超難関ダンジョンで10万年修行した結果、世界最強に~最弱無能の下剋上~(最弱で迫害までされていたけど、超難関迷宮で10万年修行した結果、強くなりすぎて敵がいなくなった)
第108話 悪軍中将の後悔 フォルネウス
第108話 悪軍中将の後悔 フォルネウス
周囲は濃い黒霧に包まれ、視界は著しく遮られている。
こんな黒色の霧は自然発生ではまずありえない。何より、悪軍本部との唯一の連絡手段である念話も使用不能となっている。まず、相手の結界内に取り込まれた。そう考えるのが妥当だ。
だとすると、下界の者だろうか? 並みの結界ならばフォルネウスには効果はないし、触れただけで吹き飛んでしまうのが関の山。
『結局天軍でありますーか』
そう考えなければ辻褄が合わない。そもそも一定の強さを有するものでなければフォルネウスを結界に引きずり込むことなどできない。この現状に陥っていること自体、結界を張ったものがこの世でも有数の強者であることの証。だとすると、もはやそんな集団は悪軍以外では天軍しかありえない。
『それも一興かもしれまーせんねぇ』
フォルネウスは魚の顔を醜悪に歪める。
どのみち、天軍とてフォルネウスが後れを取るものは限られている。
大きくはトール、インドラなど天軍の中でも最上位とされる大神で構成される六天神のみ。
その他の天軍は多少厄介な幹部でも互角以上の戦いはできる自信はある。特に最近、歯ごたえのない雑魚の処理ばかりで、退屈していたのだ。やはり、獲物は強者がいい。その強者が成すすべもなく惨めに朽ち果てていくのを観察するのがこの上なく気持ちがいいのだ。
『さーて、どんな愚かものがこの結界を張ったのでありますーか?』
上半身をのけ反らせて気配のする方へ右手のステッキの先を向ける。その先からは水しぶきと地響きを上げながら、湿地をゆっくりと歩いてくる三つ目の象の怪物。
『ん? チミはギリメカラ、ではあーりませんですかー?』
この神はよく知っている。六大将マーラ様の配下の一柱、ギリメカラ。大神への登竜門であり、クリアは不可能とまで言わしめたあの悪質なダンジョン、【
【
その理由の一つがそこに守っている存在たちにある。
あのダンジョンは過去に天軍と悪軍の総大将の二者が【
ギリメカラがこの場にいるということは、あのダンジョンから解放でもされたということだろうか?
いや、あのダンジョンは建前上、大神を作り出すことを目的とはしているが、実際は天軍と悪軍のバランスを崩す恐れのあるイレギュラー的存在を封印することにより、両者の力の拮抗を図ることを目的としたもの。解放されたのではそもそも意味がない。だとするとこれはどういうことだ?
『フォルネウスか、久しいな』
疑問の答えが見つからぬ中、ギリメカラはフォルネウスの目と鼻の先まで到達する。
(こ、この圧はどういうことでありまーすか!?)
ギリメカラの全身から噴き出した濃厚な闇色の闘気はその頭上で渦を成し、大気をミシリときしませている。
確かにギリメカラは天軍があのダンジョンに封印指定するほどの存在だ。強かったのは確かだが、それはあくまで伸びしろがあったというだけに過ぎない。以前の奴はあくまで少将クラス。中将のフォルネウスとは隔絶たる差があったはずなのだ。
それが、今のギリメカラを目の前にしているだけで、肌が沸々と泡立つような感覚に襲われる。この独特な感覚には覚えがある。あの六大将や六天神を前にしたとき、いつも覚える感覚。すなわち――恐怖。
格下に恐怖するという不愉快極まりない現実に直面して、
『ふざけるでないでありまーーーすッ!』
目がくらむような怒りにより、雄叫びを上げていた。
『貴様の内情は痛いほどわかる。我も過去の同胞を踏みつぶすのは、若干、気が引ける。しかしぃ――!!』
ギリメカラは突如、両腕を大きく広げて三つの目を真っ赤に血走らせて、
『残念だ! 実に残念だが、貴様らは我らが至高の御方の怒りに触れたぁ! 我らが御方は貴様らが無様に残酷に滅びることを望んでおられる! ここで、この我らの信仰の糧となれぃっーーー‼』
大気をビリビリと震わせる蛮声を張り上げる。
異常だ。今のギリメカラは全てが異常だ。それに至高の御方? それはマーラ様のことか? だったら、なぜフォルネウスを襲う? いや、そもそも、マーラ様へは忠誠を誓っていたわけで、信仰などしていない。第一、神が神を崇拝するなど笑い話にもなりゃあしない。
