第209話 船頭多くして、船山に登る(後編)

「山頂の砦の攻略かぁ……山登りかよ」


「ブランタークさんの年齢を考慮して、他の砦にしませんか?」


「人を年寄り扱いするな!」


 余計なことをほざいたエルに、ブランタークさんの拳骨が落ちる。


「地図だけで判断しても、なんら軍事的な意義を見出せないのである!」


 導師も、ターベル山地砦攻略の意図を掴み切れないようだ。


「この砦は、帝国が北方攻略をしていた頃の前線基地であったからの」


 とうにその役割を終えており、今では山賊対策のために存在していることになっていた。


「とはいえ、北方街道に山賊など出ないがの。たまに強盗が出るくらいじゃ」


 常に警備隊の巡回があるので、徒党を組んだ山賊では逆に捕まりやすくなってしまうそうだ。

 では、なぜこの砦が存在するのかと言えば……。


「下手に放置して、変な連中に住処にされてもな。それと、帝国軍でもあるのじゃ。ポスト削減に反対する勢力が」


 ターベル山地砦の守備隊長は重要なポストなので、これをなくそうとすると軍内の反発が大きいらしい。

 自分たちが就けるポストが減ることに軍内からの反発が大きく、今まで削減できなかったそうだ。


「どこかで聞いたような話ですね」


「軍事予算の無駄遣いは誰にでも理解できるが、真面目に削減した結果、自分の役職や給金が消えるのは嫌だからの」


 その辺は、王国も帝国も差はないようだ。

 

「それにな、今の戦況では使い道がないわけでもない」


 位置的に、我々が帝都に向けて前進をすると、このターベル山地砦から兵を繰り出し、味方の補給を絶つ戦法に出る可能性があるとテレーゼは説明する。

 そのため、念のために占領して守備兵を置く必要があると。


「あのバーデン公爵公子、もの凄くバカでもないのですね」


「普通に公爵家の跡取りは務まる器じゃの。だから逆に困るのじゃ」


 カタリーナの毒舌に、テレーゼは困惑した表情を浮かべていた。

 実際に短期間で、自身の派閥とも言える攻勢案に賛成のグループを結成してしまうのだから。


「それで、俺たちだけで落とせと?」

 

「さすがにそれはない、我々との共同作戦だな」


 前回のソビット大荒地野戦陣地攻防戦において、新兵器である魔銃まで繰り出したミズホ伯国軍の功績は巨大であり、メインであるハーバット攻略の任からは外されてしまったらしい。


「千五百人ほどを出す。指揮は弟に任せるが、なるべく犠牲を出したくないな」


 ミズホ上級伯爵が独自に出している偵察によると、ターベル山地砦には元々百名ほどの守備兵がいたそうだが、今はニュルンベルク公爵がもう百名ほど追加で援軍を送っているそうだ。

