはり皇帝が凡庸で力がないと国の活力が落ちてしまうものだな。
みんな、心中では有能な指導者を欲しているはずだ。
「エル、先に商談を済ませよう」
「帝都で磁器を販売して、皇帝に睨まれないかな?」
「もし睨まれても、なんら問題ないな」
皇帝陛下に言われて兵を整えるため、俺たちは苦労して金を稼いでいるのだから。
彼としては俺の資金力を削りたいのであろうが、バカ正直に向こうの言いなりになるつもりもない。
「怖いことを言うな。ヴェルは」
「酷いのは、向こうだから」
「それはそうなんだけど……」
サーカットの町と帝都との往復で、一週間以上は時間を食ってしまう。
その間、磁器の製造ができないため経済的には大打撃であり、俺は魔法の袋に大量に製造した磁器を入れて持って来た。
エルは、他の窯元やそれを保護する貴族たち、さらには皇帝に睨まれないか心配しているようだが、こちらには食べさせないといけない人たちが大勢いるのだ。
自分の責任を他人に押しつけておきながら、それでも俺に文句を言えるというのであれば、俺はいくらでも反論してやるつもりだった。
「同品質のものを売って市場を圧迫しているわけでもない。値段も違うから購買層も違うし、他の窯元たちの磁器なんて商売仇にもならない」
白い磁器は人気で、商人たちはこぞってサーカットの町まで来ている状態である。
帝都の大商会に持ち込めば、高額で購入してくれるはずだ。
「足元見やがったら、サーカットの町に持ち帰って売ればいい」
「なんでそんなに喧嘩腰なんだよ」
俺の言い方に、エルは顔を顰める。
「アルフォンスには悪いけど、帝国の連中の方が俺に喧嘩腰だから」
「言い訳できないねぇ……。皇帝陛下は、君を有力な外様勢力の一つだと認識してしまったからね」
だからといって、これまでの働きに対する報酬も支払わず、あとで支払うからと言ってさらなる負担を押しつけていい理由にはならない。
挙句に、人が苦労してお金を稼いで帝国人主体の軍隊まで養っているのに、偉そうに人を帝都まで呼び寄せ、帝都郊外に駐屯していろと命令するのだから。
これでは、皇帝たちに対し好意的になれるはずがない。
「テレーゼとも、現状では友好寄りの別勢力という認識だな」
「やっぱり……」
皇帝派と対立しているせいか知らないが、最近では食料すら送ってこなくなった。
導師と軍主体の合同狩猟、周辺地域やミズホ伯国からの友情価格での輸入で、少しずつ備蓄を行っている状態だ。
テレーゼも厳しいのはわかるけど……。
「テレーゼには意見したんだ。いくら苦しくても、ヴェンデリンへの食料補給は決して止めるなと」
「なぜ止まったんだ?」
「ヴェンデリンなら、なんとかしてくれると……」
アルフォンスは反対したそうだが、皮肉なことにフィリップ公爵領で内政を担当している兄二人が賛成に回ってしまったそうだ。
「その分を、北部諸侯への貸与や援助に回した方がいいとね」
テレーゼからすると、兄たちの意見は無視できない。
今彼らを敵に回すと、皇帝派からの調略が及ぶと思っているからであろう。
「俺たちはあくまでも外様。外国人だな」
それでも、ここでめげるわけにはいかない。
ニュルンベルク公爵を討ち、例の装置をバラバラに破壊する必要があるのだから。
「ふぇーーー。凄い屋敷だなぁ」
話をしているうちに、帝都でも有数の大商会本部へと到着した。
正面を警備する門番に俺の身分と用向きを伝えると、すぐに応接室に通され、高価なお茶とお菓子が出される。
どうやら上客扱いのようだ。
「さすがだなぁ。帝国有数の大商会ともなると」
「これ、普段エリーゼが淹れてくれるマテ茶よりも美味しいよな。茶葉が高品質なんだ」
アルフォンスとエルは、メイドが淹れてくれたお茶の美味しさに感動していた。
エリーゼが淹れるお茶よりも美味しいということは、普段うちが使っている茶葉よりもかなり高品質だという証拠だ。
つまり、高い茶葉ってことさ。
「さすがは、フィリップ公爵閣下の腹心であらせられるアルフォンス様と、バウマイスター伯爵家一番の重臣の方。お口が肥えていらっしゃいますな」
そこに、商会の当主と思われる恰幅のいい中年男性が姿を現し、アルフォンスとエルの味覚を褒めた。
「そして、現在勢力を急激に拡張中のバウマイスター伯爵様」
「好きでやっているんじゃないよ。マイヤー商会の主ともなれば、皇帝陛下からさぞや無心があっただろう? それと同じさ」
「はい。ニュルンベルク公爵討伐で得られる利益で必ず返済すると、無利子、無期限で結構な額の帝国債を購入しました。これもお国のためとはいえ、私どもは子供たちの食事代にさえ事欠きそうです」
「面白い冗談だな。どうせ購入分だけ、税金がお安くなっているとか、そういう裏の条件あるんだろう?」
そうでなければ、彼らが無利子、無期限の債権なんて買うわけがないのだから。
「これはこれは。バウマイスター伯爵様は、お若いのになかなかに博識でいらっしゃる」
別に博識というわけでもない。
前に、そんな条件で債権を販売した事例があったのを聞いたことがあるだけだ。
「俺も同じ立場でね。あとで褒美と合わせて補填すると言われて一セントも褒美を貰っていないから、副業で稼いで多くの人を養っているというわけだ」
「帝国内において、ヘルムート王国貴族であるバウマイスター伯爵様が、新しい磁器で稼いで大兵力を養っていると、評判になっていますよ」
「大兵力? 大兵力というのは、最低でもニュルンベルク公爵くらい揃えてからだと思うけどな」
「我が商会でも、万を超える兵力を養うなど難しいですから」
「その気になれば、何十万人も養えそうだけど」
「あくまでも、短期間ならばですな」
「俺も同じだよ」
今は磁器が高値で売れるし、養っている兵たちにも小遣い程度しか出していなかった。
正式に雇ったボンホフ準男爵以下は高額な給金を出しているが、それは全員ではない。
もし出していれば、俺はとっくに万歳していたであろう。
「そんな憐れな俺が、天下のマイヤー商会に磁器を売りに来たというわけだ」
「これは大変に助かります。バウマイスター伯爵様がミズホ磁器職人たちと手掛ける白磁器は大人気でございまして。内乱中ではありますが、世の中にはそういう時でも、心の潤いにお金を使う方々がいらっしゃるのです」
「輸送費分得したんだから、友情価格でお願いするよ」
「はい。お願いされました。魔法の袋は便利でございますね」
それからすぐ、魔法の袋から大量に商品を取り出してマイヤー商会の当主に鑑定してもらった。
さて、いかほどになるかな?
「これはいい磁器ですね。無地の部分の細やかな白さが、最高級品であることを物語っております。つけてある絵も当商会のお客様方の好みに合っており、ケースも素晴らしい。これなら、高く買い取らせていただきますとも」
低価格品の無地のものはやめて、ミズホ職人が豪華で繊細な絵付けをしたり、縁に金箔を施し、高価なケースに入れたティーセットや、芸術品としても通用する花瓶などに、当主は顔を綻ばせていた。
「現在の帝国政府にお金がございませんが、あるところにはございまして。そういう方々は、このような商品を待ち望んでいるのです」
マイヤー商会の当主が提示した金額は、予想以上に高かった。
念のために少しゴネてみると、それからまた二割上がっている。
どれほどの利益を見込んでるのかは知らないが、その金額で仕入れても売り切る自信があるのであろう。
「その金額でいい」
「もし同様の商品がございましたら、今後とも我がマイヤー商会をよろしくお願いいたします。ところで、今夜はどちらにご宿泊で?」
魔法の袋から取り出した商品を倉庫に入れ、代金を受け取りマイヤー商会をあとにしようとすると、当主から今日の宿泊先を聞かれた。
「まだ決めていないが」
「それでしたら、私が懇意にしている宿を紹介いたしましょう」
当主は、俺たちに今夜泊まる宿を紹介してくれた。
若い使用人の案内で宿に到着するが、やはりセレブ御用達の高級そうな宿だ。
俺も伯爵なので、このくらいの宿に泊まらないと駄目ってことか。
「案内してくれてありがとう」
使用人に銀貨をチップとして渡して、俺たちは宿にチェックインする。
豪華な宿はその中も豪華であり、お風呂に入ってから夕食となるが、食事も高級宿に相応しいご馳走ばかりが並んでいた。
部屋で食べる方式ではなく、宿の中にあるレストランで食事をとるのだ。
「あの……。私たちも、こんな豪華な食事をとってよろしいのでしょうか?」
「どうせ経費で出しているんだから、こういう時は遠慮なく食べてくれ」
恐縮する護衛たちであったが、これは必要経費である。
こういう時には遠慮をするなと言って俺たちも食事を始め、護衛たちもそれに続いて料理を食べ始めた。
「いいワインだな。ヴェンデリンは、あまり興味なさそうだけど」
「(ワインの高い、安いなんて、よくわからないんだ!)」
「(だよねぇ。出されたワインを美味しいと言って飲んで、支払いの時に内心で大きく動揺するのが貴族なのさ)」
「(そんなイメージだな)」
もし安物ワインを、高級ワインですと言われて出されても、俺にはよくわからないのだから。
つまり貴族とは、爵位に応じて店が勧めたワインを楽しみ、素直に金を支払えってことか。
「ハルカさんにお土産にできないかな?」
「ワインを?」
「デザートとかだよ。女性は甘い物が好きじゃないか」
「それは、帰りにお店で買いなさい」
「ヴェル、お母さんみたいな言い方だな」
誰がお母さんか!
三人でテーブルを囲み、護衛たちも周囲のテーブルで食事をしていると、そこに一人の若い騎士と思われる青年が姿を現した。
エルと護衛たちは剣と刀に手を掛けて警戒を強めるが、その騎士は両手を挙げながら俺に話しかけてきた。
「バウマイスター伯爵様ですね? 私はとある方の随伴でこのレストランで食事をしておりまして。それで、そのお方が是非ご一緒に食事をしたいと」
「その方は、帝国貴族の方ですか?」
「いいえ。皇帝陛下のご三男である、ペーター・オスヴァルト・デリウス・フォン・アーカート様です」
「(皇帝陛下の三男ねぇ……)」
さて、どうしたものかと思ってしまう。
なにしろ、あの皇帝の子供なのだ。
もしかすると、父親に命じられて俺の失言でも引き出しにきたのかもしれない。
「(アルフォンス、知っているか?)」
皇帝の三男がどんな人物か知らないので、その知識がありそうなアルフォンスに聞いてみた。
「(世間の評判は悪いよ)」
「(悪いのか?)」
「(『皇家の恥さらし』と呼ばれている)」
武芸の稽古や勉学はそれなりにやっているが、時間が空けば自分と同じような境遇の貴族の子弟たちと共に徒党を組んで町に出かけ、町の子供たちと遊んだり、下町の安いお店で買い食いをしたり、帝都近郊の森に出かけて戦争ゴッコや狩猟をして遊び、その成果で野外バーベキューをしたりと。
とても皇族とは思えない行動を繰り返し、常に皇帝から叱責され、行儀のいい長男、次男からも嫌われて無視されている。
そんな情報を、アルフォンスは俺に耳打ちした。
「(どうせ皇家を継げないから、自由に行動してるのか?)」
話に聞く限り、他のどうせ跡を継げないからといって放蕩している貴族や王族の子弟よりはマシに思える。
誰にも迷惑をかけていないからな。
「(自由ねぇ……。彼の評判が悪い最大の理由は、高貴な生まれなのに行動が庶民的すぎるからだけど……。まあ、そういう言い方もできるかな)」
アルフォンスも、そこまで皇帝の三男について詳しくないようだ。
好意も抱いていないが、悪意も抱いていない。
そんなところであろう。
「(会ってみようじゃないか)それで、殿下はどこにいらっしゃるのかな?」
「こちらです」
若い騎士は、レストランの奥にあるVIP用の部屋に俺たちを案内しようとする。
すると、エルが俺の前に立ち、目配せをして護衛たちに合図を送った。
すぐに俺の周囲を取り囲み、エルは先に部屋に入っていく。
「おい、エル……」
さすがにそれは失礼だろうとエルに声をかけようとした瞬間、彼は素早く刀を抜いて、部屋のドアの奥にいた、二十代前半くらいの別の若い騎士にその切っ先を向けた。
「面白い趣向だな。帝国の殿下様ともなると」
「エル、よくわかったな」
「ハルカさんと抜刀隊の訓練は役に立つな。ドアを開ける前から殺気がビンビン伝わってくる。ヴェルは、気がつかなかったのか?」
「いやあ、剣士の殺気とかはね。一人、結構凄い魔法使いがいるのはわかったけど」
試しに、エルが刀の切っ先を向けている騎士をすり抜けるように『氷の矢』を部屋の奥に向けて放つと、『魔法障壁』の反応と共に『氷の矢』が弾かれて床に落ちた。
「安い物語じゃないんだから、こういう試し方はやめてくれないかな?」
俺たちを部屋に案内しようとした若い騎士に苦情を言うと、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「主君の命令か? イタズラ好きなのかな?」
「……」
