第36話 ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターという男
「(凄い……)」
私、イーナ・ズザネ・ヒレンブラントは、ただ驚いていた。
自分と親友である同じ年の幼馴染を、狼たちの攻撃から救った瞬時に形成された土壁に、同時に獣たちを絶命させた魔法の矢の連打を直接見てしまったから。
槍術修行の傍らで鍛えさせられた動体視力により、別方向から二本、普通の矢も飛んできて、二匹の狼を絶命させたことも確認している。
でも、普通に考えれば凄いこの弓の腕前ですら、魔法の前では霞んでしまう。
才能の関係で、魔法使いの数は極端に少ない。
その中でも、凄腕の魔法使いともなればさらに希少だ。
実際、ブライヒレーダー辺境伯家で雇われている魔法使いたちの中で、今の魔法に匹敵するものを使える人物は、筆頭お抱え魔法使いであるブランターク様だけであろう。
しかも彼は、三十年以上も一流の冒険者として活躍し、過去には竜まで討って王国から受勲をされた身でもある。
そんな彼に匹敵する魔法を使う者とは、一体何者なのであろうか?
そう思い、魔法を放った者の確認をする。
するとそこには、一緒に入学した冒険者予備校の同級生の姿があった。
魔法の主は、あの話題の魔法使いヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターだったのだ。
「(わかっていたつもりだけど……実際に見ると凄いわね……)」
特待生試験の時に流れた噂は本物だった。
いや、みんな彼とパーティを組みたいと思って特待生試験の合格を願ったくらいだから、偽者のわけがないんだけど。
直接この目で彼の魔法を見てしまうと、凄い以外の感想が思い浮かばないのだ。
後継者争いになるから仕方がないにしても、これだけの魔法の才能を持つ子を実家から出してしまうなんて……。
ブライヒレーダー辺境伯家の重臣たちから、『バウマイスター騎士爵家は、無学の水呑み騎士』だとバカにされるわけね。
お館様が年三回送り出し続けている、バウマイスター騎士爵領への商隊。
予算の無駄だから廃止した方がいいって、お館様に進言する一族や重臣たちも多いって聞くから。
それにしても、バウマイスター騎士爵家もうちょっと融通を利かせればよかったのに。
でもそのおかげで、私たちにはチャンスが巡ってきたわけだけど。
ただ、私たちには狩猟の経験がなくて、それは不利な要素になってしまう。
そのため、私たちは二人で狩猟をして経験を積むことにした。
最初はブライヒブルクの近くで……と思わなくもなかったのだけど、彼とエルヴィンは競争相手が少ない街から離れた狩猟場に向かったので、偵察がてら追いかけるように遠出してしまった。
私もルイーゼも狩猟は未経験ながら、特待生試験に受かった身なので自信があったのだと思う。
でも現実は、経験不足が祟って多数の狼たちを前に疲労困憊してしまい、様子を伺っていたヴェンデリンとエルヴィンに助けられる羽目になってしまった。
これはとんだ失態だわ。
「助けてくれてありがとう」
とはいえ、助けてもらったのだ。
私はすぐに、二人に対しお礼を言った。
正直なところ、彼らの救援がなかったら相当に危なかったはず。
私たちは、実力を過信しすぎていたのだ。
実家であるヒレンブラント家は、代々ブライヒレーダー家に槍術師範として仕える陪臣であった。
貴族とその陪臣の嗜みとされる武術は、平時には見栄えがよく、貴族に叙任される際に宣誓する言葉のどおり剣が重要視される。
式典などでも、上位の者ほど高価で美しい剣を用意するのが常識であった。
ところが実際の戦場では、遠距離から一方的に攻撃できる弓と、リーチが長い槍が重要視される。
戦場における戦死傷者の多くは、これら二つによって発生するのだから。
