超難関ダンジョンで10万年修行した結果、世界最強に~最弱無能の下剋上~(最弱で迫害までされていたけど、超難関迷宮で10万年修行した結果、強くなりすぎて敵がいなくなった)
第40話 生涯をとして遂げるべき目標 オボロ
第40話 生涯をとして遂げるべき目標 オボロ
オボロを先頭に朱鴉総員で頭部が獅子の怪物、ネメアの後を付いていくと、草原のような空間に運ばれる。
ネメアはオボロたちの前に立つと、
『守護する者が、守護される者より弱くては話にならん! 貴様らは今からここで修行に励んでもらう。心配するな。ここはノルンの領域、時間の流れが外界とは全く違う。ここなら、気が済むまで存分に修行に明け暮れる事ができる』
そう心底有難迷惑な宣言する。
「時間の流れ? 修行? わけわからんのやが……」
混乱の極致にあるオボロ達など意にも返さず、
『もっとも、貴様ら人間は人種の中でも特に虚弱だ。肉体はもちろん、精神すらもごく一部の例外を除き、150の年を超えれば十中八九死に絶える。良くて性格が全く異なるものへと変質する。要するに、精神の状態を保ったままでのこの領域の修行期間は、精々80年程度しかない。効率よく、かつ、最速で貴様らを実戦で使えるレベルまで引き上げねばならん』
ネメアは得々とわけのわからない妄言を述べる。
「せやから意味がわからんと――」
オボロの批難の言葉を遮るかのように、ネメアは口角を吊り上げると両拳を自身の胸の近くで激しく打ち付ける。吹き荒れる爆風。そして――。
『これは
そう叫ぶネメアの両眼は真っ赤に染まり、表情もギラギラした獣のようなものへと変わっていた。
マズイ! オボロの今まで死地をくぐり抜けてきた危機察知の勘が五月蠅いくらい、今のネメアは危険だと全力で主張していた。
「ちょ、ちょっと待っ――」
『
やはり、オボロの声を遮り、ネメアの声が草原に吹き抜けていく。
突如、オボロ達に眼前に出現する一匹の真っ白で小さな鼠。
『きゅー』
真っ白な鼠が一声鳴くとネメアはオボロ達に人差し指を向け、
『悪食、貴様の分身体でこいつらと遊んでやれ。あー、こいつらはお話にならぬほど弱い。決して殺すなよ。それは御前の御意思だ』
『きゅきゅ』
真っ白な鼠は右手を上げて可愛らしく鳴いた。
満足そうにネメアは数回頷くと、今も話についていけていないオボロたちに、
『では最初の修行だ! この悪食の分身体を一体でもいいから倒せ! 心配するな。食われたら直ぐに修復させてやる』
「食われたらって、こないな鼠に――」
オボロの言葉は背骨に杭が打ち込まれたような激痛により、最後まで続かない。眼球を動かして確認すると、自身の右腕が根元から引きちぎられ、鮮血がまき散らされていた。
『仮にも悪食は我が
「うああああああぁぁーーーーーッ!!」
絶望をたっぷり含有したオボロの絶叫が響き渡り、地獄の修練は開始される。
◇◆◇◆◇◆
どれくらいの年月が経過しただろう。あの白色の鼠は強かった。いや、強いという表現すらも正確ではないかもしれない。今なら断言できる。あの白鼠は、あのオボロ達にとって強者だったデボアなど問題にならぬほどの圧倒的強者。当然抗う事すらできず、数えるのも馬鹿馬鹿しいほど、白色の鼠に齧られる。その度、一瞬でスライムによって傷を全快させられる。こんな狂いに狂いきった生活を送っていた。
人間のどこが一番優れていると思う? それは慣れだ。こんな狂った生活も日常化してしまえば、大して恐怖も感じなくなる。今では部下たちは火が落ちると振舞われる酒(?)のようなものを飲みながら、
「いやー、今日は肩、齧られましたわ」
「俺は右足、早すぎだろ、あの鼠」
「早く外に出て飯を食いてぇよな。ほら、この空間って腹自体すかねぇからさ」
まるで仕事終わりにエールを煽りながらする世間話のような軽すぎる会話をしている。もうこの段階でオボロ達、朱鴉は随分変質してしまっているのだと思う。
さらに月日が過ぎて、オボロ達は遂に「悪食」の分身体の一体を討ち果たす。
不思議と歓喜や感動はなかった。ただ、この長かった生活も終わり。それに皆、楽しかった祭りの後の虚しさのようなものを感じていたのだ。