続けて質問をすると若い騎士は黙り込んでしまうが、すぐに反応があった。
部屋の奥から、一人の若者が姿を見せたのだ。
素材のいい服は着ているが、ラフな格好をした俺と同年代くらいの少年は、まずエルに声をかける。
「ごめんなさいよ。へえ。うちのゴルツに先制して剣を……。これはミズホ刀か。バウマイスター伯爵はミズホ上級伯爵と仲良しって本当なんだ。クソ親父の情報もたまには当てになるんだね」
「あなたは?」
「ゴルツ。剣を納めて手を離さないと、バウマイスター伯爵一の家臣であるエルヴィン君から、額に穴を開けられちゃうよ」
どうやら、この少年が皇帝の三男のようだ。
しかし、皇帝の息子とは思えないほど言動が軽い。
「殿下、申し訳ありません」
「僕の方こそ、ゴルツに変なことを試させてすまないね。エルヴィン君。ここは僕に免じて刀を納めてくれないかな? ゴルツは、僕の命令でこういうことをしたんだよ」
「だとよ。ヴェル。どうする?」
「許してやれ」
「へえ。エルヴィン君は本当にバウマイスター伯爵の親友でもあるんだね。冒険者仲間か。いいね。僕も普通の狩猟じゃなくて魔物狩りに行きたいなぁ」
皇帝の三男は、ゴルツという男とエルの戦闘態勢を解いてから俺の前に歩いてくる。
そしてその後ろには、二十歳ほどに見えるライトグリーンのショートカットが特徴の若い女性が同伴していた。
その服装は、このレストランに相応しいドレスコードを順守した姿であったが、俺にはわかる。
彼女は、カタリーナにも匹敵する魔力を持つ魔法使いだ。
俺はいつでも『魔法障壁』を張れる準備をした。
「エメラ、警戒されちゃってるよ」
「殿下。バウマイスター伯爵様は、王国の最終兵器アームストロング導師に匹敵する魔法使いとの評判です。私の存在に気がつかないはずがありません」
「魔法使いは魔法使いを知るというやつだね」
皇帝の三男は、エメラという魔法使いの発言に素直に感心していた。
「勝てそう?」
「いいえ。9:1の確率で負けると思います」
「うーーーん、分が悪いね。さすがは、あのバカ四兄弟を瞬殺しただけはある」
俺は一人しか倒していないが、今は無理に訂正する必要もないか。
「本当に勝負したいのか?」
「まさか、個人的な興味ってやつ。うちのエメラは凄い魔法使いだと思うんだけどなぁ……」
俺の問いに、皇帝の三男は無邪気な表情のまま答えた。
「もの凄い魔法使いなのに、よくこの内乱で温存できたな……」
魔力量はカタリーナに匹敵し、勘ではあるが彼女よりも練達の魔法使いに感じる。
風魔法に片寄りがちなカタリーナよりも、魔法使いとしての性質はブランタークさんに近いはずだ。
正面から戦えば勝てるだろうが、ブランタークさんと同じく、正面から戦わないで他の手でくるか、勝てないとわかればとっとと逃げ出しそうなタイプである。
「エメラは綺麗でしょう? でも駄目だよ、僕のものだから」
「殿下っ!」
「はははっ、冗談じゃなくて本気だけど」
これだけの魔法使いを、臆することなく自分のものだと言い切る皇帝の三男に、俺たちは困惑していた。
掴みどころのない人物で、どう接していいのかわからなかったからだ。
「(彼の目的はなんなんだ?)」
「(僕にもちょっとわからないかな)」
「(変わった皇子様だよなぁ……)」
俺たちは、この掴みどころのない皇帝の三男とどう接していいものか、彼の笑顔を見ながら困惑してしまうのであった。
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