第3話

 ゾンビと遭遇してから何日か経った。


 ゾンビは生きていたようだ。

 度々廊下をゾンビウォークで歩いている。

 夜更けに音もなく、ドアが開く。

 けたたましい音をさせてドアを閉める。

 死んだようにゾンビは倒れる。

 そして、部屋を出ていく時には人間になっている。


 声はしない。

 たまに微かに物音がする。

 でも、ゾンビはとても静かだった。

 ゾンビは喋らないのかもしれない。

 あれが本当の隣の住人なのだろうか。


 今日も雨だ。きっとゾンビが来る。

 私は廊下側の窓を開け、部屋を暗くして身を潜めた。


 今日は満月。

 雨なのに電気をつけなくとも本が読めるくらい明るい。

 私は本を手に取り、ベッドに腰掛ける。

 ここからなら廊下が見える。

 今日はゾンビナイトだ。

 本棚からとりだした、この本だって推理小説ではなく、ゾンビの生態について書かれてある。

 ノンフィクション・・な訳がない。ゾンビなんて存在しないのだから。



 つまらない本だった

 夜更けになってもゾンビは来ない。

 もう深夜の1時過ぎ。

 いい加減寝ないと明日に響く。

 明日の授業は午前中からだった。

 私は渋々、ゾンビ本を本棚に戻す。

 一瞬、そのままゴミ箱行きでもいいかもしれないと思い、手を止めた。

 ゆらゆらと蠢く何かが見えた。

 どうやらゾンビが来たようだ。


 だけど、いつもと様子が違う。

 私は目を凝らして観察対象を追っていく。

 なんだろう。ゾンビは死体を担いでいるようだった。


 私は硬直し、身をかがめた。

 恐怖なのか興奮なのかは分からない。


 ゾンビの歩みはいつもより遅い。

 そのシルエットは、モンスターのようだった。


 血塗れのゾンビ。背中に担がれた死体。

 だらりと前に投げ出された死体の腕は、一歩ごとに揺れている。

 足も垂れ下がり揺れている。完全に意識はないだろう。

 どうやら、死体は痩せこけた男のようだった。


 ミイラとでも呼ぼうか。

 ミイラのような腕の細さだ。

 白髪? 銀髪?

 長さは肩にかかるくらいか。

 だけど、その長い前髪で顔が見えない。

 しかし前髪の隙間から、時々光るものが確認出来た。

 あれはピアスのようだ。きっと、多分。眉ピアス。


 ガリガリで黒一色の服。月の光を反射する明るい髪。

 脱色しきった髪なのか、それとも干からびた白髪頭のミイラなのか。

 肌はゾンビよりも青白い。死体だからかもしれない。


 服は泳いできたかのようにびしょ濡れで、体に貼り付き、骨の形が露骨に分かる。

 もう、ミイラなのか骸骨なのか怪しいくらいだ。


 私は隣のドアを見る。

 今日のゾンビは鍵を差すのも大変そうだ。

 いつものように拳は血塗れ。

 ミイラ男は、ゾンビがミイラにしたのだろうか。


 ドアが開く。

 ドアが閉まる。

 だけど、倒れる音はしない。

 私は忍び足でキッチンへ向かい、そして壁に耳をつけた。


 微かな物音。声はしない。

 足音が近付き、ドアを開く。そして閉まる。

 私は振り向き窓を見る。


 ゾンビはミイラ男を部屋に置き、再び何処かへ出かけたらしい。


 私は窓に駆け寄り、階段を見た。

 ゾンビが歩いていくのが見えた。


 あぁ、これが刺激というやつなのだろう。

 もう、この好奇心を抑える事は不可能だった。

 私は、傍観者であることを辞めた。


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