 ターベル山地砦はターベル山の山頂にあり、攻め入れるのは唯一山頂へと続く山道のみ。

 砦の正面入り口はその山道からの一ヵ所だけで、あとは断崖絶壁で囲まれているとの事前情報であった。


「損害が出そうですね」


「そうだな」


 守備兵は二百名で、魔法使いもいないし、特に精鋭が守備しているわけでもない。

 だが、バカ正直に千五百名で砦正面門に殺到すれば、矢や石で大きな損害を出すであろう。


「魔銃で狙撃するとか?」


「距離にもよるが、いまだ精密な狙撃は不可能だ。有効射程は百メートルほどで、それくらいだと弩や大弓での反撃もある」

 ミズホ上級伯爵としては、あまり意味のない小砦の攻城戦で魔銃手たちに犠牲を出したくないのであろう。

 まだニュルンベルク公爵との決戦が残っているのだから。


「魔法でなんとかするしかないのかな」


「是非頼む。報酬に関しては、テレーゼ殿が特に加算すると言っていたぞ」


「はあ……」


 ただ働きは嫌だが、テレーゼの場合、自分の体で支払うとか言いかねない。

 男としてはアリだと思ってしまいそうだが、戦争の報酬としては安いような気がしてしまう。

 むしろ、デメリットを考えるとマイナスであろう。


「バウマイスター伯爵は、えらくテレーゼ殿に気に入られておるの。お互いに立場があって大変であるが」


「ええ」


「公爵でなければ、美しい女性なのだがな」


 その日の試し斬りは無事に終わり、それから二日後。

 バーデン公爵公子と十数名の貴族たちによる混成軍合計一万五千人が、ハーバット攻略に向けて出撃した。

 他にも、四ヵ所の城塞や拠点を落とすために一万人ほどの兵を貴族たちが出しており、最後に、ミズホ伯国軍と俺たちもターベル山地砦攻略に向けて出発している。

 テレーゼは後方から得た追加の援軍と共に、三万人ほどでソビット大荒地野戦陣地で留守役を務めていた。

 総大将が軽々しく前線に出るなと、バーデン公爵公子たちから言われたらしいが、手柄の取り合いと、やはり女性当主なので戦場に出ようとすると嫌がられるらしい。


「急ぎ落として戻るか」


 偵察によると、出している戦力でどこも簡単に落とせる計算になっている。

 だが、味方が兵力を分散しているのには違いない。

 思わぬ奇襲を受け、敗北する可能性だってあるのだ。

 俺たちだけでも手早くターベル山地砦を落とし、それに備える必要があった。


「ヴィルマ、新型の試作品魔銃はどうだ?」


「使ってみないとわからない」


 ターベル山地砦への行軍は、丸二日ほどで終わった。

 ミズホ伯国軍は、砦正面門から弓矢が届かない位置まで距離を置いて待機しており、先ほど伝令が降伏勧告を出しに使者として向かった。

 奇襲をしない点でまだ甘い部分があるのかもしれないが、山道以外に攻め上る方法がないので、どうせ奇襲などできないという理由も存在している。

 もし素直に降伏してくれれば犠牲が出ないので、試しても損はないというわけだ。


『降伏勧告はありがたいが、死守命令が出ていますので』


 もっとも、砦の守備隊長からこう言われて見事に断られてしまったようだが。


「魔法で狙撃しようかと思ったけど、まさかこんな試作品があるとはね」


 俺がヴィルマに調子を聞いているのは、ミズホ上級伯爵から貸与された新型の魔銃であった。

 砲身が長く、初めての試みであるライフリングに、照準に使うスコープ、銃床の形状も改良されている。

 理論値では三百メートルくらいの距離は狙撃可能らしいが、この狙撃魔銃は所謂不良品であった。

 魔力の消費効率が悪く、付属の魔晶石では一度に一発しか撃てないそうだ。

 燃費は最悪だな。


「ヴェル様。これを使うのと、魔法で撃つのはどちらが効率的?」


「実は、この試作狙撃銃の方」


 前のように自作したタングステン入りの椎の実型銃弾を魔法で飛ばしてもいいのだが、この距離で狙撃をするとなると魔力の消費が大きくなる。

 大規模な魔法をぶっ放そうかとも考えたのだが、なるべく無傷で占領して後続の守備隊に渡さないと、防衛拠点としての意味をなさない。