よく物語で語られる、騎士同士が剣を使って一騎討ちするなんてシーンは滅多に発生しないと父が言っていたわ。
それに、大半の兵士は長い槍を持つもの。
私の実家は彼らに槍の使い方を教えるのが家業であり、ブライヒレーダー辺境伯家でもそれなりに重要視されている陪臣家であった。
そんな実家で育った私は自信があったのだけど、結果はちょっと情けないことになってしまった。
「(こんな失態が父に知られでもしたら……)」
とにかく、三女がのうのうとしていられる余裕などない。
三女では同じ陪臣家への嫁入りすら難しく、私は子供の頃から自立のために槍術を学んできた。
幸いと言うべきか、才能はある方みたい。
父が、『お前が男ならな……』と残念そうに口にするくらいには。
技の型などはまだ父に敵わなかっけど、実は私にはほんの少しだけ常人よりも多めの魔力がある。
これを少しずつ己の身体に流し、身体能力を強化する。
この技を懸命に訓練した結果、私は実戦形式の模擬試合で父や兄たちにも負けなくなった。
ただ、それは同時に残念な結果も生んでいる。
父はともかく、兄たちは私を疎ましく思うようになっていたのだ。
妹としては、可愛がってくれているのはわかる。
でも、槍術道場の弟子としては疎ましい。
もし私が男ならば、その腕前で実家に師範として残るという選択肢もあった。
しかし、私は女である。
嫁ぐにしても、私は三女なので条件はよくない。
嫁に行くのに、槍の腕前なんてまったく関係ないからだ。
むしろ、嫁よりも弱い旦那などと噂されるのも嫌なので、誰も貰ってくれないであろう。
そのような事情もあり、私イーナ・ズザネ・ヒレンブラントは、冒険者予備校に入学した。
得意な槍術で、特待生試験に受かってだ。
それなのに……。
「(落ち込むわ……)」
せっかくいいところを見せて、パーティを組もうとした相手に助けられてしまうなんて……。
これはもしかしなくても、パーティを組むのが難しくなってしまったかも。
『狼の毛皮を貰っちゃっていいの? ラッキー』
『じゃあ、夕食を奢るよ』
ただ、私たちを助けてくれたバウマイスター家の八男なんだけど……どこか抜けているというか、変わっているような気がする。
こちらに恩着せがましい発現を一切せず、私たちが助けてもらったお礼に権利を放棄した狼の毛皮に喜び、なぜか助けた私たちに夕食を奢ると言うのだから。
「(変わった人ね……。魔法使いって、みんなこうなのかしら? そんなわけないわよね)」
魔法使いにも色々な人がいるはずで、ということは彼はお人好し?
魔法が使えるとはいえ、実家を出るまでは零細貴族の八男ともなれば私たちよりも貧しい生活を送っていたはず。
なにしろ、彼はあの有名な貧乏騎士家の八男なのだ。
しかもこう言っては失礼だけど、バウマイスター騎士爵領はとんでもない田舎だという噂だったのだから。
陪臣家の娘とはいえ、いや逆にそういう立場だからこそ、お隣の零細貴族家の財状態が手に取るようにわかってしまう。
わかってしまうからこそ、物悲しくなってしまう部分もあるのだけど。
この世は、戦争もなく平和であった。
だからこそ、王族も、貴族も、陪臣も。
跡を継げない子供の悲哀は共通で、軍への道もある男子とは違い、それすらもない女子は、いい嫁ぎ先の確保か、私のように冒険者などとして身を立てようとする。
ただ前者は、私のような立場だと厳しいものがあるのだ。
もう引退している老齢の貴族の妾や後妻か、小領貴族の妾でも順番は三番目から五番目くらい。
降家でも商人に嫁げれば運がいい方で、諦めて豪農などに嫁ぐ人もいるほどだ。
これなら、冒険者として自立した方がマシというものだ。
前に誰かが、『また戦争でもないかな?』などと物騒なことを言っていたけど、内心では賛同者もいそうな気がしてならなかった。
戦争で貴族が減れば、その分自分たちに出番が回ってくる可能性もあるし、戦場で武功を立てて貴族になれるかもしれないのだから。