混乱状態にあるフォルネウスを尻目に、
『踏みつぶすのに気が引けるとは、ギリメカラ、相変わらず嘘が下手ですねぇ?』
空中に漂う真っ白の人型の存在がフォルネウスの左脇に忽然と姿を現す。
『バ、バカなぁッ! ドレカヴァク中将ッ!』
悪軍の中でも最恐とも恐れられたかつての同胞の名を叫んでいた。
『ドレカヴァク、そういや、お前も元悪軍だったな?』
背後に紅の円形の武器を背負う全身黒色ののっぺらぼうの存在が、フォルネウスの右脇へと出現し、ドレカヴァクへと問いかける。
『ッ⁉』
こいつも、知っている。というか、悪軍なら一兵卒でも知っている。堕天使アザゼル。天の使いが神格を得た突然変異体。天軍、悪軍の双方と対立し、双方に多大な損害を与えるも捕縛されて処分されたと聞いていた。
『ええ、でもそれはロノウェ、貴方も同じでしょう?』
ドレカヴァクが背後に現れた八つの目を持つ上半身が素っ裸の男に尋ねかける。
『聞くな。黒歴史だ』
ロノウェは元悪軍の特殊殲滅部隊――【ルーイン】の隊長。姿はもちろん、能力すらも謎に包まれた悪神。ただ一つわかっていることがあるのは、六大将の指示で命を狙われれば、いかなる存在もこの世から消滅していたということ。もっとも、一時期を境にこの世界からその名を聞くことはなくなった。そんな最悪ともいえる悪神だ。
『黒歴史というなら我も同じ。たかが、あんな低俗な
ギリメカラはそう吐き捨てると、
『ほら、八つ当たりする気まんまんじゃありませんか』
うんざりしたような声色でドレカヴァクが肩を竦める。
ギリメカラは真っ赤に血走った三っつの目でグルリと周囲を見渡して、
『貴様らもそうは思わぬかっ⁉』
大声で問いかける。
『『『『是非もなしっ!』』』』
その言葉とともに、周囲から次々に姿を現す神々たち。
『バ、バカな……』
それは全て例外なくフォルネウスが一度目にしたことがある名の通った武闘派の邪神や悪神たち。
たった
『こんな出鱈目なぁッ!』
フォルネウスが生まれて出でて初めてともいえるみっともない奇声を張り上げていた。
当たり前だ。どれもこれも、容易に他者に従うことをよしとしない一騎当千の猛者ばかり。それが徒党を組んでフォルネウスを襲おうとしている。そのあまりに理不尽な事実がひたすら信じることができない。
『貴様らぁ、こ奴らは我らが至上の御方を不快にさせたぁ! 我らゴミムシはこの愚者をどう処理すべきなのだっ⁉』
ギリメカラが声を張り上げると、
『無論、一切の慈悲もない苦痛だっ!』
ロノウェが叫ぶと、
『壊せ! 壊せ! 壊せ! ぶっ壊せぇぇぇ!』
周囲を取り囲む邪神と悪神たちは足を踏み鳴らして声を張り上げる。
『こ奴らは我らが崇敬の父に唾を吐いた! 我らゴミムシはこの下種にどんな罰を与えるべきなのだっ!?』
再度ギリメカラが問いかける。
『我らの信仰を愚弄したクズには、死さえ生ぬるい絶望と恐怖を与えましょうッ!』
ドレカヴァクが真っ赤に両眼を染めて声高に宣言する。
『潰せ! 潰せ! 潰せ! ぶっ潰せぇぇぇ!』
邪神と悪神のどもが怒声とともに踏み鳴らす振動は同心円状に広がっていき、大地を抉り、上空に竜巻を巻きあがらせる。
『何よりこ奴らは我らの信仰を愚弄した! 我らゴミムシはこのチンカスをどうしたいッ⁉』
ギリメカラの声が最高潮に達し、奴の全身から黒色の霧が漏れ出して周囲を塵と変えていく。
『ぐひっ!?』
その霧に触れただけで、フォルネウスの左腕はあっさり塵と化す。
『ただ、ぶっ殺せぇぇッ!』
堕天使アザゼルの声に呼応するかのように、
『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! ぶっ殺せぇぇぇぇ!!』
周囲の神々から割れんばかりの獣のような咆哮が上がる。
『ああ……』
わかる。もうフォルネウスにも自分が何の尾を踏みつけたのかをはっきりと理解できる。
『あああぁ……』
口から洩れる絶望の声とともに、周囲を取り囲む邪神と悪神はフォルネウスにゆっくりと迫ってくる。そして、絡みつく闇色の霧はフォルネウスの全身を少しずつ蝕んでいく。
『あああああぁぁぁぁぁぁーーーーー!』
一切の抵抗すらも許されず、フォルネウスは絶叫を上げた。
(こんな
その思考を最後にフォルネウスの意識は闇色に塗りつぶされていく。
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