 そこで、俺たちの中で一番武器の扱いに慣れているヴィルマに任せることにしたのだ。

 どうせ俺では当たらないからな。

 実は、魔銃に関してはエルとハルカとタカオミさんにも貸与されている。

 貸与なので貰えたわけではないが、どうせ定期的に謎メンテをしないと使えなくなるので、貰っても意味はないはず。

 先日、バーデン公爵公子たちも、魔銃を手に入れ損なって残念そうにしていたくらいなのだから。


「ヴェル様、誰を狙うの?」


「ええと……」


 俺とヴィルマは、ミズホ伯国軍から少し後方にある、山道から外れた巨大な岩の上で双眼鏡とスコープを用いて砦の様子を観察していた。

 城壁の上には五十名ほどの兵士たちが弓を構え、防衛用のバリスタを準備している。

 そして、彼らを指揮する数名の隊長やその部下の姿もあった。


「まずは指揮官をだな」


「了解、セオリーどおり。まずは撃ってみる」


 事前の試射では、並み居るミズホ伯国軍魔銃隊の猛者たちにも匹敵する実力を見せたヴィルマであったが、今度の標的は的ではなくて人間である。

 思わぬ動揺を見せ、失敗する可能性もあった。


「大丈夫か?」


「大丈夫」


「無理をするなよ」


「私はヴェル様の妻であり、盾と矛でもある。だから大丈夫」


 ヴィルマは、狙撃用の魔銃を構えながら珍しく言葉を続ける。


「ヴェル様は、私に楽しい時間と居場所を作ってくれた」


 ヴィルマは、英雄症候群のせいで普通の貴族家には嫁げない身であった。

 運よくエドガー軍務卿に拾われたが、それでも俺以外の男性に嫁ぐのは難しかったであろう。

 いくら腕っぷしがよくても、今の王国軍にはそう簡単に仕官できず、エドガー軍務卿に私的に雇われて裏の仕事もするか、冒険者でもして己の食い扶持を稼ぐしかなかったのだから。


「ヴェル様と一緒にいると毎日楽しい。だから私は、この居場所を守るために顔を知らない人たちを殺す罪悪に身を染める。私はエゴで、自分とヴェル様と知っている人たちのために人を殺す」


「そうか。俺も同じだな」


 俺が唯一得意な魔法を阻害する装置まで駆使して反乱を起こしたニュルンベルク公爵を殺し、その装置をバラバラに破壊する。

 そのためだけに、俺はすでに数百名の人間を殺したのだから。


「エルも、エリーゼ様も、イーナも、ルイーゼも、カタリーナも同じ」


 最初は打算で俺の仲間になったのであろうが、今は運命共同体である。

 だからこそ、エリーゼですらターベル山地砦攻略について来ているのだから。


「さっさと終えて、夕食のメニューでも考えようか」


「それがいい」


 ヴィルマは、狙撃銃に俺が大きさを調整した銃弾を詰める。

 魔銃はすべて前込め式で、本来の銃弾は火縄銃と同じく丸い。

 だが、丸い弾ではライフリングの意味がないので、今回は自分が魔力で飛ばすのに使っていた椎の実型の銃弾を、銃身に合わせて魔法で大きさを調整したのだ。


「スルリと入る」


 ヴィルマは、俺から貰った銃弾を銃身に込めた。

 銃身はともかく、魔銃には奇妙な仕組みが多い。

 火薬の代わりに魔力で弾を飛ばすので、すべてに魔晶石が内蔵されている。

 引き金を引くと弾が発射されるが、なぜ引き金を引くと魔力が銃弾を飛ばすのかが不明である。

 今までに類似品の研究は両国で行われていたはずだが、完成していないのはその辺の仕組みの難しさからきているのかもしれない。


「引き金を引くと弾が飛ぶ魔法の仕組みが、意味不明だな」


 火薬なら着火させれば爆発するが、魔晶石に蓄えられた魔力が銃弾を発射する魔法に変化する仕組みを人工的に再現しているのだから、魔法使いである俺でも意味不明であった。

 これを解決したミズホ伯国が、ニュルンベルク公爵から警戒される理由であろう。


「今は弾が飛べばいい」


「ヴィルマの言うとおりだ。指揮官から殺る」


 俺も双眼鏡で、砦の城壁の上で指揮を執る守備隊長の姿を確認した。

 他にも副官や部隊長などもいるが、これも標的とする。

 全員いなくなれば、残りの兵たちはすぐに降伏するはずだ。

 

