第三章 悪竜討伐編

第1話 王都到着

 あれから二日ばかりバルセに滞在した後、私達は当初の予定通りアメリア王国へと馬車で出立していた。


「あれがアメリア王国の首都、アラムガルドだよ!」


 アンナの指の先には広大で高い城壁が見える。あの城壁の内部が王都圏というわけだ。あんな巨大な城壁を築くとはまったくもって恐れ入る。ま、純粋に感心するというより、開いた口がふさがらない。そういった類のものであるわけだが。


「わぁ~なのです!」

「わぁーー」


 ファフとミュウが馬車から身を乗り出して互いに歓声を上げる。

 精神年齢が近いせいか、二人は忽ち姉妹のようになってしまった。そして長女役がアンナだ。アンナは今やローゼの警護の合間に二人の世話をしている。最近では口調まで別人のように柔らかくなり、よく笑うようになった。きっと、今の彼女が本来の彼女なんだと思う。

 子供はよく見ている。ファフは当初、アンナを相当警戒していたが彼女に悪意がない事を知ると次第に懐き、今や、私やローゼの次くらいにべったりしている。


「カイ、王都に到着したらどうします?」

「まずは母上殿に会うべきだろうな」


 約10万年ぶりの再会なのに、顏や思い出だけははっきりと覚えている。そんな、奇妙な感覚なわけだが。

 うむ、今の私は変質しきっている。上手く接する自信は――ないな。


「そうですね。当分は王都に留まるつもりですし、親子水入らずで過ごしてください」

「いや、単に顏を見せるだけだぞ」


 今の私は癖や言葉遣い、性格等、昔の私とは全くの別人だ。そんな相手と僅ながらも共同生活など母上殿も御免被るだろうしな。


「相変わらず素直じゃないですねぇ」

「いんや、私はいつも己の意思に忠実だよ」


 この10万年間、ずっとそうしてきたし、これからもきっとそうだろう。


「はいはい、取り敢えずそうしておきましょう」


 呆れたように首を竦めると、ローゼは王都に視線を移す。

 故郷の王都を見るローゼの顔一面に浮かんでいたのは、古巣に帰還したことの安堵ではなく敵地に足を踏み入れるがごとき緊張だった。

 この尋常ではない様子からいって、この王都はまさに魔都に等しいのだろう。面倒なことにならなければいいがな。


 このとき私の頭の片隅に浮かんだ不吉な危惧。それは直ぐに見事に的中し、私の生活は益々己が渇望するスローライフの日々から遠ざかっていくのである。


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