第55話 完全勝利
『グオオオオオォォォッ!』
数十メルもある巨大な青の大竜が勇ましい咆哮を上げて、ブラフの拘束型の術式を次々に破壊しながら僕らに迫る。
青の大竜が僕らの目と鼻の先まで到達したとき、僕らの奥の手の魔道具の効果範囲に入る。
「かかったっ!」
もともと、ブラフの拘束型の術式は奥の手の魔道具の展開を隠蔽するための隠れ蓑。ここまでくれば、もう奴は逃れられない。
周囲に設置しておいた拘束型の魔道具から幾多もの紅の蛇が伸長し、青の大竜と、その背に乗る目つきの悪い青髪の青年へと纏わりつく。
「鎖? くだらん!」
青髪の青年は紅の蛇を引き千切る。しかし、蛇はさらに無数の蛇に分裂し、その全身を拘束してしまう。
「ぬぅ?」
初めて青髪の青年の顔から余裕が消えて、両手で引き千切るがさらに蛇は分裂増幅して覆い尽くそうとする。
これこそが、この魔道具――【大食の炎蛇】の真骨頂。被拘束者の魔力を食らって際限なく増殖し対象者を雁字搦めに拘束する。そして――。
「地を這う蛆虫どもが、舐めるでないわっ! 我は伝説の竜の王、
下等生物ごときの術でこのケトゥスを傷つけられるわけがあるまいっ!」
ケトゥスがそう叫んだ直後、紅の蛇たちが急速に膨張し、世界は真っ白に染め上げられる。一呼吸遅れて耳が弄するがごとき爆音と全てを吹き飛ばす爆風が吹き荒れる。
荒れ狂う暴風が収まり、ようやく土煙が収まる。僕らの眼前には底なし沼をすっぽり覆うような形の半球状のクレーターが出来上がっていた。
「す、すげぇ……」
チャトの声を震わせる呟きに、
『あの巨体を全部吹き飛ばしやがった』
ブーも大きく頷き感想を述べる。
「でも消し飛ばしたのはあくまであの木偶だけ。本体はまだ健在だよ」
「俺には既に虫の息のように見えるが……」
目つきの悪い青髪の青年の四肢は根元から千切れ、内臓が見え隠れしており、顔面は半分以上がドロドロに熱で溶解している。確かに、かなりのダメージを負っているようには見える。
もっとも――。
「いや、そうでもないようだよ」
千切れた四肢の断端、溶解している腹部や頭部からは青色の細かな糸状のものが多数生み出され欠損した部分を急速に修復していた。
仮にも竜の王を名乗るのだ。この程度で終わらないことくらい端から想定済み。これからが本番というやつだろう。
「蛆虫ごときがぁっ! この我に対する不敬、ただでは済まさぬっ! 許さぬ! 生きたまま――」
血走った両眼で僕を睥睨しながら、御託を宣っている奴から意識を外し、『模倣』により僕にとっての最強であるあの平凡な容姿の黒髪の少年をイメージする。以前同様、胸の中心に熱い塊が生じグツグツと煮えたぎる。同時に内臓が、骨格が、血肉が軋み音を上げてこの世で最強の生物へと変質していく。
「――――」
怨嗟の声を上げる奴に向けて大地を蹴り上げる。あっという間に、僕は宙に浮遊する奴との距離を食らい尽くして奴の眼前で右肘を大きく引き絞っていた。
「は?」
どこか間の抜けた声を上げる奴の右頬に混信の右拳を振り下ろす。
パシュンッと何かが弾ける音とともに、ケトゥスの身体は超高速で回転していき、クレーターと化した赤茶けた地面に突き刺さる。爆発で同心円状に砂嵐が吹き荒れる中、僕は奴の傍まで落下する。
「ば、ばで――」
何か喚いていた奴の頭部を鷲掴みにすると、上空に蹴り上げて、すぐに跳躍する。
一直線に雲を突き破り、上空へ舞い上がった奴の背後の位置までいくと、右回し蹴りをブチかます。
「がばぁっ!」
再度落下し、地面に頭から衝突する。深く抉れた地面の中心でピクピクと痙攣しているケトゥスに、以前ルーさんのお墨付きをもらった魔法の剣を腰から抜き放ち魔力を込める。刀身から尋常ではない量の炎が発生し、それらは鳥の形を形作る。それを全力でケトゥスめがけて放った。
『びばぁぁぁぁっーーーー‼』
断末魔の声を上げてケトゥスの全身が蒸発したのを確認し、強い安堵感の中、僕の意識はゆっくりと白色に染め上げられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます