閑話その1 カイの楽しい上層探索
――ゲーム開始から6433年
落雷ゾーンはひっきりなしに落雷が降り注ぐ階層。
雷の耐性以上の能力でも有していなければ、そもそも歩くことすら許されぬ死地。
私も長い年月をかけて【雷同化】を獲得して、初めてこの地の探索を開始した。
現在、ゴツゴツとした岩山と荒れ地しかない場所をひたすら前に突き進んでいるところだ。
雷の雨の中、私の背後から急降下する数匹の雷の鳥を炎剣で一閃すると燃え上がって塵となる。
「うむ、またこの箱か……」
岩影に隠れるようにして鎮座する二個の金属の箱に、大きなため息を吐く。
どういうわけか、このダンジョンには一見して豪奢な箱が置かれているのだ。その中身はポーションという回復アイテムや、便利アイテム、特殊な効力を有する武器など様々であるが、中には特殊なものも存在する。
炎剣の先で金属の箱の蓋を開けようとすると――。
『ぎぎぎぎゃぎゃぎゃッ!!』
金属の箱がグニャリと巨大な口に変形し、私を飲み込まんと襲い掛かってくる。
「鬱陶しい」
その口を炎剣で一撃のもと両断する。
そう。この金属の箱はこのように、口となって齧りついていきたり、魔物の姿となって襲い掛かってきたりすることがある。いわゆる罠という奴なのだろうが、魔物の気配を消せてないから全く実効性に欠いている。
まったく、私を喰らいたいなら気配を消すくらいして欲しいものだ。こうもあからさまだと、不愉快なだけだぞ。
舌打ちをしつつ、もう一個何の変哲もない金属の箱を開ける。そこには、手袋が入っていた。
―――――――――――――――――――――
★雷獣の手袋:大気中の魔力を用いて雷の獣を創り出し操作し得る。
・ランク:上級
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雷の獣を創り出せる手袋ね。剣士の私にとっては有用性が感じられん武具だな。
これもアイテムボックスに放り込んでおくとしよう。
「大分きたし、そろそろ終わりも近いと思うんだがね」
この100年間ずっと階層も変わらず、同じ景色を歩き続けている。強者ばかりならよかったのだが、ここの階層にもはや私の敵はいない。流石に飽きが来ているし、次の階層に進みたいものだ。
そんなとき、遠方に巨大な滝が見えた。どうやら目的地のようだ。
そこは周囲を滝により囲まれた円柱状の構造物だった。円柱の下の滝の水底には大きな魚やら爬虫類のようなものが無数に蠢いていた。ほう、わざわざ、ご丁寧に滝の水底にも敵を配置してくれたというわけか。
面白い! 実に面白い趣向ではないかっ!
高鳴る胸に意気揚々とそこへと繋がる岩の橋を渡ると、その石の円柱の上面には数メートルに及ぶ一匹の全身に雷をまとった虎が荘厳にも佇んでいた。
とりあえず、あれと戦えということか?
『上層最終試練、【雷虎王】を倒せ、が開始されます』
案の定、頭の中に響く無機質な女の声。さて、まずはこの虎が私の好敵手となりえるかだが……むりであろうな。奴からは雑魚臭しかせん。それよりも、下のあの魚やら爬虫類の方がそそられる。というか、ビリビリと強者の威風を感じるぞ。これはもう決まりであろう。
雷を纏った虎は私に向けて地面を疾駆し、跳躍。その鋭い牙を私の喉首に突きつけようとする。
「【
私の静かな言霊を最後に、【雷虎王】はバラバラの破片まで分解される。
私は早速、この度の試練のメインデッシュへ向けて歩いていく。
『【雷虎王】の討伐を確認――』
頭に直接響くいつもの抑揚のない女の声が、あの虎の討伐を宣言したとき、私は滝の水底へと飛び降りた。
『ふぇ? はぁぁーーー!? ちょ、ちょっと待ってよ!? あんた絶対におかしいってっ!?』
落下途中、頓狂な女の喚き声が聞こえたような気がしたが、それも私の殺意により塗り替えられていく。
魂が沸騰するような素晴らしい闘争だった。滝壺の下の魔物どもはいずれもあの【雷虎王】など問題にすらならない圧倒的強者だった。幾度も死にかけ、残りのエリクサーが最後の一本となったとき、ようやく私は滝壺の魔物を殺し尽くした。
今は最後のエリクサーを飲んで回復したのち、あの円柱をよじ登ったところだ。
『じょ、上層最終試練がクリアされました。ら、【雷虎王】の討伐及びスーパーレア条件の成就を確認。特別クリア特典が出現します』
いつもの感情のない声とは一転、やけにドモった女の声が頭の中に響き渡り、円柱の中心に細長い金属の箱が出現する。
ほう。どうやら、あの雑魚虎を殺したことで、特典をもらえるようだな。しょせん、雑魚だし、どうせ大したものではないだろうがね。
その金属の箱を開けると、今まで目にしたこともない形態の武器が入っていた。
「これは、剣か?」
多分、剣なのだろう。手に取って振ってみると、驚くほどよくなじむ。即座に鑑定をかける。
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★雷切: 雷または雷神を斬ったとされる異界の刀剣、ニホントウ。
・ランク:伝説級
―――――――――――――――――――――
異界の剣か。この手に馴染む感じ。これは新たな私の相棒になりそうな予感がするぞ。あの虎の魔物、雑魚にしては中々役に立ってくれるではないか。
私は満足気に何度も頷くと、刀身を鞘に納めて腰に括り付けると、探索を再開すべく歩き出した。
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