「上を殺して士気を殺ごう。結局一番これが効率がいい。無駄な犠牲も出ない」


「わかった」


 狙撃魔銃を構えていたヴィルマが引き金を引くと、双眼鏡に映っていた守備隊長が勢いよく後ろに吹き飛ばされて、そのまま起き上がらなくなった。

 隣にいた副官たちが慌てて助けようとするが、ヴィルマの狙撃は経験が少ないにしては正確だ。

 頭部に銃弾が命中して血と脳漿をぶちまけて死んだ上官を見て、彼らは恐れ慄いているようだ。


「ヴィルマ」


「続ける」


 続けて、副官らしき人物、二名の部隊長、少し離れて弓隊を指揮している男性も標的にする。

 全員、頭部や胴体を撃たれて、即死か戦闘不能になった。

 ヴィルマはこれまで一発も狙いを外しておらず、見事なまでの腕前であった。


「銃身が……」


 不思議なことに魔銃は、五発ほど撃つと銃身が熱されて冷ますまで撃てなくなってしまう。

 ミズホ伯国軍では水をかけて強制冷却しているが、俺はヴィルマから受け取った狙撃魔銃を『冷却』で素早く冷ました。

 これならば、銃身が水で濡れる心配もない。


「続けて、バリスタを操る人員だ」


 ヴィルマの射撃は続き、今度は城壁の上でバリスタを操っている兵士たちを標的にする。

 最初は、撃たれてもすぐに交代の人員が駆け寄って来たが、そこに移動すると狙撃される事実に気がつき、次第に誰もバリスタに近寄らなくなる。

 続けて弓兵への狙撃が始まり、三名ほどが撃たれると全員が弓を捨てて城壁の上から逃げ出してしまった。

 それを止める兵士もいたが、あまり偉くない人のようで誰も耳を貸さない。

 なにしろ偉い人たちは、すでに大半がヴィルマの狙撃であの世に旅立っていたのだから。


「ヴェル様、撃てる人がいなくなった」


「これ以上は必要ないみたいだけど」


 一方的に遠距離から偉い人たちを撃たれ、自分たちにはなす術がないのだ。

 彼等の士気は完全に砕かれ、城壁には数本の白旗が翻っていた。

 

「降伏してくれたか」


 こうしてターベル山地砦は、一人も味方の死傷者を出さず攻略に成功するのであった。


 



「これが成功? いや失敗でしょう」


「でも、ヴェル。普通に砦は落ちたぜ」


「エルさんの言うとおりです。しかも、味方の死傷者はゼロですよ」


「ハルカさんの言うとおりだ。味方の犠牲がゼロなのは素晴らしい」


 白旗が上がったターベル山地砦は、特に大した混乱もなくミズホ伯国軍によって占領された。

 狙撃とはいえ部隊長以下の幹部たちを討ち、もし攻城戦を行ったとしたら犠牲が出る最大の要因であろうバリスタと弓隊の無力化にも成功、オマケにターベル山地砦は無傷で修復も必要ない。

 俺たちの功績は一番であったが、実は褒美を出すのはテレーゼである。

 なぜなら、俺たちはテレーゼから雇われた傭兵であるからだ。

 一応戦功を記録する武官が同伴しているので、戦功と恩賞の誤魔化しは発生しないはずだ。

 ミズホ伯国軍を率いる、ミズホ上級伯爵の実弟にして分家当主のトヨツグ・タムラ・ミズホさんの表情は険しいが、別に俺の戦果に嫉妬しているわけではない。

 別の理由が、彼を不機嫌にしているのだ。


「俺らはハメられたんだよ」


「であるな。倉庫が空であったのである!」


「元々、落ちることが前提かぁ……。伯爵様の言うとおりで、素直に喜んではいられないなぁ」


「導師たちまで、ヴェルと同じ意見なのか……」


 ターベル山地砦にある倉庫や、司令部の建物にあるはずの金庫に入っている活動資金はミズホ伯国軍に権利が発生するのだが、そこをトヨツグさんが家臣たちに改めさせたところ、ほとんどなにも入っていなかったらしい。

 食糧が保管されている倉庫も、守備兵の一週間分くらいしか保管されていなかったそうだ。


「ハメられた?」


「そうだ。こういう山頂にある砦の備蓄食料が残り一週間分とか普通あるか?」


「でも、山賊とかも特にいない山の砦だったんでしょう?」


「ポスト目当ての砦だったそうだが、今は反乱軍の防衛拠点になっている。食料くらい普通は運び込むだろう? それにな。普段だってこんな山頂に細々と物資なんて補給しないさ。経費がかかるからな」


