第6話 勇者側の事情
――バベル北部の高級住宅街。
世界各国の王侯貴族や豪商の子息子女。そこはバベルでも一部の選ばれたものみが入ることが許された超が付くセレブタウン。
その絢爛豪華な大きな屋敷の一間で、アメリア王国第一王子ギルバート・ロト・アメリアは、円形のテーブルを蹴り倒し、
「くそっ! くそっ! くそぉぉっ! 僕は王子だぞっ! この僕を――無能の分際でぇぇぇーーーーッ!!」
怒りのままに激高する。
王子のギルバートが、大衆の面前であんな屈辱を受けたのだ。カイ・ハイネマンは当然、死罪。
しかし、カイ・ハイネマンはやりすぎを理由に、奴の主人であるローゼとともに厳重注意と罰金を受けるにすぎなかった。
逆に、一連の騒動につき、ギルバート側に主に非があるとして、一週間の謹慎処分が科せられてしまう。
「ローゼ王女のロイヤルガードのカイ・ハイネマンねぇ。あんたの上級騎士、えーと、確かぁ……あー、タムシ、違うなぁ――そうだ! タニシ君だ!」
赤色の髪をツーブロックにした優男が、パチンと指を鳴らして叫ぶが、
「タムリ上級騎士です。
すかさず、長い髪を後ろで束ねている金髪の女性が訂正する。
「そうそう、タムリ君。彼って一応、ギルのお気に入りだったし、それなりに強かったんだよねぇ? じゃ、彼を圧倒したカイ・ハイネマンって実は強かったってこと?」
ヒジリのこの指摘に好奇心が刺激された室内にいるメンバーは好き勝手に話し始めた。
「カイ・ハイネマンって、【この世で一番の無能】とかいう、冗談のようなギフトホルダーだろ?」
「ああ、神に最も疎まれ、見捨てられた無能の背信者。それが仮にも上級騎士に勝つ? とてもじゃないが、信じられんな」
「大方、卑怯な手を出も使ったのでしょう? 要するタムリが無能すぎたってことでは?」
髪をツーブロックの優男はパンパンと両手を叩くと、背後を振り返り、
「で? サトル、君はどう思った? 一度彼と会っているんだろう?」
黒髪の美少年に興味津々に尋ねると、
「雑魚だよ! 王にゲラルトと戦うように指示されて、何もできず震えていたくらいだからな」
口を尖らせて叫ぶ。
「少なくともゲラルト君よりは強くないーと。なら、俺達には勝てんよなぁ。ねぇ、マシロ?」
ヒジリが意見を求めた先には、艶やかな黒髪を長く伸ばした美少女が座っていた。
「ええ、当面、計画に支障はないと思う」
黒髪の少女マシロはそう静かに断言する。少女のこの発言だけで、
「流石は勇者様! 何と心強い!」
「これで我らの勝利は確実!」
「魔族を一匹の残らず、駆逐できる!」
安堵の声が至る所から上がる。
「で? カイ・ハイネマンはどうする?」
ツーブロックの男、ヒジリの疑問に、
「もちろん――」
ギルバートが口を開こうとするが、
「放置よ」
それを遮るかのようにマシロがそう言い放つ。
「ふざけるなっ! 奴はこの僕に特大級の不敬を働いたんだぞっ! 絶対に殺すっ!
出なければ、諸侯にも示しがつかんっ!」
「ダメ。カイ・ハイネマンはレーナとキースの幼馴染。我らが彼を殺せば、下手をすれば二人を敵に回すことなる」
「そんなもの、闇討ちでもなんでもすればいいだろっ!」
呆れたようにマシロは大きなため息を吐くと、
「あのね、貴方たちの独断専行で、あの宰相に目を付けられたの忘れたの? このタイミングでカイ・ハイネマンを闇討ちしても十中八九、失敗する。もし、そうなれば、それは公になり、レーナとキースの信頼を決定的に失い、二人は私たちのチームを去る」
幼子を諭すように語り掛ける。
「くそっ!」
ギルバートは怒り心頭でソファーに腰を降ろす、床を足裏で何度も打ち付け始めた。
「レーナとキースは対魔族戦の要。絶対になくてはならない人材よ。私情なら貴方が王位を承継し、魔族を駆逐した後、存分に粛清しなさいな。それからなら、私たちはいくらでも力を貸すわ」
マシロはそう言い放つと、一同を眺め観ると――。
「私たちの目的は魔族と魔物の絶滅、ただ一つ。それこそが人類共通の使命!」
声を張り上げる。一斉に胸に手を当てる騎士たち。
「魔族を殺せ! 魔族の街を壊し、田畑を焼け! 魔族なら女子供も関係ない、一匹残らず駆逐せよ! 正義は我らにこそあるッ!」
マシロの声に騎士たちの咆哮が上がった。
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