第7話 情報の適切な使い方その2

 約一週間後、目の下に隈を造ったお姫様が姿を見せる。髪はボサボサだし、眼球は真っ赤に血走っている。こんな姿、件の賢者君が見ればきっと百年の恋も冷めかねないぞ。


「王都の情報屋にコンタクトを取ってください」

「ローゼ様! そんなゴロツキに会うなんて危険ですっ!!」


 案の定、血相を変えてアンナが翻意の言葉を叫ぶがローゼはそれには答えず私に近づくと、


「どうせこれもカイの思惑の内なのでしょう?」


 はぐらかすなと、有無を言わせぬ口調で尋ねてくる。


「いんや、この結論に行きつくまで当初の想定よりだいぶ遅れているぞ」


 ローゼは私の返答に悔しそうに奥歯を噛み締めると、


「案内してください」


 怒ったように強い口調で叫ぶ。


「了解だ」


 私は椅子から腰を上げて、ムジナの元まで歩き出す。


 

黒色のローブを羽織った少女、ムジナにくだんの情報を伝えるよう求めると、

 

「旦那ぁ、それはもう教えただろう?」


 相変わらず、悪質な笑みを浮かべながら、ムジナは肺にたっぷりと吸い込んだ煙を、吐き出す。

 隣のローゼが、すごい目で睨んできていたが、ガン無視し、


「もう一度、この女に教えてくれ。料金は別途払う」


 今回の計画に必須の情報を依頼する。


「はいよー」


ムジナは目を細めてローゼを凝視すると口を開き始める。



「義賊、風猫ふうみょう……」


 ローゼは腕を組んで考え込んでしまう。いつも思うがすごい集中力だ。この様子ではこの情報の持つ意義も十分正確に理解できていることだろう。御姫様のわりには中々柔軟な思考を持ち合わせているようだ。


「旦那ぁ、随分嬉しそうだねぇ」


 ニヤケ顔で私を見るムジナに肩を竦めると、


「まあな」


 軽く顎を引く。王の選定は私にとっても僥倖だ。なにせ四、五年で結論がでる。さらに言えば、この女が女王に即位すれば私は晴れてお役御免になれる。私のスローライフのためにも、是が非でもローゼにはこの勝負に勝利してもらわねばならぬ。

 ムジナは私とローゼを見比べていると、


「旦那たち、本当に面白そうだね」


 そんな素朴な感想を述べたんだった。我らは良くも悪くも目立つ。どうせ私達のことはこいつには筒抜けだろう。こういう手合いは、信用は微塵も置けない。だが、少なくともこいつが情報屋としての矜持を持ち合わせている限りは取引相手たり得る。


「考えるのは後だ。いくぞ」

「はい」


 聞こえているのかいないのか、ローゼは心ここにあらずの返事をすると歩き出す。

 私もムジナに金を払うとそのあとを追う。


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