超難関ダンジョンで10万年修行した結果、世界最強に~最弱無能の下剋上~(最弱で迫害までされていたけど、超難関迷宮で10万年修行した結果、強くなりすぎて敵がいなくなった)
第109話 いかなる強者にも砕くことができぬもの
第109話 いかなる強者にも砕くことができぬもの
幾度アルデバランを切断しただろう。その度に、奴の全身は燃え上がり、絶叫を上げる。
当初は鬼気とした様相で僕に罵声を浴びせていた奴も今や騒々しく叫ぶことはなくなった。そして、ウロコーヌとフグオがソムニとテトルに敗北したのを目にしたのを契機に、遂に鰐顔から変身前の人型へと戻り、両膝を地面について茫然自失の表情で呟くのみ。
僕も奴のこの戦意すら消失した弱々しい姿を目にして先ほどまでの激しい怒りは沈静化してしまっていた。
同じく、さっきまで五月蠅く不快な歌を口遊んでいたアルデバランの配下の魔族たちも一切の表情を消して僕らをただ黙って見守るのみ。
「なぜ……だねぇ……?」
アルデバランのもう何度目かになる疑問に対して、
「さあ、でも、きっとお前は僕なんだと思う」
そう返答していた。
「どういう……意味だねぇ?」
僕を見上げながら問いかけてくるアルデバランに、
「お前はあの御方と会わなかった僕が辿る末路さ。大きな濁流に飲まれるだけの惨めで弱いちっぽけな凡人だ」
そうだ。きっと、アルデバランは過去の僕。あの御方と会わなかったら、きっと今こうして膝をついているのは僕だったのだろう。
己を神に祝福された才能溢れる存在だと信じて疑わない滑稽な道化。それが過去の僕であり、目の前のアルデバランだ。
「ぼ、僕は真の魔王――」
僕を見上げて必死の形相で叫ぼうとするアルデバランを右手で遮り、
「違う。この世には上には上がいるのさ。そんな形ばかりの要素など強さの証明にはなりはしないよ」
大きく首を左右に振りつつ否定する。
この僕の長い旅を経てはっきりと理解した。僕が過去に強さの象徴だと信じていた権力、血統、財力、武力さえも、真の強者にとってみれば大した価値もないガラクタに過ぎない。
そしてそれは、アルデバランだけじゃない。奴が呼び出したフォルネウスのような超常の存在も同じ。
カイ様のような絶対的強者からすれば、奴らが信じるそんな見せかけの強さなどおそらく、これっぽちの価値もあるまい。
強さはより、大いなる強さにより、砕かれる。もしかしたら、それはカイ様自身が信じている真理のようなものなのかもしれない。
「ならば、何が強さだというんだね?」
「きっとそれは信念」
「信念?」
僕の言葉に眉を顰めて尋ねて返してくるアルデバランに大きく頷き、
「ああ、それだけはこの世の誰だろうと砕くことはできないと思うから」
強さであっても砕けぬものがある。それを僕はこの旅の中で沢山見てきた。
キージのキャット・ニャーを守ろうとする気持ち。
ターマの優しさ。
チャトとの種族を超えた友情。
ブーの仲間を思う気持ち。
そして、シャルを思う僕の気持ち。それだけはいくら敗北を経ても結局、奴らが僕らから奪えなかったもの。
いくつかの幸運とイレギュラーはもちろんあったけど、僕はその想い故にカイ様までたどりつき、アルデバランをこうして追いつめている。
いかなる強者であっても奪えないもの。それが信念だ。きっとカイ様はそれに僕に気づいて欲しくてこの一連のゲームを主催成されたんだと思う。
「……」
アルデバランは暫し、目を見開いていたが、堰を切ったように笑い出す。そして――。
「信念……それは確かに
寂しそうに呟き、顔をギラギラとした獣のようなものへと変えると、
「僕は四大魔王の一人、アルデバラン! 改めて君の名を聞こうッ!」
声を張り上げる。
「僕は――ギルバート・ロト・アメリア、人間だ!」
「ギルバート・ロト・アメリア……噂で聞いたことがある。君があの噂のアメリア王国の馬鹿王子ってわけだねぇ。まったく、運命とはままならないものだねぇ。まさか、伝説の勇者でもない、そんな人の中でも愚者の代名詞のような奴に魔王たるこの僕がここまで追いつめられるとはねぇ……」
苦笑しながら、アルデバランは身を屈める。
「それには同意するよ」
僕もフレイムを上段に構えて重心を低くする。
刹那、僕らは激突した。
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