第12話 幽霊のお兄さん⑤

 通学路、振り返るとそこにいる。

 首に、たくさんの女の人の手のあとをつけたお兄さん。

 一週間と四日前、警察に捕まったあとに死んだ、悪い人。

 今日も黒い車に乗って、私をはねようとした。車はボロボロで、あちこちへこんでいた。


 私は、道の真ん中に立っていたウサギの着ぐるみに言った。

「あのお兄さんが風船が欲しいんだって」

「本当?」

 ウサギの着ぐるみはお兄さんに向かって走っていった。

「風船をどうぞ。他にもたくさんあるよ。お腹が空いているなら、お菓子もあげよう」

 でも、お兄さんはウサギの着ぐるみをはねてしまった。

 ウサギの着ぐるみは頭が外れたまま、お兄さんを追いかけた。

「風船をどうぞ。他にもたくさんあるよ。お腹が空いているなら、お菓子もあげよう」

 それでもお兄さんは風船を受け取ろうとしない。

 ウサギの着ぐるみは仕方なく、お兄さんの首に風船をくくりつけた。

 お兄さんは首についた風船によって体が浮いた。そのまま車の窓から外へ出て、空へとのぼっていった。


「風船をどうぞ。他にもたくさんあるよ。お腹が空いているなら、お菓子もあげよう」

 お兄さんを見送った後、私はウサギの着ぐるみから走って逃げた。

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