 ブランタークさんの推論に、エルは納得したような表情を見せた。

 こんな山頂では、補給が定期的に行われる保証もない。

 山の天候は変わりやすいからな。

 普通なら、保存食を多めに備蓄しているはずだ。


「それよりも問題なのは、ここと同じ対応を他の拠点の反乱軍がしていた時のことである!」


「伯父様、これは敵軍からの誘いの罠ということですか?」


 戦闘後、敵軍には死者しかいなかったので、エリーゼは治癒魔法を使う必要がなくて導師と一緒にいた。

 イーナたちも、特にすることがなかったのでここにいるが、暇つぶしのはずの話が次第に深刻になっていく。


「わざと食料や物資を少なくして、守備も薄くして私たちを引き入れた?」


「イーナが予想しているとおりだろうね」


 簡単に攻略はできたが、この時点で兵を出したこちらが消費した食料や物資を考えると赤字である。

 なにしろ、わずかな食料しか接収できていないのだから。

 それでも占領した町や砦を維持できれば黒字になるが、それには補給が必要でありまた経費もかかる。

 

「というか、その前に食料不足の状態で囲まれるよね」


 ルイーゼの言うとおりで、俺たちは急ぎ砦の攻略に向かったので、あまり食料を持っていない。

 それは後発の補給部隊に任せることになっていたが、反乱軍に補給路を断たれれば、山上の俺たちは万事休すである。

 我々がその補給部隊を守ろうとしても、その前に砦を敵軍に囲まれれば手が出ないのだから。

 特にこのターベル山地砦は、本来であれば堅牢で守りやすい砦である。

 山頂にあって攻略ルートが一本しかないからであるが、逆に言えばその山道を抑えられれば出口がなくなる。


「二百名分で一週間分の食料しか倉庫になくて、こちらもそれほど手持ちがあるわけではない」


 ヴィルマは事実だけしか語らない。 

 だが、逆に事態は深刻とも言えた。

 俺の脳裏にある悪い予感が浮かぶが、それはすぐに現実のものとなっていた。


「ヴェンデリンさん!」


 城壁の上で警戒を行っていたカタリーナが、こちらに大急ぎで駈け込んできたのだ。


「私たち、反乱軍に包囲されているようです」


「やっぱりなぁ……」


 こちらがターベル山地砦を占領したのを見計らったかのように、正門前の山道に多数の反乱軍が出現したと、カタリーナが報告した。

 

「つまり、これでここから出られなくなったというわけだ」


 反乱軍は味方よりも多いはずだが、多分無理攻めはしてこないはずだ。

 なにしろこちらは、食糧に余裕がないと思われているのだから。

 山道だけ塞いで待っていれば、こちらは一週間ほどで食料が尽きてしまう。

 テレーゼが補給を送ろうにも、届くはずもない。


「ターベル山地砦にいる私たちは極端な例として、他の攻略に向かった味方は敗北必至なのでは?」


「似たような手を使ってくるはずなのである!」


 他の城塞攻略組も同じことをされている可能性が高く、ハーバット攻略組のバーデン公爵公子たちは、今頃優勢な反乱軍に包囲されているかもしれない。

 どうやらせっかくの先の大勝も、今回の敗北で無駄になってしまう可能性があった。


「テレーゼめ、バーデン公爵公子を抑えきれないから」


 バカなことはしてくれたが、このままバーデン公爵公子たちが戦死するとまずい。

 だが今の俺たちは、自分のことで精一杯でああった。


「トヨツグ殿と対応を協議する。しかし、困ったなぁ……」


「今度は、こっちが籠城戦かよ」


 エルが愚痴るが、外の反乱軍の数がわからない以上、下手に動くとかえって危険だ。

 俺たちは急ぎ足で、トヨツグ殿の元へと急ぐ。

 少しでも、味方を包囲する敵軍の情報を得るために。

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