第14話 想定外な事実 サド
「で? 捕まえたのはこの餓鬼のオス一匹ってわけ?」
カタカタ震える猫顔の少年を見下ろしながら、サドテーラの女首領サドはしかめっ面で盗賊の部下に問いかける。
「へい、どういうわけか、既に奴らかなり警戒している状態でして。この餓鬼はたまたまはぐれていたのを攫ったので……」
困惑気味に間の抜けた言い訳を口にする部下に言いようのない憤りが沸き上がるが、
「要するに、間抜けなあんたらのミスで、アタイたちのことがばれてしまったと?」
それを全力で抑えて肝心要の事実を確認する。
「い、いえ、あっしたちは、気づかれるようなヘマは――」
「だったらなんで、奴らが警戒してるのさっ!」
部下の髪を鷲掴みすると、怒号を浴びせる。攫う前に察知、警戒されるなど、ヘマ以外の何ものでもない。言い訳ならもっと納得のいくものをすればいいものを。
「それは全く見当もつかず……」
口籠る部下に沸々と怒りが沸き上がり、右拳を握って肘を引くがシュガーによりその手首を掴まれる。
「まあまあ、どうせ見つかったら力づく。そのつもりで私を雇ったんでしょう? ならば、成り行きに任せてみない?」
成り行きと入っているが、こいつは殺しを楽しみたい。それだけだ。こいつがでばれば、女子供でも容赦なく殺すだろう。そうなれば、莫大な利益がサドたちの手から逃げ出していくのは必至。
「ダメダメ! まだあんたの出番はないわっ!」
「ならどうする? 仮にも魔物相手にこの子一匹の盾だけで、貴方たちだけでこの集落数百匹を相手に全て捕縛するつもりぃ? それは聊か傲慢というものじゃなーい?」
「……」
悔しいがシュガーの言うことの方が的を得ている。当初の計画では奴らが無警戒なうちに、女子供を攫ってそいつらを盾にして占領する予定だった。シープキャットのような知性が人間種と変わらない群れる魔物には最も有効な手段なのだ。
「で、どうするのぉ?」
「でも、まずはアタイ達だけでやるわ。もし、手に負えないようならあんたがやって」
部下などたとえ死んでも補充が効く。それよりも、シュガーが商品に傷をつけて値が下がる方が遥かに問題だ。それにシュガーの働きが大してなければ、報酬のときに交渉を有利に運べる。サドたちだけでクリアできるなら、それが最良。
「あんたって、本当に欲望に忠実ねぇ」
呆れたようにシュガーは肩を竦めると、
「じゃあ、私はあんた達の手際を精々、見学させてもらうとしましょうか」
そう口にして森の中へその姿を溶け込ませる。
「あんたら、行くよ! 相手は
「へい、女子供は抵抗したらどうしやす?」
「腱でも切って案山子にしときな。生きがよすぎるとどのみち売り物にはならないからねぇ」
「その餓鬼は?」
「こいつは万が一のための奥の手さ」
もし、失敗して逃げる羽目になってもこの餓鬼を確保しておけば、逃亡の際に奴らも無茶をできなくなる。
(まあ、そんな必要もないだろうがねぇ)
所詮、たかが人語を解する魔物。特にシープキャット族はオーガ族のような危険な魔物の種族ではない。こちらにはハンター崩れの魔導士もいる以上、占領は容易だろう。
頷く部下たちに舌なめずりをして、長剣の剣先を集落へと向けると、
「行け!」
欲望の狼煙を上げる。
掛け声とともに、盗賊集団――サドテーラは集落に突入していく。
破滅と絶望たっぷりな怪物の悪質極まりないシナリオはここに始動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます