第76話 帰省
「おお、本当に別の場所に移動した!」
転移装置により、一瞬のうちに見覚えのない場所に出た。
「どこでも〇アみたい」
何だそれは。トーキョーには似たような装置があるのかもしれない。
「ここは、レッドの屋敷か?」
転移してきた先はレッドに与えた屋敷の中の様だ。レッドに与えはしたが、殆ど城に居たので、この屋敷を使っている様子は無かったが、こういった事に使っていたのか。
「アル様、お帰りなさいませ。昨日もお楽しみでしたね」
この声と言い方は。
「レッド! じゃないな。お前は誰だ」
レッドに似ているが、レッドを少し若くした青年が立っていた。
「アルちゃん。この子は私達の長男よ。イエローって呼んであげて」
「以後、お見知りおきを。父に代わりまして、アル様を見守る任を承りました」
「いらん」
「そう言われず。夜の営みから、昼の逢瀬まできちんと覗――じゃなくて、見守らせていただきます」
今、覗くって言っただろう。こいつ流石レッドの息子だ。そっくりじゃねえか。
「おい、イエロー。先に言っておくが、俺の邪魔をするなよ」
「そんな事、する訳ないじゃないですか。心外でございます」
レッドとやっと別れられたと思ったのに、今度はそっくりなイエローに付き纏われるのか。俺は呪われているのか? 一体誰に。もしやレオナルドか! そう言えばそんな奴もいたな。
「師匠。師匠のお家はこの近くなの?」
「あ? 言って無かったか? 俺はこの国の王だぞ」
「えー。何言ってんの? 王様が国外をうろついてる訳ないじゃん」
えっと。そう言われるとそうなんだけど、俺の場合はうろついちゃうんだよな。だって、城に居ても仕事無いし。
「本当だって。あの城が家だぞ。あそこに皆いるはずだ。アイシャと子供達は元気かな」
約1年ぶりの帰宅だ。
「ただいま。帰ったぞー」
しーんとしていて、何の物音も聞こえない。それどころか人の気配すら感じない。
「師匠、誰も居ないよ」
そんな馬鹿な。
いつもアイシャがいるはずの執務室へ行ってみる。誰もいなかった。その後、一部屋ずつ調べていくが、誰もいない。それどころか私物すら残っていない。
皆、どこに行ってしまったんだ。
「トウカ、母さん。皆いなくなってしまった。何があったか分からない。町の住人達に何があったのか聞きにいこう」
「分かったわ。早くいきましょう」
急いで、城を出てすぐの城下町へ来ていた。住人達は普通に生活していることから、何か緊急事態が起こっている訳ではなさそうだ。
最初にすれ違った、神鳥族の女性に声をかける。
「すまないが教えてほしい事がある」
「あら、王様じゃないですか。生きておられたのですね――あっ、すみません。この所お姿を拝見しておりませんでしたので、宰相様に殺されたんじゃないかって噂で聞いたもので。そしてその宰相様も弟君に……」
うわ、1年旅に出たら殺害された事にされてた。噂、怖っ。
「ちょっと他国に旅に行ってただけだ。それよりも城に誰もいなかったんだが、皆が何処に行ったか知らないか?」
「誰もいない? そんな訳ありませんよ。家の主人だって朝からお城に勤めに参りましたよ。ほら、衛兵もお城を巡回されてるじゃないですか」
そう言って、俺達が出てきたお城とは街を挟んで間反対の方向を指す。
えっ、あっちにうっすらと見えるのって城なの? あまりにも遠くにあり過ぎて俺の目では何があっちにあるのかとらえることができない。この1年で大きくなり過ぎじゃないの。俺が旅立った時の10倍くらいあるんだけど。
この距離を見えるなんて、この方、恐ろしく目がいいな。
「お城って移動したの?」
「はい。一月ほど前に」
そういう事だったのね。
「おい、イエロー。お前知ってたんだろ」
「はい。当然でございます」
「だったら教えろよ!」
「いえ、邪魔はするなとアル様がおっしゃられましたので」
それは邪魔じゃないだろうが。明らかに必要な情報じゃねえか。にやにやしながら回答している時点で、ワザとだろ。この野郎。
「アル様、いくらアル様でも、殺気のこもった拳では私に当てることはできませんよ」
ひょいと躱された。くそっ。俺はこいつにも勝てないのか。
仕方がないので、悔しさを地面にぶつける。
「こらー。誰ですか街を壊そうとしているのは」
俺が殴ると、地面にいくつもの亀裂が入った。その直後、ミリアにあげた棍棒をもった少女が現れた。
「お前、アリアか?」
「あら、そういう貴方はパパじゃないですか。生きていらっしゃったんですね」
えー。一年ぶりに会うのに冷たくない。
「取りあえず、器物損壊の罪で連行いたします。無駄な抵抗は止めて大人しくお縄についてくださいね」
えー。俺、一応王様だよ。捕まっちゃうの?
「何ですか、何か文句がおありですか。文句があるのでしたら、法廷で述べて頂けますか。貴方には黙秘権が行使できますが、法廷で虚偽を述べることは許されませんので、覚えておいてください。さあ、パパ立ってください。警察へ連行されていただいます」
「ちょ、ちょっと、アリアちゃん。まって、棍棒で殴らないで」
「ほら、早く行きますよ」
「分かったから、ついて行くからそれをしまってくれ。危ないでしょ」
「ちょっと、師匠何してんのよ」
「アルちゃん、街を壊しちゃダメでしょ」
「バカな男だニャ」
くっ、誰も助けてくれないのか。イエロー助けてくれ。くそっ、すでにいねぇ。なんて奴だ。
「ほら、パパ。早く進んでください」
アリアに急かされて、この1年で滅茶苦茶でかくなった街を歩くのだった。
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