第37話 応援

闘祭は順調だった。

短期間とはいえ、鏡に指導して貰えたのが大きい。


実際、二回戦目の相手はかなりの強敵で、水のバリアーによって俺のビームは全て無効化されてしまっていた。

前大会までのビーム一本やりの戦闘方法だったなら、攻撃を防がれた時点で俺は降参していただろう。


力押しのスタイルは、パワーでまさる相手には極端に弱くなってしまうからだ。


だが今年は違う。

相手にビームを防がせ、その隙に接近して体術で攻め立てる。

これが上手く嵌り、明らかに格上の相手に俺は勝つ事が出来た。


正に鏡様様だ。

泰三だって、鏡に当たってさえいなければ案外いい線行っていたかもしれない。

まあ今回は運が悪すぎたな。


「岡部君。頑張ってね」


「お、おう」


宇佐田が声援を送ってくれた。

彼女の笑顔が眩しくて、顔が熱くなる。


彼女と初めて会った日の事を思い出す。

あの日の事は、今でも忘れない。

それは俺がこの学園に編入された日の事だった。


そこで俺は運命の天使と出会ったのだ。


そう……俺の大大大、大っっっっっ好きな!

ウサギマーケットのヒロインキャラ、パウダーちゃんにクリソツな宇佐田に!!


あれ以来ずっと俺は彼女の虜だ。

まあ最初こそ、好きなキャラにそっくりだったから夢中だった訳だが。

だけど今は違う。


彼女の恥ずかしがり屋なところ。

実は結構頑固なところ。

裁縫が得意で、よくかわいい人形を手作りしている女の子らしいところ。

そして極めつけは、走ると凶悪に揺れるところ(どこがとは言わない)


その全てが俺の心を掴んで離さない。

宇佐田美美子。

まさに彼女は俺の天使マイエンジェルだ。


「これに勝ったら本線出場だね。頑張れビンちゃん!」


「空条、その呼び方は止めろ」


「照れない照れない」


空条がバシバシと俺の背中を叩く。

相変わらず、お気楽脳天パーな女だ。

こいつは宇佐田の爪の垢でも飲んで、彼女の慎ましさを少しでも見習うべきである。


「ところで、なんで制服なんだ?岡部達といい、竜也といい」


皇が不思議そうに聞いて来た。

大会へは自由な服装で参加できる。

そのため、この日の為に態々衣装を用意している参加者も多かった。


だが俺達三人は制服で参加している。

別にこれは示し合わせてそうした訳ではない。


「鏡はどうか知らないが、俺はこの格好が一番気が引き締まるからさ」


以前、宇佐田がこう言ったのだ。


「岡部君には、制服が凄く似合ってるよ」と。


それ以来、俺は可能な限り制服を着て活動する事にしていた。

言ってみれば、これは宇佐田に対するラブコールと言っていいだろう。


まあ、全く届いてないけど。


因みに泰三が制服だったのは、鏡に瞬殺されるのが分かっていたからだ。

着替える時間が無駄だと思ったのだろう。


「ふーん。そうなんだ」


「ふふふ、そういう事にしておいてあげましょう」


俺の言葉に、委員長が口元を抑えながらにやにやと見て来る。

彼女には色々と相談に乗って貰っているので、俺が制服を着る理由を知っているからだ。


「そう言えば、鏡はどうしたんだ」


「ああ。竜也なら訓練したいからって、寮に帰っちまったぞ」


「……」


鏡は三回戦に勝ち、早々に本選出場を決めている。

とはいえ、普通友達の試合が残っていたら見ていくものだろうに……まったく薄情な奴だ。


「岡部なら見るまでもないって、言ってたぜ」


「……」


なんか、照れ臭いな。

そういう風に言われると……


「おおう!男の信頼!さっすが鏡っち!いい事いうじゃない!」


「拗ねて帰った泰三君とは、わけが違うわね」


まあ泰三は仕方がない。

初戦に鏡と当ってたら、きっと俺だって腐っていた筈。

誰にも奴を責める事は出来ないだろう。


「Fの6番とFの28番」


アナウンスで俺の番号が呼ばれる。

相手は新聞部の上田望うえだのぞみ

彼女は姿を消すギフトを持つ、強敵だ。

かなり苦しい戦いになるだろう。


だが――


「勝って来る」


「うん、応援してるよ」


宇佐田の応援。

彼女の笑顔が俺に勇気をくれる

今の俺なら、たとえ相手が鏡であったとしても負けはしない。


見ていてくれ宇佐田……いや、美美子。

俺はこの勝利を君に捧げる。

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