第22話 渋谷における探索者の日常・下
異世界と化した渋谷には月ぎめワンルームマンション、なんてものはない。食事代と合わせて宿代も悩みの種だ。
今は渋谷スクランブル近くのホテル、いまは探索者の宿、になっているところで、続きの二部屋を借りている。
今はセリエとユーカは風呂に入っていて、風呂場からユーカのはしゃぐ声が聞こえる。
もちろん普通には機能しないから
ガルフブルグでは水浴びとかしかしてなかったらしい。貴族出身のユーカも湯浴みくらいがせいぜいだ。
なので、お湯をいっぱい使ったり、バスタブ一杯にお湯をためて湯船につかるってのは初めての体験だったらしい。
正直言って、一番コンスタントに稼ぐ方法は僕が
危険はないし、需要はあるはずだし、生活は安定すると思うけど……毎日ホテルに籠って、希望者がいれば風呂を沸かすってのは、あまりに志が低いというか、能力の無駄使いというか。
「お兄ちゃん、気持ちよかったよ」
「ありがとうございます、ご主人様」
考え事をしているうちにセリエとユーカが風呂からあがってきた。
◆
風呂であったまったユーカは早々に寝てしまった。
セリエは頑なに僕より先に寝ようとはしない。メイドのたしなみらしいが。
「なんか、いいアイディアはないかな?」
セリエに声をかける。売れそうなもの、といっても異世界で何が珍重されるのかは僕にはわからない。
セリエは湯上りで、肩くらいに切りそろえた髪がしっとりと濡れて照明を跳ね返している。
いつものメイド衣装っぽい服ではなく英語のロゴが入ったラフな感じのロングTシャツをワンピースのように来ている。たぶんどこかのカジュアルファッションの店から取ってきたものなんだろう。
短めの裾から白い太ももがのぞき、ちょっと広めの襟ぐりからは華奢な鎖骨が見える。
衝動的に押し倒したくなるんだけど……最初に紳士面しなのが悔やまれる。
でもキスをねだってきたし、案外押し倒してもOKとかだったりするんだろうか
「どうされましたか、ご主人様」
「いや、何でもない」
黙り込んだ僕の顔を覗き込むようにセリエが顔を近づけてきた。
目の前に桜色の唇が迫る。キスくらいは許されますか
「なんか売れるものって思いつく?」
ヨコシマ衝動をかろうじて抑え込む。
「私からすればこのシャンプーというのも驚異の産物です」
セリエが濡れた髪をいじりながら言う。
「髪をきれいにする石鹸なんて想像もしてませんでした。
鏡を見て驚きました。こんなに私の髪がきらきらしてきれいになるなんて。
お嬢様の髪もホントに綺麗になりました」
なるほどね。
僕らには珍しくもないものだけど、ガルフブルグの人にとっては珍しいものなのか。消耗品くらいなら簡単に探してこれるからいいかもしれない。
「それと、僭越ながら申し上げますと」
「なに?」
「あの最初にお会いした時に頂いた不思議な味の料理。
あれも売り物になると思いますが。いかがでしょうか」
レトルトのパスタソースか。レトルトカレーとか、お湯であっためれば食べれるレトルト食品は相当数ある。
改めて思い出すと恵比寿のコンビニでも飲み物とかは持ち去られていたけど、レトルト食品は棚に放置されていた。たぶん食べ方が分からなかったんだろうな。
「いいアイディアだ。売り先を探してみようか」
「お役に立てましたこと、うれしく思います」
セリエがぺこりと頭を下げる。
そうと決まれば明日にでも行動開始だ。
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