「……イーナでいいわよ。いい、確かにあなたの剣の腕は優れているし、弓も上手なのはわかる。でも、ヴェンデリンの魔法が凄すぎてあの弓矢での攻撃が意味のないものに感じてしまったわ。ヴェンデリンなら、その辺の子供と組んでも結果は同じじゃないのかしら?」
せっかくの食事の席なのに、私は思わずバウマイスター家の八男の相棒であったエルヴィンに余計なことを言ってしまった。
でも実際、まだ様子見の人は多いけど、魔法が使えるバウマイスター家の八男に目をつけている予備校生は多い。
男子は、パーティーメンバー候補として。
女子は、それプラス婚姻の相手としてだ。
私たちの年齢ではまだ早いような気もするけど、予備校には成人している女子生徒も多かった。
それに、こういうことは競争でもある。
特に、こんな冒険者予備校に在籍しているような貴族の子弟たちは、もう半分平民に片足を突っ込んだ状態なので、己の将来のために必死なのだから。
こう言うと平民をバカにしていると思われるかもしれないけど、みんな、生まれた時から持っていた身分や待遇を失うかどうかの瀬戸際なのだ。
必死にもなるし、他者を蹴り落としてでもと考える人も多い。
本当、貴族の世界は世知辛いのだ。
決して、綺麗事だけで語れるものではなかった。
「(ヴェンデリンと組めば、上手くすると……)」
優秀な魔法使いなので、運がよければ貴族に叙される可能性もあるし、そうでなくても収入が良いので生活は保障されるはず。
もしどこかの貴族家のお抱えになれば、その子が代々の陪臣として家を立てられる可能性もあった。
男子は家臣に、そして女子は当然妻を目指す。
冒険者予備校なのに、もうその先にある第二の人生を見据えている者も多いはず。
酷く現実的な話ではあるけど、貴族や陪臣の次男、次女以下がここでのほほんとしているわけにもいかない。
早い者勝ち、図々しいくらいでないと駄目。
継げる家門と領地に、いい嫁ぎ先などがある長男・長女などは、こういう考えをする私たちがさもしいと陰口を叩くこともある。
でもそれは、自分たちが恵まれている立場にいるからこそよ。
どうせ、冒険者予備校に通う貴族の子弟なんて、すでに半分貴族扱いされていないのだから。
冒険者として身分など関係ないほどの大金を稼ぐか、名を挙げて他の貴族に雇われるしかないわ。
でなければ、限界を感じて引退をしたあと、稼いだお金を持って未開の開拓地に向かうか、小さな商売でも始めるか。
結局、そういう人間の方が多いのだから。
王国には、自分の先祖は貴族でしたと自称する平民は非常に多い。
どんな名前を名乗っても違法ではないので、平民でも貴族のような名前の人も多いのだ。
普通は遠慮して姓を名乗らなくなるのだけど、親から言われているとか、貴族に返り咲けるかもしれないと言って、意地でも姓を名乗ることをやめない人もいた。
私には、意味があるとは思えないけど……。
「私は、そんな生活は嫌だもの」
夕食が終わり、私たちはヴェンデリンたちと別れて自宅への道を歩いていた。
隣にいる幼馴染のルイーゼも同じだけど、成人後には実家からも出ていかなければならない。
残っていてもいいけど、それは親から勧められる縁談を断れないことを意味していたからだ。
いい嫁ぎ先なんてまず奇跡でも起こらなければ難しく、もし相手が七十歳を超えた老人でも家に残っていれば断ることなど出来ない。
オマケの三女が成人後も家に残るというのは、そういうことを覚悟しなければいけないのだ。
「イーナちゃんは頭がいいから、色々と考えるよね」
見た目が幼いせいで周囲はあまりそう思っていないようだけど、実は私などよりもルイーゼの方がよっぽど頭はキレると思う。
いくら家が近所同士で幼馴染でもあって立場が似ているとはいえ、私たちが親友同士なのは、心の奥底では似た者同士だからだ。