ネメアは比較困憊で地面にへたり込んでいるオボロ達を眺め、満足そうに目を細める。
『よくやった。これでようやく貴様らは人を超えた。人間としては、物がいいからだろうな。想定よりも大分早い。これなら具体的な修行に入れるというものだ』
そんなこの空間に入る前のオボロ達なら絶望で悲鳴の一つも上げるような言葉を吐き出す。
「具体的な修行? これで終わりやないのか?」
思わず尋ねかけていた。
『これで終わり? 馬鹿をいうな。今までは修行に耐えうる肉体を創るためのただの前座。今からが真の修行だ』
そのネメアの言葉は、干上がっていたオボロ達の心の器に活力という名の水をたっぷりと注いでいく。あの怪物ネズ公すらも前座なのだ。オボロ達が向かおうとしている先は、おそらく人間、いや、人族、魔族、竜人族、龍族、幻獣族、魔物、この世界の
「わいらはどこまで強くなれるので?」
今唐突に湧き上がった疑問を口にしていた。
『それは貴様ら次第だ。貴様らのライバルどもは既に数段先のステージに進んでいる。ま、あれらは、人としては少々特別かもしれぬがな』
先のステージか。それは大層面白そうだろうなぁ。そんなぶっ壊れた己の思考に思わず苦笑してしまう。
「その強くなった先にあるものは?」
『決まっておるだろう。至高の
至高の
この空間では睡眠などいらない。故に僅かな休憩以外、バケモノ鼠の討伐という試練に明け暮れていたせいで、戦い以外のことを考える余裕など一切なかった。だが、一つの使命を成し遂げ、心にゆとりが生じたせいだろう。オボロはこの狂った空間に連れてこられて初めて、当初の疑問に立ち戻っていた。
(あのお人、ほんまに何もんなんやろうな)
普通に考えれば、ネメア達超常者たちの長である以上、人ではなく超常者ということになる。少なくともこの修行を始めるまでは、オボロはそう考えていた。ネメア達の発言からもそう考えるのが自然だし、何より、人にはあんな絶望的な強さがあるはずがない。だからネメアも、カイ・ハイネマンはネメア達の同類と見なしているのだろうし。
(しかし、あのときカイ・ハイネマンは確かに、己を人と言っていた)
そうだ。オボロが尋ねるとカイ・ハイネマンは一切の躊躇なく自身を人と言ったのである。
(いやいや、そんな馬鹿なことが……)
カイ・ハイネマンが人。それは到底あり得ぬ事実。しかし、オボロの勘はあのときのカイ・ハイネマンのあの言葉には嘘偽りはなかったと結論付けていた。
オボロは貧民街出身の自他とも認める悪党だ。幼い頃から命懸けでだまし合いを繰り広げてきたのだ。他者の偽りの言葉など死ぬほど見てきた。だからこそ、断言できることもある。あのカイ・ハイネマンの発言は真実だと。
「くはっ! けはっ!」
自然にオボロの口から熱の籠った笑いが漏れる。
そうだ! きっとそうだ! ネメア達の前でオボロのこの見解を口にすれば確実に殺される。それでも、この結論はきっと正しい。そう素直に確信できていた。
「かはっ! くはははっ! まさか、そんなこと馬鹿なことがあるとはな!」
ああ、ホントに狂ってしまいそうだ。どうしょうもないくら引き付けられる! まさか、人の身でこの目の前の超越者たちを超えてみせるとは!
もし、カイ・ハイネマンが神や悪魔のような人外であったなら、ここまでのオボロの人生観を変えてしまうような凄まじい崇敬の念は覚えなかっただろう。だが、カイ・ハイネマンは人。そのちっぽけで矮小な最弱な種族という極めて大きなハンデがあった。なのに、なのに、それをあの人は超えてこの世で最強の存在へと到達したのだ。それに――。
「カイ様、貴方はすげぇ! ほんまに最高や!」
涙がでるほど焦がれ、憧れた!
そうだ。冗談じゃない! あの人の一番槍をこのまま超常者どもに任せておくものか! いつになるかわからない! 絶対にあの人を支える一番の使い手になって見せる! なれるはずだ! 我らが崇敬の主はそれを成したのだから!
「ネメアさん、早く次の修行を!」
オボロは生まれて初めての魂からの懇願の言葉を叫んだのだった。
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