第22話 タオ家VSネオケルベロス隊

 ――アキナシ領南部居住区


「なぜ、こんな街のど真ん中に、こんな凶悪な魔物がいるネッ!」


 黒髪を御団子頭にした【タオ家】の総帥――リンリン・ラーファンは、もう何度目かになる疑問の言葉を叫ぶ。

 背後を振り返ると、複数の三つの頭を持った犬どもがこちらに向けて走ってきていた。

 あの三つ頭の犬どもは、各頭部の口から、蒼炎、氷、竜巻を吐いてくる。さらに黒色の落雷のオマケつき。

 あんな凶悪極まりない魔物など、今まで一度たりともお目にかかったことはない。これが、魔物の巣窟である秘境や、遺跡ならまだわかる。だがここはアキナシ領の街の中。周囲の民家には、現に灯りが灯っているのだ。人が生活しているのはほぼ確定。

 だとすると、この街は、このリンリンたち【タオ家】すらも圧倒できる魔物を番犬替わりに使っていると? そんなのあまりに馬鹿げている。というか、狂気の沙汰だ。

 だが、それを成し得る以上、ここの住民どもは少なくともこの怪物どもを飼いならすだけの力があるといういうこと。


(どうりで、こんな辺境で魔導書の取引がされるわけヨ!)


 もっと、慎重に進めるべきだった。

 唐突な辺境の鉱山都市での伝説級の魔導書の取引の噂。ローゼマリー王女の長期滞在に、まるで申し合わせたような裏の三大勢力のこの地への終結。

 改めて考えると、どれも異常極まりない事態ばかりだ。伝説級の魔導書という極上の餌のせいで、冷静な判断能力に欠いていた。

 そして、この街で開始された悪質極まりない遊びから言って、リンリンたちは、まんまと餌にかかってしまったのだ。

 でも誰が仕組んだのだ? アメリア王国王女、ローゼマリー・ロト・アメリアだろうか? いや、あんな尋常ではない怪物どもを一介の王女ごときが使役できる道理はない。

 

「総帥、これ以上は皆、限界デス!」


 それはそうだろう。あの悪魔どもにかれこれ3時間近くも追い回されているんだ。【タオ家】の構成員は体力自慢が揃っているといっても限度がある。


「陣形をとるネ! 気張るが、ヨロシ!」


 立ち止まり、汗を拭って腰の愛刀を抜いて、その剣先を奴らに向ける。


「ハッ!」


 総員決死の覚悟であの悪魔どもに武器を構える。

 案の定、忽ち、数十もの化物犬どもに囲まれてしまう。


『控えよ! 控えよ! これは、偉大なる御方おんかたからの指令である!』


 周囲を飛び回る小さな黒鳥が叫ぶ。同時に、三ッ頭の犬ども群れが割れて、書簡スクロールを咥えた黒色の子犬がこちらに向けて歩いてくる。そして、書簡スクロールを放り投げた。

 それをリンリンが受け取ったとき、嘘のように今まで包囲していた怪物どもは姿を消してしまう。


「なんなの……ネ?」


 急すぎる事態に上手く頭がついていかず、暫し、リンリンは茫然と立ちすくしていたが、


「総帥ッ!」


 部下の裏返った声に現実に引き戻され、リンリンは震える手で書簡スクロールを開く。

 そこには――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る