「私たちは、チャンスを得たと思う」
「うーーーん、ヴェル君のことだよね?」
同年齢で同じ冒険者志望なのに、狼から助けられるという不甲斐なさであったが、だからと言って私たちがもの凄く弱いというわけではない。
他の特待生でも、多分同じような結果になっていたであろうからだ。
要するに、ヴェンデリンがあまりに強過ぎるのだ。
「イーナちゃんは美人さんだから、ヴェル君の目に留まるかな?」
「それはないわよ」
小さい頃から、顔立ちは整っていると周囲からよく言われていた。
ただ、槍術を習っているせいではないと思うけど、目付きが鋭い時があって怖いと言われることも多かったからだ。
他にも、考え事をすると口数が少なくなる傾向もあり、男性からすればなにを考えているのかわからず、たまに喋ると厳しいことを言う女の子に見えるはず。
とても女性としては、ヴェンデリンから好まれるタイプとは思わなかったのだ。
体型も標準的だし、むしろ可愛い容姿をしているルイーゼの方が男性へのウケはいいと私は思っている。
「ボクは、チビっ子だもの」
「そういうのが好きな人も一定数いるって」
「イーナちゃんは突然なにを言うのかと思えば。体型は、年齢的に将来に期待するにしても。イーナちゃんは期待できるけど、ボクは厳しいかも……」
実は、ヴェンデリンはルイーゼのような娘がタイプかもしれない。
私も数に入れれば、二人でツータイプとも言えた。
選択肢は、多い方がいい?
しかしまあ、自分で言っていてしょうもない考えだと思うわ。
「なんてね。今は友達になれて、パーティーでも組めれば最高かな」
一方のルイーゼも、サラっと凄いことを目論んでいるようね。
予備校生は、卒業までは魔物の領域に入れない。
年度の後半から始まる、熟練パーティを教官役とした実習を除いてだけど。
それに備えて事前にパーティを組み、狩りで連携を確認するくらいのことができなければ、冒険者に相応しくないと言われても反論はできない。
今はそういう大切な時期だと、予備校生は誰もが思っていたのだ。
だから、自然とヴェンデリンに目が向いてしまうのよね。
「ライバルはとても多いわ」
「だよねぇ。ヴェル君がいると圧倒的だし、エル君もあれでなかなか凄腕の剣士だもの。ボクたちと同じく特待生だから」
とはいえ、いきなりパーティ結成要請を出すのはバカのやることよ。
実力のない人間がいきなりパーティを組んで欲しいと頼みに言っても、実力の高い人からすれば、『邪魔者や足手纏いはお引取りください』という結果になるのだから。
「私たちって、冷静に考えてどうかな?」
「ええと……」
正直、他の特待生に劣るということはないと思う。
二人共、入学成績はトップ5に入っているのだから。
「考えても仕方がないから、申請用紙を出してしまおうよ」
「ルイーゼ、あんたねぇ……」
たまにこういう直感的な行動や意見を述べるのが、ルイーゼという私の親友であった。
ところが、意外とその結果が悪くないのだ。
直感力に優れているのかもしれないわ
「駄目なら、向こうが破棄するって。駄目元駄目元」
「なんて行動がポジティブなのかしら……」
「それとね。昨日のことなんだけど、ボクが昨日、買い物をしようと一人で街中を歩いていた時にことなんだけど……」
ルイーゼによると、突然道端で占いをしているお婆さんに呼び止められたそうだ。
「無料で観てあげるって言われたから。せっかくの無料だからね」
「占いなんて当たるのかしら?」
私はまったく信じていないけどね。
「で、その占い師のお婆さんはなんて?」
「『迷うくらいなら、試してみるのが吉』だって。つまり、迷うくらいならパーティの申請用紙を出してしまった方がいいわけ」
「占いで言われたからなのね……」
話を聞くと有名な占い師でもなさそうだし、そんな簡単に言われたとおりにして大丈夫なのかしら?
