第16話 介入の開始
ギリメカラを目にして半狂乱状態へと陥り、遂に三人は普通の人の姿へと変わって気絶してしまった。そんな三人(?)を介抱して今事情を聴き終えたところだ。
「すると、お前たちはこの館の主人であるお嬢様とやらに私たちを追い払うように指示されたと?」
『はい。本当は全員、追い払う予定だったのですが、呪いの王の配下のカーネルにディンの双子の姉を人質に取られてやむを得ず、先行した侵入者数人を生贄として捧げるように脅迫されたのです』
床に正座をした全身鎧が大きく頷き私の問を肯定する。
事情は次の通りだ。
このものたちの主、ルチールは過去にこの館を初めて購入して住んだ女性。ただし、この館には恐ろしい存在が巣くっており、ルチールは呪い殺されてしまう。そしてそれからずっとこの屋敷に魂を繋がれてしまった。その後も幾人もの者がこの屋敷を購入しては呪い殺されてしまう。
「あのクソ役人め! 何が変死5件、重症例2件だ! 全然話と違うではないか!」
聞いたところでも数ダース単位で呪い殺されている。とてもじゃないが、変死が5件程度ではない。
「呪いの王ですか……すこぶる危険な匂いがしますね。カイ、私は一度戻ってこの件をハンターギルドに報告すべきだと思います」
「それも一つの手だが、おそらくハンターギルドはすぐには動けまいよ」
「なぜですっ⁉ こうして犠牲者が出ているのですよっ!」
「ここを紹介してきたのが、バベルの副学長派の勢力だからだ」
前副学院長のクラブ・アンシュタインはただの雑魚だったが、現副学院長、ラスプーチン・グラハートはバベル至上最高の魔導士とも称される男らしく、一筋縄にはいかない奴だ。この屋敷を私に子飼いの役人を使って紹介したのも、先輩であるクラブをこの世から永久に排除した私に対する嫌がらせだろう。
このバベルでのハンターの大規模な活動にはバベルの許可が必要だ。そもそも、奴らの目的が私への嫌がらせである以上、ハンターギルドの要請に妨害工作の一つくらいしてくることだろう。少なくとも素直に首を縦にふるとは思えない。
「それはそうですが、このまま人を呪いとして取り込み続けたらどうなるかなど明らかです! その危険性を説明すれば――」
「無駄だ。危険だからこそ、ラスプーチンはこの屋敷をこのままにしておくだろうさ」
もし、この屋敷の呪いとやらが暴走してこの都市の生徒に危害が及べば、それを理由に現学院長に不始末の責任を取らせる。そんな腹積もりで計画を進行させているはずだ。
「そんな……」
失望の声を上げるローゼから、床に座る三人の亡霊たちに視線を落とすと、
「敵はその呪いとやらの親玉と、数年前からこの屋敷に住み着くようになったカーネルとかいうやつだな」
端的に尋ねる。
「は、はい。その通りです」
頷くメイドを遮るかのように、
「ちょっと、カイ! まさか、呪いの王を私たちだけで対処するおつもりですかっ⁉」
血相を変えたローゼが言わずもがな事実を尋ねてくる。
「もちろんだとも」
相手は呪いの王とその配下だ。こんな面白いことをハンターギルドに譲ってなるものか。本当最近、悪だの善だのを自称する未熟者の相手ばかりで心底うんざりしていたのだ。
生と死のギリギリの駆け引きに、恐怖と絶望。全てが最近の私には無縁のものだ。もしかしたら、肌のひりつくような闘争が呪いの王とやらならできるかもしれない。
『カイ様! 今回の件、俺に任せてくれっ! もう二度と失望だけはさせねぇよ!』
突如現れた三面の鬼アスラが右拳を胸に叩きつけるとそんな進言をしてくる。
「ふむ、お前にか……」
アスラは稽古をつけて欲しいというのでずっと教練をしてやっている。さらに最近ではベルゼバブとも遊んでいるらしいし、ほんの少しだが確実に前より強くなっている。それでも、まだまだお話にならぬほど未熟。敵の強さは未知数。果たして任せて大丈夫なものか?
「ベルゼ、いるか?」
『御身の傍に』
私の影から湧き出てくる王冠を被った二足歩行の蠅ベルゼバブ。
「この進言、お前はどう思う?」
『問題ないでちゅ』
最近遊んでいるベルゼが言うんだ。間違いあるまい。
「わかった。お前に任せよう。今から私はこの館に住まう呪いの王やらを駆除しに動く。アスラ、お前と前鬼、後鬼のチームはこの館の者どもを守ると同時に虫一匹この館から出すなッ!」
私の予想が正しければ敵はカーネルとかいうやつだけではあるまい。呪いの王とやらの配下の動向を一々気にするのも鬱陶しいしな。
「おうよ!」
『御意』
『わかりましたぜぇ』
前鬼と後鬼も出現して私に跪き、了承の台詞を吐く。
「ギリメカラ、お前もそれでいいな?」
『我らが偉大なる父よ! もちろんでございます!』
ギリメカラが跪いて首を深く垂れる。
「さっそく始めるとしよう」
「あ、あの……」
ディンが不安そうな表情で私を見上げながら、躊躇いがちに声を掛けてくる。
「心配するな。お前の双子の姉とやらは必ず無事に助け出す。お前の姉を攫った呪いの王とやらもきっちり滅ぼしてやる。そう。跡形もないくらい徹底的にな」
再度笑みを浮かべて力強くそう宣言する。
どこのだれだろうと幼子さえも殺す屑に存在している価値はない。しかも死んでもしばりつけて、その上幼子を人質にとるか。奴らは既に私のいくつもの禁忌にふれている。もはや泣いても喚いても私が奴らを許すことは万が一にもない。私の信念にかけて、考えられる上での最恐の絶望を与えてから滅ぼしてやる。そんな決意を胸に私は背中から村雨を抜き放つと肩に担いで歩き出したのだった。
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