第37話 悪夢
――ノースグランド中央部アルデバラン軍収容所 小鬼実験所
ホブゴブリン村の族長の息子――ゴブーザは他の村の同胞たちとともに部屋に連行された。そこは木製の建物の中の一際大きな部屋。その中心には辛うじて人の形を保っている肉の塊が置いてあった。
その前には真っ赤な肌に紺色の衣服を着て、赤髪をオールバックにした妙に目がギョロッとした男が椅子に座っている。
「い、いやだぁぁっ!」
そしてその肉片の前に同じ村の二歳年上のホブゴブリンの兄ちゃんが屈強な魔族の兵士に引きずられていく。魔族の兵士たちが肉片に向けて突き飛ばすとその肉片にいくつもの目と口のようなものが開き、かぶりつく。
『ぎゃあぁぁぁぁっーーー!』
絶叫と生理的嫌悪のする咀嚼音の中、家族同然に育った兄ちゃんはあっさり肉の塊の腹の中に納まってしまう。
『ゲフッ!』
肉の塊は大きなゲップをすると、顔のようなものをぐるぐると回転させ始めた。
「さーて、お前らは俺が
赤髪をオールバックにした男が目で合図すると、次々に同胞たちは肉塊に放り投げられ、食われていった。
……
…………
………………
「おい、次!」
遂にゴブーザの番となり、オールバックの男の死刑執行の指示が飛ぶが、
「レラド様、どうやら実験体は今日、これで打ち止めのようです」
オールバックの男レラドは舌打ちをすると、
「戻しておけ」
そう言い放つとレラドは不機嫌そうな顔を隠しもせず部屋を出て行く。
九死に一生を得て腰が抜けて歩けなくなり、兵士たちに引きずられて牢へ放り込まれた。
このときゴブーザにあったのは、同胞を殺されたことに対する怒りでもなければ、家族同然の仲間を失ったことに対する悲しみでもない。己の命が助かったことに対する安堵感だった。それが、ひたすら悔しく、情けなくてゴブーザは声を殺して泣き続けた。
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