第25話 わかってしまったこと
先ほどの戦闘で盗賊の戦力の大部分は削いだ。数は力。それは間違いない事実。本来ならこれでゲームは終了のはず。だが、シャルが戻らない。ならば、まだ敵の主力が残っていることが強く示唆される。すなわち、少数精鋭。最後に僕が殺したあのトレジャー系の盗賊の動きは遠目でも中々精錬されていた。正面から戦えばきっとシープキャットも相当の損害が出ていたのは間違いない。あれ以上の精鋭となるとそれだけで十分すぎるほど脅威だ。
だからこそ、罠をはる。もちろん、罠にかかるとは思っちゃいない。そこに隙が生まれればそれでいい。そこで無防備となった賊に全ての力を注ぐ。もちろん、これは相手がどんなに多くても3人が限界。それ以上いれば破綻する策。だが、どのみちあのトレジャー系の賊以上の存在が4人以上いればもう手に負えない。これは一種の賭けだが、一介の盗賊ごときにそんな戦力を保有している可能性はそうは高くない。分の悪い賭けではないはずだ。
「本当に君も参加するつもり?」
今も隣で僕に武器を向けて睨みつけてくる赤髪ショートカットの猫顔の女、ターマにもう何度目かになる疑問を繰り返す。
「ええ、あんたは野放しにしておけない! 少しでも変な真似をしたら殺す!」
「だから、今はそんなこと言っている余裕などないんだけど?」
背後で腰を下ろしているチャトにその翻意について助けを求めるが、
「無駄だぜ。ターマは一度言い出したら聞かねぇからな」
チャトはそうぼやきつつも立ち上がる。
「チャト、なんであんた、そんなに慣れあってんのよ⁉ こいつは人間よっ!」
「あーそうだ。だが、こいつはシャルを本気で助けようとしている。それだけは信じられる」
「はあ? 人がシャルを? マジであんた、どうかしちゃったんじゃん!?」
すごい剣幕で捲し立てるターマにチャトは顔を顰めて、
「あのなお前こそ、今どんなときか――」
口を開きかけるが、ガサッと密林の草むらが動く。
咄嗟に全員で構えをとるが、一匹の兎が飛び出してくると、足元を疾駆し草むらの中に消えていく。
「な、なんだ、兎かよぉ……驚かせやがって」
額を拭うとチャトは槍を握って、
「じゃあ、俺はキージさんに様子を聞いてくるぜ」
キージが待機している方向へ向かおうとする。その刹那――チャトの首に線が入る。その線は次第に全身に波及していきバラバラの肉片となって地面へボトボトと落ちていく。
「え?」
瞬きをする間に粉々の肉片となったチャトを視界に入れて頓狂な声を上げるターマ。
「に、逃げろぉぉっ!」
振り返りもせずに声の限りでそう指示を送っていた。
「だーめ。許さない♡」
――ぞわっ!
凄まじい悪寒が全身を駆け巡る。それは背後から巨大な肉食獣に抑えつけられているのを僕にイメージさせた。まさに怖いもの見たさ。恐る恐る首を背後に向けると首があらぬ方向へ曲がって絶命しているターマと、
「あーら、殺しちゃった。メスは生きてとらえるんだったよねぇ。もろいから、ついさぁ」
そのターマの頭部を鷲掴みにしている青色の髪を左が長く右が短いアシンメトリーにした優男が視界に入る。
優男のその顔は口端は吊り上がり、狂喜にも似た表情を形作っている。
「あぁ……」
僕の口から洩れたのは絶望の声。わかってしまったから。人が策を弄して何とかなるのは人と同じ摂理に生きるもののみ。摂理の埒外の存在のこの怪物には絶対に勝てない。
「ああぁあぁぁぁあぁーーーーーッ!」
僕の悲鳴は――。
「はーい、悲鳴ゲットォ!」
青髪の優男の歓喜に塗れた声により、遮られる。同時に意識もぷっつりと切断された。
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