「先に誰かに申請用紙を出されて、向こうが『いいか』ってなったら困るよ。パーティはよく変更があるけど、それまで待つのも面倒だし、最初のパーティがしっくり行っていると判断されたらチャンスはもうないから」
「それは困るわね……」
この状況では、ルイーゼが抜け駆けしなくても、誰かが抜け駆けするかもしれない。
先手を打たれるのは癪なのは事実。
「駄目ならさぁ、他の特待生たちと組んで経験と腕前を上げつつ、次のチャンス待つ。二段構えの作戦だよ」
「ルイーゼにしてはよく考えているわ」
「イーナちゃん、ルイーゼにしては、は余計だって」
そんなわけで私たちは、駄目元でパーティー申請を四人で出してしまうことにした。
次の日にパーティー申請用紙を記入して提出すると、一番の関門だと思われた担任のゼークト先生は却下しなかった。
「入学順位が五位以内の四人か。戦力バランスも悪くないし、こういうのは命がかかっているからな。経験を積ませるために成績下位者も入れろとは言えないな」
命がかかっているので、成績上位者と下位者をバランスよく組ませてなどとは、元冒険者でもあったゼークト先生は言えないようだ。
それに、私たちはまだ一人前の冒険者ではない。
ただの見習いなのだから、余計にパーティ編成には万全を期すべきなのだ。
近い順位の者同士で組み、成績下位者は狩りなどで経験を積んで、将来は魔物に対応できるように訓練をする。
これが、正しい予備校の目的なのだから。
「優秀なパーティは一つでも多く欲しいからな。申請書は庶務の方に出しておく」
パーティー申請は呆気なく通ってしまったわね。
唯一の問題は、肝心のヴェンデリンたちはなにも知らないという事実よね。
それが一番の問題な気もするのだけど、もう申請書は出してしまったので、あとは結果を待つしかないわ。
「イーナちゃん、大丈夫だって」
一方ルイーゼは、まったく心配していなかった。
ある意味、この娘は大物だと思う。
そして肝心の、勝手にパーティーを組まれてしまったヴェンデリンたちだけど……。
「なあ、エル」
「思う所がないとは言わんが、他の成績下位者と組んでもな。こんなものだろう」
「そうなのか?」
「冒険者も他の仕事と同じさ。組んで駄目なら、解散して新たにパーティを編成する。なにも、一生同じパーティでなければ駄目なんて法もないんだからさ」
「そう言われるとそうだな。じゃあそれでいいよな」
「いいんじゃねえ」
ヴェンデリンはどこかよくわかっていないような部分がなくもないけど、呆気なく私たちとパーティを組むことを了承した。
エルヴィンは意外だったけど、その考え方は極めてドライなようね。
もう申請は通ってしまっているし、組んで駄目なら新たに考えればいい。
実際、有名な超一流の冒険者パーティでも、初期からまるで同じメンバーなんてことは100パーセントあり得ないそうだ。
みんなパーティの結成と解散を繰り返し、メンバーの入れ替え続けて今のベストメンバーになった。
友達作りじゃないんだから、当然とも言えるわね。
「まあいいか。それじゃあよろしく」
「よろしくね」
「よろしくな」
「……よろしく(優秀な魔法使いって、あまり細かいことを気にしないのかしら?)」
私は、自分の親友は今さらとして。
ヴェンデリンがもの凄い大物なのだと思うことにして、まずは足手纏いにならないよう、努力することを誓うのであった。
「ただいま、バンス」
「母さん、占い師のフリをして、道行く若者たちにいい加減なアドバイスをするのをやめてくれよ!」
「なにを言うか。私は、悩める若人に道を示しておるだけじゃ。なんも悪いことはしておらん。それに、あんなアドバイス。占いなどできいなくても言えるではないか」
「占い師の格好して言うのをやめてくれって言っているんだ! 父さんが亡くなって暇だからって……」
「どうせ来週には西部に引っ越しなのだから、これで引退にするわ」
「本当だからな! 引っ越し先でもやるなよ?」
「はいはい」
まったく、うちのお袋は……。
子供の頃、占い師になりたかったからと言って、街中で若者に無料で占うと声をかけ、適当な予言をしてしまうんだから。
……まさか、うちの母さんの占いを信じた人はいないよな?
うん、一人もいないことにしよう。
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