第127話 姑息な不死の神鳥 (悪軍航空兵師団壊滅)

 空中に佇立するタトゥーの男、オボロをフェニックスは不満げに見下ろしながら、


『オボロ、それは私の獲物だったのだぞ?』


 強い非難の言葉を口にする。


「会長、今回は我らが信じる王が主催する戦。王への己の武功報告は臣下の誉。早い者勝ちが全派閥共通のルールのはずやで」


 悪びれもせずそう宣うオボロにフェニックスが何かを言いかけるが、


『フェニックス様、一本取られましたな』


 梟の頭部を持った巨躯の怪物が両腕を組みながら上空から姿を現すと、次々に翼や羽を生やした異形たちがフェニックスの周囲に出現する。

 彼らは討伐図鑑中、空戦最強の派閥――『空を愛する会』の最高幹部の歴々。一体一体が空戦の真のスペシャリスト。こと空戦では対抗できるのは、討伐図鑑でも最強悪魔ベルゼバブのみとされている。


「確かに最初に抜け駆けしたのは会長ですものねぇ」

 

 長い黒髪を鬱陶しそうに掻きあげながら、黒色の翼の美女が相槌を打つ。


『まったくだ。会長は相変わらず、やり方が姑息でいらっしゃる』


 呆れたような声色で鼻の長い怪物が皮肉を口にすると、他の幹部たちも口を尖らせてフェニックスに対して不平不満を述べる。


『ぐぬ、貴様らぁ……』


 憮然とした表情で奥歯を噛みしめるフェニックスに、梟の頭部の最高幹部が空中で一歩前に進みでると、


『フェニックス様、あの空に残る残党は我ら全員の獲物。武将級の首級を挙げたもの優先。それでよろしいですな?』


 そんな提案をしてくる。

 周囲の有無を言わさぬ圧力に、フェニックスは暫し憎々し気に眺めていたが、大きく息を吐き出すと、


『よかろう。確かに此度の戦において我が派閥のルールを決めていなかったのは私の落ち度だ』


己の誤りを認める。


『嘘だろ……会長が自らを省みた? そんなの初めてみたぜ?』

『ああ、御方様への敗北以外、決して己の過ちを認めようとしない、神としての器がミジンコの並みにちっちぇ~会長がだ! きっと、これは空が荒れるぞっ!』


好き勝手話始める幹部たちに、フェニックスは肩眉をピクリと上げつつも、


『『空を愛する会』会長フェニックスの名によってここに宣言しよう。ここから、全ての武功は討った者のものとする!』


 右腕を掲げてそう宣言した。その口端を吊り上げた勝ち誇った表情を目にして、


『まさか、フェニックス様っ――!』


 『空を愛する会』のNO2である梟の頭部の幹部が血相を変えて制止の声を張り上げるのと、フェニックスの右手が振り下ろされるのは同時だった。

 突如、いくつもの炎を纏った槍が出現し、遥か下で軍団長であるスカリーズ少将の突然の離脱に混乱中であった航空兵師団へ向けて落下していく。


『あー、もうっ! やっぱりこうなったわっ!』


 黒色の翼の美女が悪態をつき、


『くそがっ! マジで今ので全部やられちまう!』


 鼻の長い怪物が頭を掻きむしって怒声を上げる。


『クハハハハハッ! 見ろぉ! 奴ら、羽蟻のようだぁ! ブンブン飛び回る、羽蟻どもめぇ!』


 炎の槍に穿たれて燃え尽きる航空兵師団を眺めながら、両腕を上げて高笑いをするフェニックス。


『許さぬ……』


 俯き気味に呟く梟の怪物に気づきもせず、


『この私、不死の神鳥フェニックスが奴ら航空兵師団を壊滅させたのだぁ! これで御方様にお褒めいただくのはこのフェニックス一人――ぶへぇ⁉』


 高らかと勝利の宣言をするが、その横っ面を殴られる。


『何をする――!?』


 額に青筋を張り付けせて怒号を挙げようとするが、赤の闘気を纏ってフェニックスを睥睨している梟の怪物を目にして息を飲み、


『カ、カムイ?』


 恐る恐るその意を尋ねるフェニックスに、


『御方様の御期待に応えようと、この戦、この儂はずっと気合を入れていたのだっ! それをあっさり、殺しちまいやがってぇッ‼ このぉーー、クサレ下種野郎がぁぁぁっ!』


 全身が数倍に膨れ上がった梟の怪物カムイにより、地面に向けて殴りつけられる。

 一直線で地面に直進して衝突し、大爆発を上げるフェニックス。


『あーあ、カムイの爺様じっさま、怒りで理性吹っ飛んじまったよ。一応、陸にいる女神連合と武心の連中には知らせておいた方がよくね?』

『いや、きっと手遅れよ。今ので二派閥とも激怒して収集が付かなくなってるわよ』


 肩を竦めて首を左右に振る黒色の翼の美女。


「あれにはまだ及ばへんな……一瞬で挽肉や」


 今も大地で破壊の限りを繰り広げている二者に玉のような汗を拭うとオボロはそう独り言ちる。


『そりゃあ、そうだろうよ。あれでも俺らの派閥のツートップだしな』


 鼻の長い怪物が棒をクルクルと右手で回しながら、オボロの感想にツッコミを入れる。


『仕方ない。あたいらはあれの巻き添えを食った連中に頭でも下げるとしますか』


 うんざり顔で急下降する黒色の翼の美女と、


『なーんか、マジで俺たちってしょうもねぇよな』

 

 うんざり顔で大きな溜息を吐くと鼻の長い怪物も大地へと降りていく。

 同じくそれぞれ悪態をつきながら、『空を愛する会』の幹部たちも地上へと降りていく。

 一人残されたオボロは、


『王よ! 我が偉大なる王よ! 必ずやあれら全てを超えて見せますッ!』


 噛みしめるような決意の言葉を述べた。


――悪軍航空兵師団壊滅



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