閑話1-1 絶望と――ラムネラ
(くそっ! くそぉっ! 踏み込みすぎた!)
帝国六騎将の一人、ラムネラは自身の迂闊さに内心、罵倒しながらも、同じく六騎将だったキルキとともに懸命に疾駆する。
裏社会の者と思しき蜂使いとのイカレ切った戦闘のあと、カイ・ハイネマンは二人の少年少女を抱えると広場へ向けてかけていく。たちまち見失ってしまい、慌てて追いかけたのが運の尽きだった。
途中よくわからない黒色の霧が立ち込めている空間に迷い込み、ようやく抜けだせたと思ったら、今度はあのアンデッドどもに遭遇したのだ。
今、ラムネラたちを追ってきているのは、ゾンビのような格好をした怪物数体の魔物。
「ねぇ、ラムネラ、絶対これ遊ばれているわよ!」
「わかってる!」
キルキの言通り、今追ってきているアンデッドどもは付かず離れず、ことさら攻撃をしかけてくるわけでもなく、ラムネラ達の周囲を包囲しつつも追跡してくる。
「どのみち、このままではじり貧だ! キルキ、やるぞっ!」
向き直り四面体の聖遺物――四光の効能の一つ聖御を発動する。正四面体の白銀の結界を張る。これでアンデッドどもはおいそれと侵入はできなくなったし、多少なりとも時間を持たせられる。
あとは――。
「……」
キルキをちらりと見ると、彼女は大きく頷き、長剣を鞘から抜き放つ。
「やってやるわ」
キルキの武器、あれもラムネラの四光同様の聖遺物であり、四光とは相性がすこぶるいい。一見長剣だが、あれは聖属性の力を斬撃に乗せるという特殊効果がある。
この結界は四光が元となっており、移動自体が可能だ。結界内から奴らに向けて斬撃をありったけ浴びせつつ、後退していけばいい。
もっとも、四光の発現には精神の集中を要するから、普段通りには移動できまいが、それでも着実に逃げられるのは大きい。
これはある意味、前門の虎に、後門の狼をぶつけるような手段ではあるが、同じ怪物のカイ・ハイネマンならこのアンデッドどもも倒せる蓋然性が高い。
キルキの長剣に白銀色のオーラが集中していく。
「はッ!」
白銀色の斬撃がちょうど首なしアンデッドの一匹に向かう。首なしアンデッドはそれを煩い虫でも叩くがごとく、右手ではじいてしまう。
「え?」
「は?」
ラムネラ達が頓狂な声が上げたとき、眼前の首なしアンデッドの姿が消えていた。
「ラ、ラムネラ!」
口をパクパクさせてラムネラの背後を指さすキルキ。とっさにラムネラが振り返ると、そこには安全地帯のはずの白銀の結界内には首なしアンデッドがいたのだ。
「ば、馬鹿な――」
驚愕の言葉を叫ぼうとしたとき、鳩尾付近に強い衝撃が加わり、ラムネラの意識はあっさり刈り取られる。
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